第89話-【第一歩】-
大勢の民衆がトーラ達を乗せた戦艦マートンの着港に沸き立っている。
その群衆の後部に2人の青年が居た。彼らは成長した兄弟。ジェフとフレッドだ。兄のジェフは何処からか引っ張って来た木箱を足場に遥か前方に居る王族を一目見ようと奮闘していた。金色の髪の毛に青い瞳のまだあどけなさの残る兄弟には大多数が自分達より年上で構成された人垣は少々高すぎた。
「どう?兄さん?見える?」
「いやー……ダメだ!兵士らしき連中は見えるが…あぁっもうっ!なんっちゅー盛り上がり様だよ!」
見上げる弟のフレッドに癇癪気味に応えるジェフ。目を細めても王族の影すら見る事は叶わなかった。
「仕方ないよー。詳しい説明はまだだけど根源神様関連なんでしょ?」
この時点ではまだ民衆が知る情報は噂話の域を出ていなかった。王族の隠し子だとかかつての根源神が蘇っただとかその根源神の転生体だとか、とにかく様々な憶測が飛び交っていた。
「…根源神様ねぇ……。まさに俺が15になるタイミングでとは…」
恐らく件の根源神、その転生体と噂の者が居るであろう人垣の最奥を睨むジェフ。
「やっぱり厳しそう?」
「バカ言うな!むしろ燃えて来た…!」
心配気に何やら兄を案じるフレッドに対してジェフはニヤリと笑みを作って真っ直ぐな目で応えて見せた。
木箱から飛び降りたジェフは人垣に背を向け腰に手を当てた。
「うしっ!まずギルドに登録だ!」「うん!」
ヒルデウスのには未来が待ち遠しい若者も多く居る。彼らの様なとある大きな野望を持った者も。
◇◇◇
首都デウスドアーのメインストリート。その一画に石造りの立派な建造物が聳え立つ。傭兵協会ギルドだ。傭兵と聞けば少々物騒だが平たく言えばフリーランスに近い形で仕事を受け、魔物を狩ったり危険地帯で希少な素材を採集したり、する組織だ。要人の護衛や果てや清掃などと言った仕事もある。それらの仕事を依頼と言う形で協会員が基本個人で受け、ギルドを通して依頼人から報酬を受け取る。容易に登録も出来、腕に覚えのある若者の多くが一旗上げるべくギルドの門を叩く。
4階建てのギルドの入り口の扉をジェフとフレッドが開くと中は広い吹き抜け構造となっており、様々な出立ちの傭兵やギルド職員で賑わっていた。
「よぉ、お前さん達か。今日はどうした?」
彼ら兄弟が入り口に入ってすぐにある男が気安く気に声を掛けて来た。知り合いらしい彼はギルド職員の証である青い制服のジャケットを羽織っている。見た目は長身で30歳前後で顎髭を生やしている。
「こんにちはブラゼル副支部長」
「副支部長!俺のギルド登録よろしく!」
彼、もといブラゼルに気付いた弟のフレッドは礼儀正しく挨拶を交わすが、兄のジェフは待ち切れないとばかりに挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「お、そうか。ジェフはついに15か」
ジェフの態度をいつもの事だと特に気にした様子も無いブラゼルは持っていた書類のファイルを自らの肩に乗せ思いを馳せる。
「で、フレッドのパーティー申請もな」
「おいおいフレッドはまだギルド登録出来ねぇだろ?」
怪訝な表情のブラゼル。ジェフは今日で規定を満たす15歳。つまり弟で1つ歳下のフレッドはまだ規定を満たしていないのだ。しかし、
「ギルド規則第22条、ギルド員が推薦したパーティーメンバーはギルド職員2名以上の許可と一定以上の戦闘力を示す事で例外無く認める物とする。だろ?」
ギルドにはさまざまな規則がある。その内の1つが今ジェフが述べた物だ。彼はギルドに入るまでに様々な規則や知識を頭に叩き込んでいた。乱暴でやんちゃな印象が強いが頭は悪く無い。むしろ出来の良い方らしい。
「はぁー、仕事を増やしてくれるなジェフ」
「どーせ暇だろ?」
あからさまにため息を吐くブラゼルに対してジェフはしてやったりと言った表情で白い歯を見せて笑う。弟のフレッドは申し訳無さそうに苦笑。
そんなジェフとフレッドにブラゼルもまた苦笑して冗談混じりに悪態を吐いた。
「んな訳ねぇだろ?コレでも副支部長だぞ?とりあえず誰かギルド員を見つけて来るから…」
「それには及ばない」
そこに突如第三者の声が会話に割り込んで来た。落ち着いた声色の男性だ。
「げっ…支部長」
「あ、こんにちはメッセンジャー支部長」
兄弟が視線を向けるとそこにはきっちりと制服を着込んだ若い男が居た。歳の頃はブラゼルと同じだが整った顔をしていてブラゼルよりも真面目な印象が強い。
彼の名はメッセンジャー。この支部の責任者だ。兄弟とも顔見知りらしい。
「よぉーラッド。本部での会議は終わったのか?」
「あぁ。まぁ話題のほとんどを王太子殿下が攫っていったがな」
上司と部下でありながら下の名前で気安く呼び合う2人はかなり親交が深いらしい。加えてメッセンジャーは今しがたまで本部で会議を行っていた様だ。
「さて、フレッドの審査だが。私も加わろう」
兄弟に向き直るとメッセンジャーはそう告げた。先程の反応を見るにジェフは彼の事をやや苦手に思っているらしい。弟のフレッドはそうでもないらしく表情も普通だ。
「お前と俺でやるのか?」
自分とメッセンジャーを交互に指差して質問するブラゼル。しかし、
「待てよメッセンジャー支部長。審査はフレッドのパーティー申請だけじゃねぇ」
ジェフが待ったをかけた。不敵な笑みを浮かべている。どうにも何かを企んでいるらしい。
「何?」
怪訝な顔で「まだ何かあるのか…」とでも言いたげな表情もメッセンジャー。そしてジェフの次の一言で彼の表情はさらに怪訝に染まる。
「俺のS級神力資格もだ」
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