第6話-近くに感じるため-
「さてと…」
咥え煙草のまま室内、そして外に目をやる。
ここに来てからロクに情報を精査していないしな。洞察力が鈍らぬ様に頭の体操といこう。
室内は…木造。一人暮らしにしては二階もあり広い様に思えるが…部屋自体はどれも控えめ、おまけに築年数も結構なもんだ。壁も薄いな…一部は土壁だが冬は厳しそうだ。
掃除は行き届いている。視界に入るキッチンも日頃から使っている痕跡有り。以前の彼女と同様に手入れはマメらしい。
今も冗談を言ってたが…よくもまぁ最高神がこんな所に住んでたなぁ…。フェニは昔から無欲な方ではあったが…人目に付かぬ場所で最低限の生活が出来れば良かったって事か?
『旦那様。よろしいでしょうか』
紫煙を燻らせているとランが話しかけてきた。頭をほぼ無にしていた俺は適当に相槌を打つ。
『なによー?』
さっきは声を出していたが、これはいわゆる「念話」。脳内での会話が可能で先程はフェニにも話の流れを理解して貰いやすい様にあえて声に出していたって訳だ。
『現在、この地域の季節は秋です。日本で言うと10月初頭頃。今の主の服装ではいささか肌寒いかと』
日本と季節は同じくらいのタイミングか。プロ野球のクライマックスシリーズも白熱してたもんなぁ。
そんでこっちは温暖化とかも無さそうだし、地球より気温も低いんだろう。ちなみに日本は深夜だったがこの世界は現在昼過ぎ頃の時刻。時差は丸っと12時間くらいかね。
『なるほど。でも俺は…』
『はい。旦那様であれば体調に異常をきたす事は無いでしょう。しかし、勝手ながら私の気が済みませんので、こちらを』
神故に強靭な肉体を持つ俺は「別に寒くないよ」と言いかけたがランはそれに被せる様に言って来る。
彼女からすると今の俺とも年齢イコールの付き合いだ。今世でもお世話になります。
彼女の言葉の次の瞬間、俺は白い毛皮のコートを身に纏っていた。膝丈程でフカフカしていてめちゃくちゃ暖かい。
それに…
『……ランの匂いだ』
『えぇ…。すぐにお会い出来ない代わりにせめて手製の物をお贈りしたくて…。……再会を心待ちに致しております』
思わず涙ぐみそうになった。いかんいかん。しっかりしなきゃな。カッコいい旦那さんじゃなきゃいけない!
それにしても落ち着く…。一見するとゴリゴリの毛皮なのもあり獣臭でも漂って来ると思うだろうが……コートからは甘美な女性の香り。
色は上品で美しい純白、所々に黒い縞模様。……品があり彼女らしいね。
ああ…本当に明日の朝が待ちきれない。
そうだ。俺と面識ある奴が居るか分からんが一応連絡だけしとこうかな。
知ってる奴が居れば儲け物だし、誰も俺の事が分からなくても外から念話なんぞそうそう来るもんじゃないし上層部に伝える位するだろ。
連絡するならどこにするかな…城?あ、いや、確か神殿があったな。
えぇっと……確か城にある神殿の座標は…
『おい誰か聞こえてるか?』
居るかなー…
『はっ!はい!この神力……伝承と同じ!?貴方様は!?』
おぉ、ちゃんと聞こえるみたいだ。やはり聞き覚えの無い女の声だったが、まぁいい。あっちに俺の知り合いも居るかもだし連絡手段があるのは好都合だ。
とりあえず彼女は俺の事を面識は無いものの漠然とだが知ってるっぽいし。
『トラデウスから連絡があったと出来れば今代の首脳陣に伝えてくれ。。あー、後。しばらくは降り立った他国の地で休養するから。それもついでに頼む』
『しょ、承知致しました!未熟な私めをお使い頂き…崇高なる神託に心よりの感謝を!』
なんじゃそら。こんな下らんテンプレートを徹底してるのか?これは要教育だな。
『そう畏まらんでいい。お疲れ様。じゃあな』
『へっ!?』
素っ頓狂な声を聞いて一方的に念話を遮断した。何か緊張してるっぽいしこれ以上は可哀想だしな。フェニまだかな…。