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第2話-とある大学生最後の日-

名前:宝井 虎人

性別:男

年齢:20

身長:184cm

体重:71kg

職業:大学生


一人暮らしのマンションの一室。彼は今日何度目かの感覚に心底うんざりしていた。いや、今日と言うかここ1ヶ月くらいずっとだ。


「またか…」


身体を引っ張られる様な感覚。しかし非力な子供に服を引っ張られる程度なので争うのは簡単だ。ここまで頻繁だと話は別だが。

正直かなりイライラする。

迷惑メールを無視し続ける行為に近いだろうか。害は少ないがとにかく鬱陶しい。

時刻は午前2時過ぎ、コンビニで買い物を終えて帰宅し玄関に立った所の彼は時間も相まって不快度はピークである。


そもそもこの異常事態を何故1ヶ月もの間無視しているのか。いや、無視出来ているのか。これを説明するには少々長く…はならない。

彼は昔から変だった…。幼少期には制御出来ない程の怪力に目覚め、物をよく破壊してしまっては周りに迷惑をかけた。年齢を重ねるとその怪力や異常なまでの身体能力も抑え込める様になっていたがかなり窮屈な生活だ。

早々に「自分は他とは違っている」と知ってしまってからは歳不相応に聡い、はっきり言って冷めた奴になってしまった。

加えて母方の祖父の家が俗に言う古くから続く地主だったりする。

以上の理由から彼は人様から見て畏怖の対象。

まぁこんな人生を送って来た故に今更こんな異常事態は些細な問題でもあったりする。しかし。


初めは不快感等は無かった。

優しい女性の声で呼びかけられ、緩く誘われる様な感覚。しかし力が弱すぎるからか中々思い通りに行かないらしい。


虎人が最も不快に思っているのは…同時期に呼び出され始めたもう一方の召喚術師?の方だ。

こちらは高圧的でいて気配も不愉快。


この召喚?とやらを受け入れたらどうなるか。それが彼には何となく分かっていた。

頭の中に「どうかお願いします」とか聞き慣れないながらも何故か聞き慣れた様にも感じる不思議な優しい女性の声、こちらは先程も言った通り不快感は全く無い。

問題はもう一方の「召喚に応じよ」とかやたら上から目線な方。


「!」


その時、女性の召喚?の力が僅かに強まった。まるで最後の力を振り絞る様に、これまでで1番強い力だ。

虎人は漠然としたイメージだけで術者に手を貸し、その声に身を委ねる。


ついに自分を引き込むだけの力を発揮した女性に不思議な安堵感を覚えながら召喚に応じる決断を下す。

何より女性の声の方は……とても気になる。あの声を聞くと夢を思い出す。

不快感が無いとは言ったが……それどころか……


愛おしいとすら感じてしまう。


まぁ行けば分かる事だろう。

ただの思い過ごしなら文句だけ言えばいい。

彼が拒否反応を示さない意思を固めると…身体が光の粒子の様に溶けて行く。


(そういやコレいつ帰って来れんの?)


…………。


(ちょっと待て今クライマックスシリーズが大事な局面で明日から首位攻防の三連戦がーーーー……)



◇◇◇



虎人side


「何だ貴様?何故ここで止まる?」


「あ?」


真っ白な空間、一応部屋の様だが…そこに佇む謎の老人。彼は見下す様に俺を睨みながらそう呟いてきた。

クライマックスシリーズの件は後で考える事にしよう。大丈夫。何とかなる筈だ。


頭に響いていた声は若い女性の綺麗な声だった。

とても初めて聞いたとは思えない程に心地よく、愛おしい不思議な声。

そんな細やかな楽しみを抱いて来たのに…何だこの色気の無いジジイ?

一瞬期待してしまっただけに落胆の色は大きい…。凄く騙された気分だ。

いやでも確かもう一個は上から目線の男の声だったが……どう見てもコイツはジジイだよな?流石に声的にもう少し若かった気がする。


「奇妙な奴よ…。普通は召喚されれば抗う術は無い筈。我を崇拝する国での召喚に何故応じん……そう言えば先程も奇妙な者が……よもや、あの忌々しい国の関係者か?」


ぶつぶつと独り言を呟く老人。ゆったりとした白いローブを身に纏っている。顔に歳は感じるもののそれなりに威厳を感じるかな。


その時、脳内にこの状況の回答が描かれ始める。現在地や目の前の老人の正体。

これまた不思議な感覚だ……まるで元から知っていた様な感じ。


ここあれだな。元いた所とこれから召喚される場所の中継地点的な場所だ。

神界のとある神の領土。コイツはその領土の1番偉い奴。

それにジジイの独り言からも察する事が出来るように…俺を召喚しようとしていた者(鬱陶しい男の方)のクライアント側がコイツらしい。

つまり俺の目当ての女性側とは関係なさそうだ。


「この様な異質な輩…後々邪魔になる…おい貴様。悪いがここで死ね」


マジで言うてんけお前?何でいきなり死ねとか言われなきゃいけないんだ。俺が何したってんだ。勝手に呼んだのはお前らだろ?

何を思ったか老人はどこからとも無く取り出した銀色の西洋剣を掲げ、こちらを襲って来た。移動も一瞬と思えるほどに俊敏。元気だなこのジジイ。

ん?呑気だって?そりゃ避けたからね。


「な!?」


ビックリしている老人の顔面にカウンターの前蹴り。


メリッッ!!


……やっべ、芯食った。

俺の内心の僅かな焦りに同調する様に老人は後方に大きく吹き飛んだ。

しかし呑気にしてるのもここまで。呼び出されたと思ったら急に殺されかける。たまったもんじゃない。あいつを無力化しないとまた襲って来るな。

それに女性の方に早く行かないと。早く逢いたい。


……あれ?起き上がらないな。流石に今のじゃ…。

おいアレ…剣刺さってね?うわー、あのジジイ運無いなー。図らずも殺しちゃったのかよ…。

けどまぁ…仕方ないか。

記憶がじんわりと蘇りつつある今、今の地球では考えられない思考に至る。例え過剰な正当防衛であったとは言えここまで罪悪感が無くなる物か…。


「何事だ!?」


何かいっぱい来た。死んだジジイと似た様な格好した奴らがいっぱい来た。老若男女色々混ざってる。どうもジジイの部下らしい。そして当然の様に襲いかかって来る。こちらが説明する間を一切与えない辺り凄くビックリする。


「ちょっと待てお前ら……問答無用で襲って来るとかどんだけ武闘派だよ」


思わず溜息混じりに出た俺の言葉は当然とばかりに無視される…。

結局全員ボコボコにした。

時には投げ飛ばし、時には腹に一発入れ、時には骨を叩き折り武器を叩き折り…

一応は殺さない様に努力はしたんだよ。でも目を離した隙に死んでいた。はぁ…。


気がつけば全滅。周りは死体の山だ。


何コレ?こんなに俺は加減が下手だったか?

さっさと女性の方に召喚されとくか。そう言えば最初のジジイは国がどうとか言ってたよな。けどあんなジジイを崇拝してる都には行きたくない。しかも崇拝対象殺したし。絶対アカン。


「…」


辺りを見回すと縦長の光の渦みたいなのが2つあった。1つはデカい。有名百貨店の入り口ぐらい。もう1つは一般家庭のドアくらいの小さい物。

うーん…どっちかに入れって事だろ?デカい方が入りやすそうだけど何か胡散くせぇ…。こっちが多分例の国だな。

小さい方は……何だろうこの感覚。俺の感性が全力でこっちに行くべきだと言ってる。…気がする。こっちが女性側だろう。


ん?……大きい方からは胡散臭い中に混じってどこか懐かしい気配が通った痕跡?


出来れば確かめたい………………。

いや、とりあえず普通に小さい方を通ろう。どうしてか大きい方からの懐かしい気配は……大丈夫だと言ってる気がした。よく分からんが何かこの感覚の正体を知る機会は今後訪れるって事だろう。

こーゆーのは小さい方がいいって昔話でも定番だしな。そもそもの目的は小さい方にある訳だし。

決心した俺は小さい方の光の渦へと入っていった。

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