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第21話-動き出す神の国-

ある夜。トーラ達の現在地から遠く離れたトーラが建国した国では深夜にも関わらず重鎮のみでの極秘会議が行われていた。

その国の名は…ヒルデウス。

かつてトーラが妻達と共に自分達を慕う神族の居場所にと創った楽園。

巨大な大陸とそれに連なる無数の島々で構成された国。日本で言う領海、領空を囲う様に強固な結界が張られ、この世界の現地人は勿論の事、他の神族ですら干渉出来ない正に理想郷。


今日、この日、この時間に行われている極秘会議の議題。

不明点は多いが…その建国者である始祖の神と同じ気配を持つ者がこの世界に帰還した。その為の会議だ。

先に内情を明かしてしまえば…


一部の、具体的にはこの国で2名だけがこの神の正体を知っている。

しかし、重鎮と言えどトーラが国を創り、一度姿を消して再び転生してこの世界に舞い戻ったと言う事実は明かされていない。

全てを知る2名以外には「かつての始祖様の生まれ変わりの方」としか説明されていない。


現在この部屋には5人のスーツ姿の男がいた。


「致し方ないか…他でも無いあのお方…もとい愛する孫の為だ」


用意された書類に目を通し、深い溜息をついたのは…


第7代ヒルデウス神王 ヨシオ・テーサウルス・ヒルデウス


絶大な存在感を放つ初老の男である今代の王はボソリと独り言を呟いた後に手に持った書類を机に置き、その太い腕を組んだ。


「大将2人、それに選りすぐりの中将に加え元帥と私。よろしいのですか?」


リッチ・レイクベラーノ宰相(元 大将)


同じ書類に目を通していた男は宰相。

机には綺麗に並べられた書類、ペン、手帳。彼の几帳面な性格が良く現れている。


「今回はリッチも参加…城の警備を入念に確認せねばなりませんね」


イチブチ・コーデン元帥


生真面目に背筋をピンと伸ばした大柄な男は元帥。事実上軍事部門の最高責任者でありヒルデウス最強の男の“1人”だ。

もう1人は宰相のリッチ。彼は今の立場になる前はこのイチブチと同期で大将の位に付いていた。


と、ここまでは前回の第一報の際にも会議に参加していたメンバー。


「お言葉だが陛下。……大陸をいくつ消す作戦なんだ?」


ヒルダ・アーキブ大将


彼は現職の大将。最強と呼ばれているのはイチブチとリッチであるが、彼等はその立場上あまり表立って実戦の指揮を取る事はない。

その役目は次点の強さを誇る現職の大将の仕事だ。


ヒルダは白い肌で頭は短く剃られている。目付きは鋭く態度も大きい。黒いスーツとネクタイに白いシャツとシンプルな装いだ。


「大将を2人と大勢の中将でも今までに例を見ない程です。それに加え…元帥殿と宰相殿まで」


バスディ・サースリー大将


そして彼はもう1人の大将。


彼はヒルダと違って紳士的な印象だが…バスディもまた態度が大きい。

同じく白い肌に短く切り揃えられた金髪。

上品な高級スーツを着こなし琥珀色の酒をロックグラスで飲んでいる。

国王の眼前でである。


もう分かる通り、この2大将は問題児である。

実力は折り紙付きだが何せ素行が重鎮らしからぬ物だ。

しかし王や元帥や宰相は特にこれと言って彼等を咎める事をしない。今更小さな事は気にしないのだろう。仕事が出来ればそれでいい。

忠誠心は本物なので特に問題も無い。


「今回の作戦は戦闘がメインでは無い。あるお方の元へと王女殿下を護衛し、送り届ける。そのお方に私達の最大戦力を、手の内を全てお見せする。いわば我々の誠意だ」


真剣な眼差しで2大将を見つめるリッチは両手の指を組み合わせ。ゆっくりと語った。


「リッチの言う通り。これは誠意だ。王女殿下の安全面を考えてもこれ以上無い人選。王女殿下に危険が及べばその時点で彼のお方との関係は破綻してしまう」


静かに落ち着いた口調だが空気がピリつく程の重厚感。元帥であるイチブチの言葉にヒルダが首を傾げる。


「国外に出るんだろう?ここ(城)を手薄にしてまでも行うべき作戦なのか?」


「そうだ」


ヒルダの意見は最もだが…リッチは質問に即答した。

ヒルダは暫しリッチを見つめ…その後に元帥のイチブチ、そして国王ヨシオにも同じく視線を送った。


「詳細な事情を話せん事を許して欲しい。この国やお前達にとって不利益となる事では無いと約束出来るが……なんとか納得してもらえんか?」


心から申し訳無さそうにするヨシオ。王としては相応しく無い態度だが、ここに居る者達をそれだけ信頼している証拠なのだろう。


「つまり…陛下や王女殿下の私情の様な物でその人物の詳細を伏せていると?」


「あぁそうなる。後は察して欲しい」


この場には居ないヨシオの愛娘、ミカゼにも大きく関係する事案らしい。

何故この神々の楽園と称される国の王族がそこまで執着するのか。その真意が彼等には分からない。


「高位の神族は複雑ですな……」


「まぁ…ただでさえ謎の多いミカゼ嬢と深い関係があるんだ。俺達がどうこう言う問題じゃないって事か」


バスディとヒルダは「上が良いと言うなら良いんだろう」と割り切った様だ。自分は忠誠を誓う者からの命令に従っていれば良い。盲信的に信じる事が出来るからこそ出来る事だ。


「皆、察する事は出来たな?ならばあえて言葉にする事もあるまい。我々が忠誠を尽くす意義のあるお方だと判明した時点で十分だろう」


「「違い無い」」


そう纏めたイチブチに大将2人は笑みを零しながら同意する。


「まぁ1つ安心材料だ。必要では無かったから言って居なかったが……ミカゼは強大な力を持っている。故に割れ物を扱う様な気概でなくて構わないよ」


「ならばミカゼ様のお手を煩わせる事が無いよう努める必要がありますな」


少しでも空気を和らげようと気遣ったヨシトラの言葉、しかしそれはむしろ逆効果だった様子。

イチブチは目付きを鋭くして気合いを入れていた。



◇◇◇



書類の束を小脇に抱え、落ち着いた足取りで廊下を進む宰相のリッチ。

上品な絨毯が敷き詰められた城の廊下は足音が響かない為、夜の静けさを汚さない。


暫く進むとリッチはとある部屋の扉の前で歩みを止めた。長袖のシャツの袖を捲り腕時計を確認。この世界ではこの国にしか無い高等技術の逸品だ。それにしても随分と深い時間だが…今回の件に関しての決まり事は時間に限らず早急に報告するよう、この部屋の主人から言い付けられている。

シャツの袖を戻した後に扉をノックする。

すると給仕の女性の声で返事があった。


「リッチだ。例の件の会議の議事録を持って来た。ミカゼ様に通して欲しい」


落ち着いた声色を扉に向かって発する。少しの間を置いて扉が給仕によって開かれる。


この部屋は第1王女であるミカゼの執務室。

奥の執務机で彼女は紅茶を飲んでいた。


「夜分に申し訳ありません」


「いいえ?例の件は1秒でも早く知りたいもの。それで、どこまで決まったのですか?」


軽く頭を下げて謝罪をするリッチ。しかしミカゼは気にする素振りも見せず、むしろ早く話を聞きたいと言った様子だ。


「はい。まずは編成ですが…元帥のイチブチにヒルダとバスディの大将2名。加えて私、宰相リッチを軸とする物と致しました」


告げられた名を聞いて一瞬目を見開いたミカゼは直ぐに表情を戻し形の良い顎に手をやる。


「城の守りは?」


「中将を少なくとも10名は残す予定です。幸いにも城の結界には異常が見られない為問題は無いかと。代わりに作戦期間中の陛下と王妃の外出予定は最小限とさせて頂きますが…これに関しては陛下ご本人も了承して頂いております」


個々の戦闘力は大将に劣るとは言え他国であれば充分に最高戦力になるであろう中将が複数人残る。

それだけの戦力が残るのであれば何も問題は起きないだろう。リッチを中心に既にスケジュールの調整も行なっている様子にミカゼは納得の意思を示す。


「後はそうね……艦船は?」


ここは巨大な大陸だが国は統一されているため扱いとしては島国だ。つまり国外に出るには海を渡る必要がある。


「戦艦マートン一隻の予定です。あちらの大陸へは内密に渡り、適当な街で通行証を発行する手筈となっております為」


「アレなら一隻で充分すぎる。…まさに盤石の編成ね。嬉しい限りですね」


思わず綻ぶ口元を隠そうともせず、ご機嫌な様子のミカゼ。美しい顔は妖艶であり、どこか慈愛を抱いている様にも感じる。


「身の安全はご安心下さい」


多少不思議に感じたものの微笑み返してそう発したリッチの言葉は意外にも否定されてしまう。


「違うわ?あの子の為にこの国の最高戦力が動いてくれる事が嬉しいのです」


「?対象のお方は…子供なのですか?」


「ふふっ、どうかしらね?当日のお楽しみです」


言葉通り楽し気に微笑むミカゼに対してリッチはやや呆れた様な曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

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