【6】俺は別に抵抗する気もないけど
画面の中ではピエロがニヤニヤ笑っている。前のパターンと同じだとすると、命令しないまま一定時間が経過すれば、これがカウントダウンに変わる。
平之季君が言う『なんか思い切った命令』とは、何だろう。見当もつかないが……あまり酷い命令をされるのは、怖い。
その命令を実行するか、拒否するかは、命令対象になった人の自由だ。しかし、拒否したら、死ぬかもしれないのだ。
皆が不安げに視線を交わす。
「じゃあ、えっと、御園君に命令。この部屋の中にいる誰かとセックスすること」
「なっ……！ はぁ！？」
御園君が立ち上がった。
とんでもない発言に、この場にいる全員が唖然とした。
もちろん、私もめちゃくちゃ驚いた。
────セックス……？
そんな単語を、こんな風に人前で口にすることすら、信じられない。
正直な所、『この人、頭がおかしい人なのかな？』くらいは思った。
＜命令が受理されました。臣下は、王様の命令を実行してください＞
画面の表示は命令を実行するパートに切り替わっている。
「おい！ お前、どういうことだよ！」
怒気を顕わに、声を荒らげる御園君に対して、平之季君は飄々と答えた。
「だから、ちょっと思い切った命令にしてみる、って言っただろ。別に、誰とセックスしろ、とまで指定してないよ」
「な、な、何言ってんだよ！ ここにいる俺達は、今日初めて会ったばかりなんだぞ。しかも、こんな場所で、そんなこと、できるわけないだろ！？」
御園君が机を挟んでこちら側、女子が座っている方をちらりと見た。
その視線に、女子一同は震えあがった。
「だったら、しなきゃいいだろ」
「俺に、死ねっていうのか！？」
「いや……。死ぬかどうかなんて、まだ分からないよ。顔に墨でバツつけられて終わりかもしれないし、むしろその可能性の方が高いじゃん。こんなゲームで本当に死んだなんて、ニュースでも聞いたことない」
「────確かに、合コン中の男女8人が死亡、とか、そんなニュースがあったら絶対に騒ぎになるけど、見たことないな」
まるで、平之季君を援護するように、幹事の柳君が言う。
「でも、本当に死ぬかもしれないんだぞ」
御園君は怒りの為か、小刻みにブルブル震えている。
「そんなに、死ぬと信じてるんだったら、俺をレイプするのが、一番いいんじゃない？ 命令をしたのは俺なんだから、襲うなら俺が一番、まぁ、なんていうか、妥当だろ」
「は……、はぁ～～～～？ 何言ってんだよ」
御園君は、混乱でどもっている。
かくいう、私も訳が分からなかった。
御園君に無理難題をふっかけたかと思ったら、自分を犯せばいい、と言う平之季君の発言の意図が、理解できない。
「平之季……、お前、ホモなん？」と、柳君が口を挟んだ。
「いや、バイだよ」
バイ……あぁ、バイセクシャル……。
そういう目で見ると、平之季君は色白で細身で、女性的でもある。実際に平之季君がタチかネコかは知らないが、この発言から察すれば、後者なのだろう。
「どうする？ 俺は別に抵抗する気もないけど。セックスする？」
「ふざけんな……なんでお前なんかと」
御園君は弱弱しく吐き捨て、襖の壁のところに歩いて行った。
御園君が場所を移動したことに、我々女性陣は敏感に反応し、そそくさと、机を挟んで対角線に逃げた。
ガン、ガン、ガン
御園君が、拳で襖を叩く。
襖のように見えるけれど、一枚のプラスチックの壁のようだ。
いつの間に、すり替わったのだろう？ シャッターのように、上から降りてきたのかもしれない。だとすれば、仕組み自体は、それほど不思議でもないか。
「もしもーし！ 開けてくださーい！」
大声を張り上げ、今度は足で壁を蹴り始める。
それが無意味だと分かると、窓の方に行き、机の上にあったメニュー立てをガラスに向かって投げつけた。
だが、窓ガラスは割れなかった。
やっぱり、閉じ込められてる。その確認は、このゲームの真実味を強くさせた。しかし、『本物』────つまり、処刑が、実際の死を意味するのかまでは、いまだにはっきりしない。
嫌な話だけど、やはり、生贄を一人捧げないと、確実な判断できないのかもしれない。
「ねぇ……」
リホちゃんが、マホちゃんに何か耳打ちしている。
内緒話の内容は気になるが、聞こえなかった。
そうこうしているうちに、ディスプレイの画面はカウントダウンを始めた。
────結構、時間が短いな。
命令から、実行に移すまで猶予は3、4分程度、だ。
このカウントダウンは、着手までの時間なのか、達成までの時間なのか、どちらだろう。
もし、後者ならば命令されたら腹をくくってすぐに実行に移さないと、達成できないこともあるだろう。
少なくとも、あと60秒でセックスは、例え相手が誰だろうと達成不可能だ。
・・・実際のところ60秒でできるかどうかは、別の議論が必要でしょうね。
