第16話-規格外の拠点-
「……」
目の前にそびえ立つ大型建築を見上げる夫とその妻2名。女性陣はやり切った感を出しているがトーラは「ちょっと大き目の一軒家をイメージしてたがマンション並のが出来たな」と呟き唖然としている。
外観は立派な石造りのゴシック建築。フランスにあるランス・ノートルダム大聖堂に似ているだろうか。
「旦那様。申し訳ありません。細部にまで拘ってしまった結果、相当な量の神力をご負担頂きましたが…お体の方は問題ございませんか?」
「だ、大丈夫ですか?」
家?大聖堂?を見上げるトーラを美女2人が心配気に見つめて来る。
無理をさせたく無いと思いつつも…つい調子に乗りすぎてしまったと自覚はしているのだろう。万が一これでトーラが不調を訴えたら…しかし。
「?何とも無いけど?」
何か変わった所はあるかと聞かれれば無いと答える。流石に自分の神力が使われた感覚はある。それに気づかない程彼は鈍感ではない。
しかし彼は神々の頂点に君臨する者。いくら本調子ではないと言っても建物の一軒や二軒で根を上げる程では無い様だ。
「久しぶりに目の当たりにするとやっぱりトーラさんの神力って規格外ですね」
「天文学的数字と言う物でしょう」
彼女達は…ちょっと引いている。そこで初めてトーラは「俺って引く程の神力持っていかれたの?」と自覚する事になった。
まぁそれだけ多くの神力を注ぎ込んだのであれば目の前の建築物にも合点が行く。これはもはや歴史に残る遺産並みの物だ。
「いや普通に一軒家くらいを想像してたからさ」
「トーラ様を貧相な住居に住まわせる訳にはいきません。しかしこの土地ではこの規模が限度…心苦しい思いですがご容赦を」
ランとしても夫であり神でもあるトーラにはそれ相応の住居に住んで欲しいらしい。
深々と頭を下げるランを半眼で見つめる。土地があればもっと巨大にする気だったのか。それはもう塔や城じゃないのか?同じフランスで言えばモン・サン・ミシェルを想像してしまいゾッとするトーラ。
「山頂にこんな異物があると流石に目立つだろう?人が入って来ないとは言え遠目からでもこれは見えると思うし」
「そこはご安心を。結界を応用し、外からは不可視にしております」
「そんな結界もあったなそう言えば…」
ため息混じりにそう呟くトーラに対しフェニは初めて目にするタイプの巨大建造物に興奮を隠せない様子だ。この世界で最大の建造物と言えば王城とかだろう。しかし高さと質だけならこちらが勝っているだろう。それに…外観も美しい事は確かだ。
トーラ達の話に出て来る国の王城はこれの数倍はある超巨大建造物だがそれはまた別の話。
「これは……美しいですね。ここが私達の新居なんですね」
うっとりとした表情でそう呟くフェニがそっとトーラの腕に抱き付いて来る。なんとも艶のある動作にトーラは苦笑しながらそっと彼女の頭に頬を預ける。
「はぁ…もういいや。説明を聞いてれば設備なんかは理に適ってるし作り直させる必要も無いし」
屋上 露天風呂、屋上庭園
8F トーラ個人フロア
7F 妻達の私室多数、主寝室
6F 和室の居間、予備部屋多数
5F キッチン、メインリビングダイニング
4F 資料室、執務室、屋内大浴場、洗濯場
3F 応接室多数、アクアリウム、植物園
1〜2F 大広間
B1 倉庫、金庫
B2 地下訓練場、ジム、屋内プール
B3 機械室
別館 第二倉庫
予備部屋多数
ガレージ
各階にトイレ、レストルーム有り
4F以上には各階にシャワールーム有り
エレベーター有り
1〜2Fの大広間は吹き抜け構造
ランが提案して来た部屋割り?フロア割りは上記の通り。
巨大な外観ではあるが…とても記載されている全ての設備があの建物に入っているとは思えない。どうも空間魔法まで折り込んでいるらしい。
「色々ツッコミたいが、7階の寝室って何?」
建物内に入りランの説明を聞く。
もはや現実逃避を始めた彼は割とどうでもいい質問をしてしまう。
「本来7階は全て旦那様の妻である我々の私室にしても良い所ですが、夫婦専用の寝室用にとご用意させて頂きました。勿論、各私室はスペースに余裕がありますのでそちらにベットを設置する事も可能です」
「あぁなるほど。確かに皆んなで一緒に寝たい時もあるもんな」
「絶対に必要ですよ。今はまだ私とランさんしか居ませんし普通の大きめなベッドで大丈夫でしょうけど…再会を果たしていくと手狭になるでしょうし」
「あー……用意してなかったらアイツら文句言ってただろうなぁ…。つか予備部屋多くね?」
これ日本で家賃収入発生させたら結構稼げるよな?と、思いつつもトーラは自宅に気軽に友達を泊めたり出来ないタイプ。
「万が一、トーラ様の見定められた様な方が他に増えた時用にと。一部の部下や給仕なら住み込みも有り得るでしょうし」
「まぁ…無いとは言えんのかね……。別に仲間集めみたいな事をするつもりは現状無いけど。長旅とかしないし」
ランから言わせてみれば「彼程なら部下がいくら出来ても不思議でない」と思っているのだろう。側近扱いであれば同じ屋根の下でも構わないらしい。
「……俺的にはせいぜいこの3人はワンフロアに私室を持つと思ってたんだがな」
やっとまともな質問をしたトーラ。夫婦専用の寝室があるとは言えフロアが分かれているとは思わなかったのだろう。
「ふふっ、寂しいですか?」
「うん、寂しいかも。嘘ゴメン冗談だから作り直さなくていい」
フェニの冗談に彼は冗談で返したのだが……真に受けて神力を込め始めたランを慌てて止める。さっさと家で寛ぎたい。その一心だ。これから家具と家電と生活雑貨を創造しなきゃいけないのに。
「こ、コホン。左様でございましたか。ご安心下さい。私の部屋はいつでも出入りして頂いて構いません。また、旦那様の部屋にもお声かけ頂ければすぐに参上致します」
取り繕っているつもりらしい。だがいちいち指摘する程トーラは無粋では無い。
こうしてトーラを慕っている様子は非常に可愛らしい。
「いいの?めっちゃ入り浸るよ?」
「大歓迎です」
柔らかく微笑みながら即答したランに苦笑するトーラ。
「トーラさん?ちゃんと私の部屋にも来て下さいね?来てくれないと悲しいです」
「任せろ」
一方で眉尻をやや下げたフェニのフォローも忘れない。一夫多妻とはなかなかに多忙だ。
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