第87話-小さな守護神-
しばし2つの視線に気が付かずにカーバンクルと戯れていたトーラはようやく背後の気配を察知した。
「あ!シンカ!」
自身の妻に関しては気を許しすぎているせいで気配察知が鈍いトーラはシンカの存在に気付くや否や嬉しそうにパッと顔を明るくさせる。
「トーラくん!お姉ちゃん来たよー!」
そしてシンカもまた嬉しそうにニコニコと部屋に入りトーラに近付いて行く。本当に弟の部屋を訪ねる姉の様だ。
「シンカ!あのね!えっとね!この子!」
「うんうんっ!どうしたのかな?」
早く大好きなシンカにも紹介したくてたまらない様子のトーラにもうニッコニコのシンカが優しく促す。
「ほら、大丈夫だよ?怖くないよ?」
「キュルー…」
トーラに押されてそっとトーラの背中に隠れていたカーバンクルが顔を伺う様に出す。写真で見た女性と言う事は認識しているものの、やや不安気な表情だ。種その物がかなり警戒心が強い事もあるがどうもこのカーバンクルは初対面では臆病な性格らしい。
「うっわ可愛い…」
小さくて可愛くて愛してやまない旦那の背中から更に小さくてつぶらな瞳をした小動物が出て来る光景の破壊力は凄まじかった。
実はこの瞬間の視覚映像を瞬時に他の妻達に転送していたシンカ。脳内に突如この光景が流れたトーラの妻達は揃ってすこぶる機嫌を良くしていた。
「カーバンクルなんだ!産まれたばっかりみたい!」
戸惑い気味なのかと勘違いしたトーラは自らの新しい友を猛プッシュする。カーバンクルもトーラの紹介に合わせて小さくお辞儀をして見せた。
「こほんっ!…うん、きっと元々この辺りを漂う魔力がトーラ君の濃密な神力に反応して覚醒した結果って感じかな?トーラ君の部屋は色々特殊だしね。よろしくね可愛い精霊ちゃん」
何とか気を持ち直したシンカは素早く鑑定で仕入れた情報を整理した。これ程の神が生活をした、そしてこれから生活をする部屋に何も無い訳が無い。トーラと言う存在はただ居るだけで周りに及ぼす影響が凄まじい。
「んー?あ、この子赤ちゃんなのにすっごい強いよ!ノーミくらいは強い!」
ふと戦闘能力が気になったトーラが鑑定を行った結果だ。トーラ達の専属を任されるだけはあり、既にヒルデウスでも指折りの存在となり得る程の戦闘能力を持つノーミと同等の力をこの産まれたばかりのカーバンクルは持っているらしい。
「……マジ?」
「まじっ!」
これには流石にシンカも引き気味だ。一方のトーラはシンカの言葉遣いを元気に真似てご満悦。
「……ま、いっかー!可愛いしー。んで?名前とか決めた?」
もういちいち考えて遅いだろうと考えたシンカは能天気にも思考を放棄した。
「えっと…らっきー!」
「ラッキー?」
名前は考えていたらしい。縁起の良さそうな名前だけに反対意見も出ないだろう。
「うんっ!どう?」
「キュルルー!」
後は当人とばかりに話を振るとカーバンクル、もといラッキーは嬉しそうに鳴き声を上げた。その瞬間、ラッキーの体が発光した。しかしその光もすぐに落ち着き、先程までと変わらない姿に戻る。
「おぉ…根源神の名付けが発動したよトーラ君。ラッキー物凄い神格上がったよ…。この子が暴れたらアタシ止められるかな…」
どうやらトーラがただ名付けただけでラッキーはまたも力を増幅させたらしい。もはや精霊の枠には収まらない。神獣と呼ぶ方が自然だろう。こうなってしまえば人間達目線で言うと天災級の魔物と言う認識だ。現れれば最後、討伐や撃退は不可能。全てを捨てて逃げるしか無い。
「暴れちゃダメだよ?」
「キュッ!」
トーラが念の為に釘を刺すとラッキーは元気に返事をした。手綱を握るのがトーラである以上何の問題も起きそうに無い。
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