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第7話-2つの国の議題-

とある国〜現在〜


広々とした部屋にいくつかの品の良い調度品がさり気なく飾られたここ。予算会議中の王城内の一室に1人の文官が険しい表情で入室して来た。きっちりとした正装を纏った文官は会議室の最奥で立派な椅子に腰掛けて真剣に会話に加わっていた男、その右隣りに着き会議を取り仕切っていた宰相の男に近付き何やら耳打ちを始めた。


「ふむ……ご苦労様。…陛下」


国の重鎮である宰相。見た目年齢は50歳前後。褐色の肌で髪は短く刈りそろえてある。一見すると軍人の様にも見えるが彼はれっきとした文官だ。

内容を聞くや目を大きく見開き、数度うなずいた後に男の隣、現国王陛下へと聞いた内容を伝えた。すると同世代程度の見た目をした男、鋭い眼光と広い肩幅を少しだけ震わせ、迫力溢れるその王も宰相と同じ反応を示した。


「戻られましたか………始祖様」


感慨深さから無意識に出たその言葉を咳払いと共に飲み込み、宰相に視線をやる。すると男は頷き…


「拝謁に向かうべきでしょう…」


宰相の言葉に王は瞑目。様々な事柄が脳内を巡っている様子。その証拠に彼の眉間には深い皺が寄っていく。


「……難しい物ですな。始祖様も我々の事を把握されておられるのでしょうか…」


王の背後に控えていた大柄の男。彼はこの国の元帥であり王の専属護衛。程よく日に焼けた肌をしておりジャケットを押し上げる分厚い筋肉はただ立っているだけで絶大な威圧感を周りに与えている。彼は宰相や王の後に同じく報告を受け、言葉通り難しい表情を作り皆の懸念を代弁するように唸った。


「どちらにせよ…最上級の敬意を持って拝謁にあがらねば…」


「流石に陛下自らと言う訳にもいきません……別の大陸の為、護衛面や外交面を考えましても現実的ではありません。なにより…」


王の言う『最上級の敬意』とはやはり王自らが出向く事なのだろう。しかし元帥は即座にそれを否定する。


「今は余が離れる訳にはいかん……そうであるな?」


否定される事は当然とばかりにため息を吐いた王は宰相に視線を向ける。


「えぇ。ここ数日、結界の不備が多発しております。すぐに危険が迫ると言う訳ではございませんが……このタイミングで陛下が国を離れますと国民に要らぬ不安を与えてしまうでしょう」


結界とはこの国を囲むように組まれた古から存在する物の事を言う。最近はその結界に小さな綻びが見られるとの報告が度々入ってくるそうだ。

噂とは怖い物で、一部の関係者しか知り得ない本件がいつ民に広がるか…そしてその民が結界の件と王の出国を結びつけ、あらぬ誤解が発生しないか。ここに居る国の重鎮達にとっては頭が痛くなる状況だ。


「その結界の不備の為の会議であったが…。今にして思えば…始祖様の降臨が関係しておるのやもしれぬ」


伝承には彼らの言う始祖様が結界を張ったとされており、この重なった事象を王は関連付けたのだ。


「確かに……。…如何致しましょう」


「私が向かいましょう」


宰相が王の言葉に同意しつつ言葉を発したすぐその後、

突如として会議室に入室して来た美しい女性。黒い艶やかな長髪、透き通るような肌、ゆったりとしたノースリーブの淡い空色のロングドレスを纏い肩には薄手で紺色のストールを掛けて露出を控えめに、しかしその女性らしい体付きは完全には隠し切れず本人の雰囲気も相まってどこか扇情的だ。

そんな女性が優し気な表情を浮かべながらはっきりとした口調でそう告げた。


「王女殿下!?」


その女性は王の娘。つまりこの国の王女だ。見た目は20歳程と若いが纏う気配はそこいらの若輩者達とは訳が違う。

会議室の面々は突然の事に目を見開いて硬直している。入室して早々に衝撃的な発言をしたのだから無理無いだろう。


「王女殿下もまた護衛面を考慮すると…何とも…」


元帥はやや言いにくそうに懸念の意を示す。彼女も扱いとしては国王の時と大差無い。「出かけて来る」と言って「はい、行ってらっしゃい」で済まされる立場に無いのだ。しかし…


「いえ、私が行くべきなの。そうですよね?お父様」


王女の態度は変わらず、譲る気は一切感じられない。王はしばし黙り込み、諦めた様な目付きで王女を一瞥する。…やがて目を伏せて大きく息を吐き、


「……気付いておるのか」


「当然です。……ずっと待っていたんですから」


王の呟きに王女はニッコリと…女神の様な微笑みでそう答えた。目はどこか潤んでいる様にも伺える。


「……ふむ、本日の会議は一時中断とします。君達は一度持ち場に戻りなさい。よろしいですね陛下?」


「あぁ。議題を変えるとしよう」


しばし静観していた宰相は会議室に居た面々にそう伝え、一部の重鎮中の重鎮のみを残して会議は再開される。王の言葉通り、議題を変えて。


「それにしても……高位の神達は巫女の事をただの連絡手段に過ぎないと考えているのが一般的。その巫女に対して『お疲れ様』とは…」


宰相は若干戸惑い気味な様子。それもその筈。

トーラが先程念話を行なっていたのは姫巫女と呼ばれる特別な役職の者だ。

トーラは馴染みが無かったのは姫巫女が活躍し始めたのはここ数十年でトーラとは活動時期がズレる事が理由だ。

宰相の彼が言った様に巫女とは本来高位の神族に「使われる」と言った扱いが多いのだ。

この国は不用意な身分の迫害などはしないが…この世に存在する神が全て同じ考えとは限らない。

それも神の中の頂点に立つと言われる彼の神なら当然そうだと愚考していた。


「ふふっ。彼らしいですね。相変わらず優しいわ」


何故か嬉しそうに微笑む王女。

その様子に不思議そうに首を傾げたり眉を寄せる重鎮達。



◇◇◇


リードバイ 王都 王城



「7人……?召喚した勇者は8人の筈だろう!?」


王城の広間、そこで行使された大規模な召喚魔術。巨大な魔法陣の上で辺りを見回す7人の男女。


「もう1人は何処にいる!?」


玉座に深々と腰掛ける人物。この国の国王は焦りと憤りの混じった声で自分の眼下に佇む筆頭魔術士に食って掛かる。


「……"拒否"されましたっ…!」


「何っ!?」


筆頭魔術士の召喚魔術に対して拒否をすると言う事は筆頭魔術士を凌ぐ力量が無ければ出来る筈もない。


「別の世界から引き抜き、此方と彼方の中間地点の様な場所、すなわち神界までは問題無く進んだのでしょう。ここにいる勇者達はそのままほぼ直ぐに此方に来たのですが…残る1人は召喚はされたもののこの世界の全く別の場所に降り立った様です。もちろん本人の判断で、です。」


「王よ!急ぎお耳にお入れしたき事柄が!」


「今度はなんだ!?」


「地下の神力が…急速に低下いたしました!」


「なっ……!?神に……我が国の守護神になにかあったと!?」


国王やその場に居る国の重鎮達は嫌な予想をしながら汗を流している。この王城の地下には古くから存在する神殿がある。普段は地下にも関わらず、神殿内は煌々とした光に包まれているが…現在は薄暗い。光は神力の影響と伝わっている為、先の報告が成されたのだ。


「……我々はとてつもないモノを呼ぼうとしてしまったのかもしれません…」


誰がどう見ても関係がある。長い歴史の中で一度として起こり得なかった異常事態がこの瞬間だけで2つも起きたのだ。


残された7人の勇者。ついでに呼ばれた不幸な者達。彼らはただただ状況が理解出来ず、辺りを見回す。1人を除いて。


「……やっとだね…トーラ君………」


誰にも聞こえぬ呟きを放った人物は決意の篭った眼差しをしていた。

この者だけは異質。他6人の勇者や国の重鎮達は上手く隠された彼女の気配に誰一人気付けていないが…。

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