【4】王様だ~れだ?
「あー……でも、残り3人になった時に、他の2人が王様を『暴君』って決めちゃえば、あとは自分が次に王様になれる確率が2ぶんの1になって、運だけでどっちかが勝っちゃうってことになるのかぁ……確かに、それじゃあデスゲームとしては、運に偏り過ぎかも…………」
「だろ? 3人になってからが面白くなさすぎるんだよ。デスゲームなら、最終局面で上手く盛り上がるようなルールにしないと」
うん。なかなか良いディスカッションだ。
私も、柳君と丹藤君の二人を見習って、頭の中でいくつかのシミュレーションをしてみた。
そうすると、確かに二人が言うように、このゲームのルールだと後半に『運』の要素が強くなりすぎるイメージがついてきた。
まだ、ピエロから提示されたルールに不明瞭な部分があるから、ハッキリしたことは言えないけれど。
「なぁ、画面に……なんか出てるぞ」
一番奥に座っている眼鏡のニキビ面、御園君がタッチパッドを指さす。
見ると、カウントダウンのような数字が表示されている。残り、44秒のようだ。
「えっ、やだっ。早く! 牧野君、早く押してよ」
リホちゃんに急かされて、幹事の柳が画面に触れた。
すると、箱がパッと開く動画の後に、『臣下』という赤い表示が出た。
「俺、臣下、だ。やべぇ」
何がヤバイのだろう……。いや、命をかけたゲームなら、確かにヤバイか……。
しかし王様が出る確率は8分の1だから、サイコロの目を出すよりも難しい。
ゲームをスタートさせてしまったことに、不安を覚える。
しかし、このカウントダウンが切れたら何が起きるか分からないのだから、押さざるを得ない。
<順番に、画面をタッチしてください>
「どうしようか……順番に、ってことは、皆がタッチするんだよな」
「これ、誰が押したか、ってどうやって判別してるんだ?」
丹藤君が横から言う。
「押す順番を名指ししてないからさ。どこかで監視してなければ、普通に考えて誰が押したか分からないだろ?」
うん、うん。
先ほどから、なかなかの慧眼だ。
私達は、キョロキョロと周囲を見渡した。どこかに、監視カメラがあるのかもしれない。
「結局、やってみなきゃ、どうなるか分かんないんじゃない?」
平之季君が、他人事のように言った。彼は、何となく飄々とした雰囲気だ。
この異様な事態を前に、特に慌てる様子もない。
「やだぁ……」
いまにも泣きそうな声をあげたのはマホちゃんだ。
しかし、またしばらくするとカウントダウンが始まったので、次は幹事として隣に座っていた雪見ちゃんが画面に触れた。
すると、今度は『王様』の表示が出た。
最初の『王様』役が当たったのは、雪見ちゃんだった。
画面に、またピエロが現れる。
『王様だ~れだっ!?』
ピエロが両手をパッと開く仕草で、甲高い声を出す。ドキッとして、心臓が跳ねた気がした。
私達の目線は、一瞬雪見ちゃんに集まる。
『では、王様は、誰に、何を命令するかお答えくださ~い』
「えっ…………」
雪見ちゃんは、黙ってしまった。
「雪見ちゃん、どうする?」
「早く決めないと、たぶんまた、時間制限があるんじゃないかな」
「でも……」
画面の中でピエロはにやにやと笑っている。
「あのー、ピエロさん、質問してもいいですか?」
私がディスプレイに向かって話しかけると、皆の視線も集まった。
「もしもーし。ルールで分からないところがあるんですけどー」
しかし、ピエロは一向に返事をする気配がない。
────予め録画してある画像を流してるだけで、一方通行なのかなぁ?
私は、まだこのデスゲームとやらが本物なのか、単なる嘘のレクリエーションなのか、疑っている。
何となく、嘘っぽい気配もある。
なぜか個室の襖や窓が開かない、閉じ込められている、という異常事態ではあるが、それくらいは人為的に実現可能だし、盲目的にすべてを信じるわけにはいかない。
ただ、これが本当なのか、嘘なのかは、確かに平之季君が言った通り「一度やってみないと」分からない。
「雪見ちゃん、試しに誰かに何か命令してみる?」
「……でも……どんなことを命令すれば……」
雪見ちゃんは困ったように眉をひそめる。
「何でもいいよ。誰でもできる、簡単なこととかでも」
助け舟を出すように、柳君が言う。
しかし、私は内心では賛同できなかった。誰でもできる簡単なことを命令して、どんな意味があるのだろう。命令された方はそれをこなして、それで終わりだ。
雪見ちゃんが長らくモジモジしている間、待っている私達もヤキモキさせられた。
「何でもいいよ」と言っても雪見ちゃんは「わかんないもん」とか言うばかりなのだ。
もしも、これがこの店のサプライズイベントで、まるっきり嘘のゲームだとしたら、こんなことに時間を使っているのは本当に馬鹿らしい。
ゲームなんて放っておいて、さっさと飲み食いを始めた方が、余程有意義だ。
「あ、ほら、あと60秒だよ」
画面が切り替わり、カウントダウンが始まる。
このカウントダウンが0になったら、何が起きるのだろう? そっちも知りたい。
「え、ぁ……じゃあ、柳君がジャンプする」
雪見ちゃんは、ようやく重い口を開いた。
実際に合コンで王様ゲームなんてやらないですけどね。(もちろんデスゲームも)。
一生に一度はやってみたい気がしないでもない。(デスゲームはやりたくない)。