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第5話-ひとまずの目的地設定-

「参考までに、最寄りの都市はどんな感じなんだろう。記憶と一緒に一応現在の知識も入ってるが」


「大きな街はここから結構遠いですよ?」


『地図で言うここから南の方角ですね』


そう考えているとランが声をかけて来た。言われたままに脳内にスマホアプリのような俯瞰地図を展開。南…南…お、これか。


「…確かに遠いな」


森と山を越えるルートで行くと我々の体力なら数日で到着出来るだろう。平地で車が使用出来ればもっと速い。さらに転移等の魔術ならば一瞬。

木々の影から見える山々。……良い山だ。手付かずな感じが地球では珍しいし素晴らしい。


「えっと、街に行くんですか?」


小屋にある窓から軽く山を眺めているとフェニが控えめな様子で発言する。

ふむ、勘違いさせちゃったか。


「いいや?」


目を向けて短く返事を返す。

彼女は「ですよね」と返して来る。共通認識として街に行く意味は特に無い。我々はそう考えている。


「一般人は街へは馬車で1ヶ月近くかけて向かうんです。何故か分かりますか?」


手を後ろで組み、悪戯な笑みを浮かべているフェニ。

は?1ヶ月?この世界の馬は鈍足なのか?それに…


「んん?流石にそこまではかからないだろう?それに森や谷を突っ切って行くんだし馬車は向かないんじゃないか?」


探ろうと思えば神の知識ですぐに分かるが余興に付き合おう。普通の会話が楽しいし。

素直に疑問を返すとフェニが小さく笑みを漏らす。多分予想通りの返しをしてしまったのだろう。


「その森はダメなんです。この先にある森、そしてそこに繋がる山々は『神域の山』の一つで恐ろしく強い魔物達が住処にしているんです。だから街までは森や山を避けて行く道しかありません」


あー、なるほど。もちろん俺はその森の事情も把握した上で提案したんだが…。

地球例えるならば危険なジャングルを避ける様なもんだ。住民の戦闘力的に地球のジャングルですら穏やかに感じるレベルだが…。そりゃ一般人は避けるわな。

フェニがあえてここに掘っ建て小屋を建てたのもその理由からだろう。

わざわざ転生までして……いや待てよ?


「強い魔物が居て人が寄り付かない……。別にフェニならわざわざこんな所に済まずとも街で隠蔽も出来ただろう?」


「あっ。気付きました?」


俺が問うとフェニは意味深に頷く。

促す様に俺が彼女を見つめるとフェニは楽しそうに微笑みながら理由を話し始める。


「召喚出来た後のトーラさんの行動は予想出来ますよ。夫婦なんですし。貴方は大胆でいて慎重。状況を利用して先を見据える事においては流石と言う他ありません」


まるで自慢するかの様に俺の事を饒舌に語る。うん、ちょっと恥ずかしい。


「貴方ならきっと今後の事をよく考える為にどこか腰を据えられる場所を欲する筈。だから選択肢の多いここに小屋を建てました。最寄りの村や街にも行けて人も寄り付かないので」


お前も十分に頭良いだろう。俺の考えを読み過ぎだよ。


「選択肢が多い?この広大な自然が?」


「危険な森の中にお城を建てるくらいトーラさんなら一瞬でしょう?何なら私が建てましょうか?」


冗談めかして手を広げる。物件が多い様には思えないしね。

しかしフェニにもサラリと冗談で返さられる。うむ、確かに我々なら可能だろう。


「そりゃ旦那の仕事だ。例え指先1つで出来たとしてもな」


頭は使うがまぁ余裕だろう。


「一応ランの意見も聞いてみよう」


最高神が3柱揃った意見は凄まじいだろう。


「ラン。神域の森や山とやらの中には人は絶対に立ち入らないのかな?」


俺の質問に声の雰囲気だけの判断だがランがしばし考えを巡らせる気配がする。この辺りは長年一緒に居た関係なだけあって良く理解出来る。


『ええ。神域の山、及びそれを取り囲む神域の森は災害と揶揄される様な魔物が住処にしているため戦闘能力が高い魔族ですら立ち寄りません。過去に勇者と呼ばれる者が立ち入りましたがそれきり、遺体の回収にすら向かえない有様です。恐らく近年で事故以外で森に入って者は居ないでしょう。その為、神域の山、神域の森はどこの国の領土でも無いと言うのが現状です。ですが旦那様、貴方でしたらこのような疑問も解決済みなのでは?』


「確認だとも。にしてもそうか…それはいい」


そこまで聞いてフェニに思考を移す。


「俺は創造魔法で自分の記憶にある物は基本的になんでも作れる。昔と一緒だ。だから俺はまず人が入れないような所に拠点を作ってそこでのんびり全快まで待つつもりだ。どうだ?奥さんの術中にハマってるかな?」


俺の言葉にフェニは嬉しそうに同意の意味合いで大きく頷く。


「やっぱり思っていた通りでした。ちなみに創造魔法は私も問題無く使えます」


ランも問題無く使えるだろう。つまり住居の建築だけではなく、土地の整地、家具、家電、その他生活雑貨や生活消耗品、果ては食材なんかの問題も払拭出来る。

あまり地上に居る神が創造を行う事は好ましくないが…世界に影響を一切与えない環境であれば大丈夫だろう。その為にわざわざ誰も来ない所を選ぶんだ。

俺の妻はフェニとランを入れて合わせて5名。全員が神だ。何度も言う様に合意の上だ。

俺の目的は彼女達全員と再会を果たす事。

拠点は再会を果たす方法を固める為にも落ち着ける場所に欲しい所だ。


「先にはっきりと言っておくけど、俺はあの国以外のどこかに所属したりするつもりは無い。あくまで俺は傍観者でいる。この世界にどんな勢力があろうと俺はどこに対しても明確な敵対もしなければ明確な味方にもならない」


あくまで第三者視点がいいんだよな。

今更「最高神だよー」なんて手を振って登場する気にはなれない。

しかし、普通の人間として街で生活するにしても、この力ははっきり言って強過ぎる。この世界でも絶対浮く。何をしようにも目立つだろう。

それに、しばらくは日本で暮らしだった訳だし、自給自足の生活って憧れあったんだよなー。何にも縛られない日常。年金やら税金やら形の無い物に金を払う必要も無い。前の世界じゃまず不可能だろう。

こっちはこっちで国単位の面倒事、貴族関連での面倒事、その他民度の低いバカ関連の面倒事とかなり巻き込まれる可能性が高い物が多い。

そらこんだけ便利な能力があれば色々食いついて来るだろう。隠すにも中々限界があるし疲れそう。絶対嫌。

以前に観た映画で「面倒は御免だぜ」とか抜かしてる主人公が何だかんだで積極的にやらなくていい事までやって結局面倒に巻き込まれると言う展開があった。正直コイツ絶対頭沸いてると思ったね。


「賛成ですね。あの国は別にして、我々はあまり目立つべきではありませんし」


『旦那様とフェニ様に同意見でございます。我々の最大の目的は”家族“との再会を果たす事。それ以外に興味はありません』


彼女達は…はっきり言ってしまえばドライだ。俺と同じく神である事が影響しているのだろうが…。

力ある神族こそ「全てを救いたい」だなんて言う願いを抱かぬ物。そんな事を仮に実現出来たとしても何の意味も無いと分かっているからだ。

全てを救ったその瞬間だけは満足感や周囲からの羨望で充実するだろう。しかし、そんな夢の様な時間は一瞬だけ。意思ある者達は必ず闇へのシナリオを進めてしまう。

正義の味方を気取った自称救世主は、後に訪れる闇を濃くする役割を担っている訳だ。そんなスパイス役を数多く見て来た。

全てを救うとは”悪“をも救う事を言う。一方の目線で言う”悪“を討ち、「全てを救った」などと宣う者はただの勘違い。もう一方の”悪“を正当化しているだけだ。

“正義”の反対は“悪”とは限らない。“もう一方の正義”が正しいだろう。


論点が少しズレたが…

俺は正義や悪だとクソの役にも立たない事を論ずるつもりは無い。

ただ守りたい者を守る。それでいい。

我々力ある者はただ『守る事が出来る条件』が広いだけであって無理にその範囲ギリギリまで守ってやるつもりは無い。

最高神クラスの神族なら誰もが同じ考えだろう。

何だかんだでどの世の中でも力のある者の周りに人々は集まって来る。故に力を見せず、我々の周囲に人々が集うのを許さない。


「全員の意向が一致していて安心したよ」


神がどうのと言ったが…まぁ結局は身内以外に興味が無いんだ俺達は。

ポケットから煙草を取り出しライターで火をつける。もちろん窓を開けてだ。あぁ風が冷たい。余談だが耐性系の魔術で主流煙、副流煙の害を消せるらしい。そんな事してニコチンは摂取出来るの?うん、大丈夫らしい。いつもと変わらぬ味。

俺が煙草を吸う姿すら懐かしむ様に…愛おしい様に見つめるフェニはやがて…


「では、私は少し荷造りをして来ますね。異界空間に放り込むだけなのでそんなに時間はかからないと思います」


「この素敵な屋敷に未練は?」


「家族が居ない家はただの物置ですよ」


「違い無い。何かあれば言ってくれ。手伝うよ」


最後に「ありがとうございます」と微笑んでからフェニは家の奥に消えて行く。

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