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第9話-王の帰還を待つ前に-

「吉男さん!しっかりして下さいっ!まだっ!」


高級であろうスーツを着た者達がベットに横たわる和服の老人に必死に声をかける。

様々な業界に名を轟かせ、その先々を牛耳っていたその老人は働き盛りでギラついていた頃の様な迫力は無く、今は病に伏す痩せた病人に変わっていた。


「馬鹿を言うな…。もう時間が無い事くらい自分が1番分かってる。医者も言ってただろ?末期で手術も出来ないと」


掠れた声で男達に語りかける老人。しかし、その目を真剣な物へと変え、部下の筆頭を睨む。


「虎人を呼んでくれ…。話がある」


男は老人の言葉を聞き小さく頷くと寝室から出て行った。

老人の娘、その夫は老人の立場上あまり近付く事は無かった。

しかし、彼らの息子、老人にとっての孫は老人に良く懐き、頻繁に老人の家へと足を運んでいた。


「若をお連れしました」


先程出て行った男が小さな男児を連れて来た。4歳になったばかりのトーラ、この時はまだ『虎人』だ。


「おぉ、虎人。おいで」


老人は顔を綻ばせ、トーラを手招きする。威厳も何もないとても優しい表情だ。それに従い虎人も老人が伏すベットの傍に駆け寄る。


「おじいちゃん…」


どこか寂し気な瞳で老人を見つめるトーラ。老人はゆっくりとトーラの頭を撫でた。


「トーラ…お前は本当に頭のいい子だ…。おじいちゃんがもう駄目な事も何と無く分かっとるんだろ?」


まだ幼く記憶が戻っていないトーラはコクンと頷く。


「いいか?おじいちゃん昔な?とても強くて優しいそれはそれは立派なヒトにお世話になっんだ。そのヒトとトーラはよく似とる」


その話に首を傾げるトーラ。


「……」


『虎人』は普通の人間では考えられないような身体能力を持っていた。少し前まではそれを上手くコントロール出来ずに物を壊したり、周りの人間を怖がらせていた。しかし最近はそのコントロール方法も覚えた様子で普段通りの生活が出来ている。かなり窮屈そうにしている上に何かに触れる事を躊躇っている様子だが。

その事と今の老人の話は関係しているのか。

トーラは幼いながらも良く回る頭でそう考えていた。


「その体。辛いだろう?でも、いつかきっとトーラの頑張りが報われるから」


幼さとは不釣り合いなその深い瞳で老人をジッと見上げていたトーラはその小さな手で自分の胸の辺りをさする。


「うん。大丈夫。…何でかな?よく分かんないけど…多分いつか大丈夫になると思う」


子供らしい曖昧な答えだ。

歳不相応に落ち着いているトーラだが、時たま歳相応の態度を取る時もある。その様子に老人はにっこりと微笑んだ。


「……ゴメンよトーラ………。ワシが“あっち”帰れば……次は多分“あのお方”で…お前はしばらく1人…。………どうか、しばしのご辛抱を……皆でお待ちしております」


最後の言葉は…およそ子供に発したとは思えぬ程に遜った言い回しに聞いて取れた…。

その数日後、老人事 宝井吉男は永眠した。とても満足気で安らかな最後だったと言う。


「若、外は冷えます。そろそろお戻り下さい」


夕暮れの墓地、スーツを来た男が1つの墓石の前に佇む男児に声をかける。

その男児、トーラは涙を流す訳でも無く、どこか遠い瞳で自らの祖父の墓石を見つめていた。

そのあまりにも歳不相応な雰囲気にスーツを着た男は息を飲む。


「…………大義であった」


この瞬間、確かに一度虎人はトーラに戻った。この16年後、彼はこの世界から旅立つ事になる。そして全てを思い出す。

そして老人との最後のやりとりを聞いていた神獣ラン。彼女は最愛の主人の表情に強く胸を痛めるのだった。

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