表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/28

【5】暗に賛同の意思

 雪見ちゃんが命令をすると、ディスプレイの表示が、切り替わった。

 ピエロは姿を消し、文字だけが映し出されている。


<命令が受理されました。臣下は、王様の命令を実行してください>


 柳君は、素直にその場でジャンプした。

 両足を揃えて垂直方向に、ぴょん、って感じだ。

 すると、再び画面に戻って来たピエロが言った。


『オッケー! ミッションクリア~! じゃあ、早速、次はみんなの投票だ~』


  まさか、この画面の中のピエロに透視能力があるわけではないし、今の行為でミッションクリアになったということは、やはりこの部屋は外部から監視されている、ということだ。

 ぱっと見た感じでは、どこにもカメラは見当たらない。

 私は、カメラを探し出して、壊すことが『運営』への有効な反撃になるか、考えてみた。

 最初に提示されたルールをみる限り、そういう妨害行為は禁止されていない……はずだ。


 ────でも、天井の壁に埋め込まれているとかだったら、簡単には見つけられないだろうなぁ……、一個だけのわけもないし……。


『投票は、今回は挙手制にしよう。まずは全員、目を閉じて。王様を『暴君』だと思う『臣下』は、右手を挙げる。肩より、高い位置に挙げてくれ。そして手を、挙げたままにしておくこと。全員目を開いて結果を確認した後で、手を下ろす。こういう流れだよ。分かった? さぁ、いいかい?』


 ────んっ? えっ? 何、何て言った?


 他のことを考えていたので、ピエロの説明に咄嗟に頭がついて行かなかった。焦りで鼓動が一気に速くなる。


『まずは、眼を閉じて~。王様も、眼を閉じるんだよ』


 素直に、眼を閉じる。ピエロの言うことには従っておいた方が安全側だ。

 しかし、そうか……王様も目を閉じるのか。挙手するのは臣下だけだけど。


『王様を暴君だと思う臣下の人は、挙手して~』


 初回は、きっと、誰も手を挙げないに違いない。私はそう思うけど────どうだろう?


 少なくとも、私は挙手しないことにした。


『はい、手はそのまま~、皆、眼を開けて~』


 恐る恐る眼を開ける。すると、やはり誰も手をあげていなかった。


 どことなく、ほっとする。


 先に聞いているルール上、全員一致じゃないと、王様は『暴君』認定されない。

 今の人畜無害な命令に対して王様を『暴君』と認定するのは、周囲の心証を悪くする以外の効果が無い。


『ということで、今回の王様は暴君ではありませんでした~。処刑者ゼロで良かったね~』


 ピエロが囃し立てる。

 どうやら、これで1ターンが終わったようだ。

 なるほど。こういう流れなのだな、とチュートリアルを経た気持ちになる。


「ねぇ、もう、こんなゲーム止めたいよ。気持ち悪いし。警察に連絡しようよ。閉じ込められてる、ってことは監禁でしょ?」


 ショートカットの女の子の方────マホちゃんは泣きそうだ。


「私、とりあえず友達にメールしたよ。この店まで来てくれるようにお願いした。私達の座敷がどうなっているか、見に来て、って」


 リホちゃんが心強い言葉を発する。


「そっか……。その子に頼んで、お店の人にも確認してもらって、こんなゲームは止めさせてもらえばいいんだ」

「でも、すぐに来てくれるとは限らないから、やっぱり警察にも電話しようか」

「そうだな。その方が良さそうだ」


 幹事の柳君がスマホで警察に電話をかけ始めた。


「なんか、やっぱり嘘っぽいよね…………。警察に連絡したら、怒られちゃうかな」

「わかんない」


 リホちゃんとマホちゃんが囁き声で言った。


 無事に柳君は警察と連絡が取れたらしく、事情を説明して、警察が来てくれる話になったという。


「これで、もう安心だね」

「そうかな? 店の余興にしては、手が込み過ぎてるよ。この部屋を監視して、ピエロを操作して、ってさ。扉が開かない理由はいくつか想像できるけど、それにしたって大掛かりな装置がいる。これが余興じゃないとしたら、警察への対策くらい、してあるんじゃないかなぁ」


 丹藤君は、理論的だ。しかし、少し饒舌過ぎるきらいもある。

 女の子達の不安を煽ってどうするのだろう。もっといえば、何のメリットがあるのだろう。


 王様のくじを引くように表示がされていた画面が変化し、カウントダウンが始まったので、また、皆でディスプレイを回した。


 画面のピエロが言った。


『王様だ~れだっ!?』


「あ、俺です」


『王様』が当たったのは、平之季君だった。


『では、王様は、誰に、何を命令するかお答えくださ~い』


「命令かぁ。どうしようかな……」


 平之季君が感情のこもってない声で呟くのを聞き、何だかこの人、怖いなぁ、と思った。

 そして遅ればせながら、私も「そうか、次は私が王様になるかもしれない」と実感が沸いてきた。


「平之季、どうするん?」


 柳君が尋ねる。


「うーん。なんか、思い切った命令してみよっかな」

「えっ……なんで?」

「別によくない? 警察の介入で終了するゲームなら、実際に人が死んだりしないだろうし、逆に警察の手が届かない案件なら、このまま膠着してちゃ、永遠に終わらないし」

「そうだけど…………」

「だろ? 皆だって、早くハッキリさせたいだろ?」


 そう。確かに、その通りだ。

 私は黙っていた。皆も黙っている。これは、暗に賛同の意思を示していることになるのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ