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【2】合コンではおなじみ、王様ゲーム

 こんなにも本格的な合コンに参加するのは、久しぶりだ。

 とはいえ、年下ばかり、K大生ばかりのこのアウェイで、私は2時間適当にやり過ごすことになるだろう。


 ────別にいいもんね。いつも久慈さんにはお世話になってるから、頼まれて来ただけだもん。


 そう思いながら、手に持っているサワーを一口飲む。


 ジー……プツン。


 何か、放送が始まる前のようなノイズ音がした。

 突然、部屋が真っ暗になる。


「えっ? 停電?」


 もちろん、停電だろう。しかし、合コンが始まったばかり、乾杯したばかりの、すごいタイミングだ。

 サプライズでも始まって、誕生日ケーキが運ばれてくるのではないか、と想像してしまう。


「お店の人、呼ぼうか……」

「うん」

「やだぁ。これ、下手に動くと、何かこぼしそう~。グラス持ちっぱなしだと、手が冷た~い」

「ちょ、これ、暗すぎない~」


 暗闇の中、女の子のきゃぁきゃぁした声が響く。

 …………それにしても、本当に暗い。居酒屋の個室だから、他に光源が無いのだ。

 私はカバンを引き寄せて、スマホを手探りで探した。


『え~……皆さん、本日はお忙しい中、お集りいただきありがとうございます』


 突然、誰かが慇懃に喋り始めた。人の声だけど、生の声という感じじゃなかった。

 何かと思い、声のする方を見ると、ドリンク注文用のタッチパッドがやけに明るく光っている。


『突然ですが、これからデスゲームを始めます。ルールを説明しますので、この画面を、皆が見える位置においてください』


 結構な音量だったので、はっきり聞こえた。


「へ?」

『この画面を、皆が見える位置においてください』

「何? これ……」


 タッチパッドの光が、雪見ちゃんの顔を照らしている。


『この画面を、皆が見える位置においてください』

「どうしよう、これ……。壊れてるのかな……」


 タッチパッドは同じ文言を繰り返している。大音量のせいか、音割れのような不快音が混ざっている。

 あまりに異様な状況に、全員黙ってしまった。


 結局、幹事の二人の判断で、その画面を言われた通りに皆が見える位置、つまり机の隅に立てて置いた。


『ご準備は宜しいですか。では、皆さん、こちらにご注目ください。あなたがたには、今からここで命がけのゲームをしてもらいます』


 タッチパッドに、ピエロのメイクをした人間の顔が映る。

 眼に星のマークがついた、古典的な赤鼻のピエロだ。


「きゃっ……! ねぇ……、何、これ……気持ち悪い」

「お店からのサプライズだよ、たぶん」


 幹事二人がボソボソと喋る。幹事も、把握していなかった出来事らしい。


『昨今では、おなじみのデスゲームです。皆さん、お若いので、飲み込みもお早いことと思います。念のため、これが冗談や嘘ではないことをお示しいたします。今から5分差し上げますので、この部屋から脱出を試みてください。決して、脱出できないように、あなた方が閉じ込められていることが分かると思います』


 ピエロが言った。

 私は、この時点ではピエロの言う事を信じても、疑っても、どちらでもなかった。

 ただ、言われた通りにこの部屋の出入り口である襖の方に行って、襖を開けようとした。意外なことに、それを真っ先に試みたのは私一人だった。

 確かに部屋は真っ暗だけど、タッチパッドから光が出ているし、暗闇に目が慣れてくれば、これくらいの動作は容易い。


「あ、本当に……開かない……」


 襖を裏からつっかえ棒で固定しているとか、施錠しているとか、そういう感じではない。

 もっと、襖自体が一枚の堅い壁になってしまったような、感じだった。


「えっ、嘘だろ……何、これ。なんで、開かないんだ」


 私の後から皆が来て、それぞれが、同じように襖を確かめる。


「こっちも、開かないぞ」

 と、男子の声がした。

 襖の向かい側には和風の小さな窓がある。そっちを確かめた人がいるのだろう。


「嘘でしょ?」

「何かのトリックだよ。暗いから、それで視界が悪くなってるから、分からないだけで」


 そう言ったのは、私の右前に座っていた……たぶん、平之季君だ。なかなか冷静な意見だ。

 トリックと言うのは言い得て妙で、確かに手品で騙されているような、変な気持ちだ。


 皆で、壁をドンドンと叩いたり、大声で「すみませーん、ちょっといいですかー」「停電してるんですけど~!」と店の人を呼ぼうとしてみたりした。


 おそらく、5分間が終わったのだろう。

 ふいに、ぱっ、と部屋の電気が点いた。暗闇に目が慣れかけていたところなので、眩しさを感じる。

 明るくなると、そこはさっきまでと変わらない居酒屋の個室で、タッチパッドに映るピエロのおどろおどろしさも半減していた。


『これで、本物のデスゲームだと言うことがご理解いただけましたでしょうか。この空間は、外界から隔絶されています。あなたがたがどれだけ大声で叫んでも、悲鳴をあげても、外界から助けが来ることは絶対にありえません』


 画面の中のピエロが脅すように言う。


「いやだ……怖いよぉ……」


 女の子が不安げな声をあげた。

 ここに居る、合コン参加者の皆は、このピエロの言う事を信じているのかどうか……。

 各自の胸の内は分からないまま、ピエロからゲームの説明が始まった。


『では、ルールを説明します。今から実施してもらうのは、合コンではおなじみ、王様ゲーム、です』


 ────王様ゲーム?


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