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第3話-本来の記憶-

また視界が真っ白に染まったと思ったら次の瞬間には薄暗い部屋で若い女性、20歳前くらいか?が何か祈ってるのが見える。

一回切り替えよう。さっきのジジイ達は置いとこう。当初の目的を思い出せ。目の前の彼女は何者か。物凄く、…それはもう引く程の美人で可愛い女性だけど……少なくとも日本にはこんな知り合いは居なかった。


「やった!」


…………。


喜んだな…。


目の前の女性の体が震える。服装は若干作りの荒く見える白いブラウス?にフード付きの黒い外套を着てる。見た目はロングカーディガンに似てるかな。下は膝下丈の青いスカートに黒いショートブーツ。よく見るとえらい汗かいてんな。汗だくの美人だろうが何だろうが関係無いが。


あー、何か…。分かった。何がってもう全部分かった。またも頭の中に直接情報が流れて来る様な感覚。現在の状況からこの世界の情勢までありとあらゆる情報が流れて来た。……これで正真正銘全ての記憶が戻ったか。


そしてこの女性と俺の関係と、女性が俺を召喚した理由も勿論思い出した。


「…………早かったな」


思わず溢れた柔らかい笑み。

冗談めかした言い方だが…失った記憶を取り戻した体感としては以外に早かった。

どうも目の前の女性、もといフェニ。彼女も俺と同じく色々と理解したらしい。

目を大きく見開き、やがて俺の事を今一度ジッと見つめて来る。その瞳は期待と不安が入り混じっている様に感じた。


「………私の事…覚えているんですか?…ずっと貴方を夢で見ていました。…ずっと貴方を待っていました」


記憶が戻った俺は今の発言をただのお伽話に憧れる小娘で片付ける事は出来ない。

…俺は昔から時折金髪で青い目をした美しい女性が登場する夢を見ていた。

その女性の正体が目の前に居る彼女…。先の彼女の発言。彼女の夢にもまた俺が登場していたのだ。故に一応の確認の為の発言だったのだろう。


「………逢いたかった……」


涙を浮かべながらも花が咲いた様な笑みを彼女が浮かべる。何て魅力的で……安心する笑みなんだ。

あの夢は、ただの夢じゃない。俺達の古い記憶だったんだ。

俺も彼女の事を憶えている。夢以外の事も。


「………全部思い出したよ。俺も…逢いたかった」


自然と歩み寄った俺達はそのままきつく抱き締め合う。この体では初対面の筈なのに…まるで数年ぶりに対面した恋人同士の様に…。


彼女は俺と違って記憶を無くさずにいたらしい。嬉しいもんだ。

俺が記憶を無くした理由は…後でいいか。


「あぁ…本当に貴方なんですね……こんなに長く待たせるなんて酷いです…」


胸辺りからやや篭った彼女の声が聴こえて来た。少し涙声だな…。凄まじい罪悪感だ…。

つい先程までの俺は彼女の事を「夢で見た」程度にしか憶えていなかった一方で、彼女はずっと俺の事を待ち焦がれてくれていたらしい。


「ごめん……ずっと待っててくれたんだな……。俺の記憶を消さないと効果が不十分だったんだ。そのせいで遅れた」


とりあえずここはこれで凌ごう。

記憶が無くなる原因。更にその原因は何をしようとして出来てしまったのか。それはこの世界に存在するとある”国と彼女達“を守る為だ。

神界では生き辛い神族やその関係者を集めて出来た国。

そこに俺の膨大な神力を含め、全てを捧げる事で絶大な加護を授けた。あの加護があれば他の神族連中から攻撃を受けそうになっても問題無い。

あの国の家系は未だ神族の血を受け継いでいる。

しかし…こうして記憶が戻ったと言う事は……効力に影響あるのかな……。あれから何年経ったんだ?

ふと考えを巡らせていると…


「……謝罪より先に聞きたい言葉があります」


やや拗ねた様な声色。…えと……


「………ただいま?」


「もぅ……今はそれでいいです。…おかえりなさい」


どうやら満点は貰えなかったらしい。……もう少し待ってくれ。


「何だよ……記憶が無かったとは言え俺を呼び出したのが赤の他人なら帰ってやろうかと思ったのに…」


話題を逸らすため大袈裟に言ってのけ部屋を見回す。うん…なんともボロっちい。掃除や手入れは行き届いているが住居は早急になんとかしてあげたい。彼女には似合わない。豪勢にとは言わないものの、もっと清潔感があって綺麗な所に住まわせてあげたい。


「…帰っちゃうんですか?」


「ここが俺の帰る場所だからな。もう帰ってるってのが正しいかな?」


わざとらしく眉尻を下げる彼女。冗談と分かっていてもフォローはしてしまう。未だに密着中の俺は彼女をもう一度強く抱き寄せた。彼女の温かい体温と柔らかな感触、それに優しい香り。全てが俺を癒してくれる。


彼女とは記憶を無くす以前は夫婦の関係にあった。神同士の夫婦だが周りからも評判のおしどり夫婦、またの言い方をバカップル。

少し時間を置いて俺の整理がついたらまた…改めてプロポーズしてみようかな。まぁ今も離婚とかしてないし夫婦っちゃ夫婦なんだけども。


愛しい彼女は俺の言葉の後にギュッと背中に手を回して来る。うぉ…久しぶりに味わうとやっぱり凄いな…。


「あぁ、言い忘れてた。……今更だけど。愛してるよ…フェニの事」


またも意識を逸らそうと述べた言葉。

自然と浮かぶ笑みを彼女に向けると…その蒼く美しい瞳と間近で目が合う。そして…彼女が背伸びをしてそのままお互いの唇が触れ合った。

しばし呆気に取られていると唇を放したフェニが照れ臭そうにはにかんで見せ…


「…また初めてをあげちゃいました。この世界でも貴方に貰ってもらう為にしっかり守って来たんですよ?」


「も、もしかして忘れてた事怒ってる?」


なんかあえて恥ずかしい事言ってないか?


「ふふっ。どうでしょう?でも、照れた貴方を見るくらい許してくれますよね?」


「くそぅ…」


「可愛いっ……やっぱり貴方はカッコよくて…可愛くて…優しくて…大好きです」


まぁこの件は俺が悪いし、甘んじて罰は受け入れよう。


そうして元夫婦の神々はボロっちい家で再会の一時を楽しんだ。

さて、色々やる事があるぞ。とりあえずは当面の拠点かな。

例の国が危険な状態になるのは何も今日明日の話じゃない。短く見積もっても数年後だろう。その間に色々と事を進めておかないとな。

まぁのんびりいこうか。

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