レース2
「えーではこれより第三十二回杖乗りレースを開催します!!」
わあああああああ!!
司会の人が、声を拡散させる魔道具を握り締めて大会開催を宣言する。
観客は興奮して大いに沸く。
僕達参加者は既に杖(僕は箒)を片手に横並びになって飛ぶ準備をしている。
「既にご存じかとは思いますが、選手の皆さんはここを出発したらこの都をぐるりと回って、大きく迂回し、最後は魔術学校にたどり着くまでがコースになります」
既にコースの下見は終わり、予行練習もしている。
問題はない。
「審査員があちこちで目を光らせています。大きくコースアウトした選手は失格となりますので、くれぐれもショートカットをしようなどとは思わないようにお願いします」
当然の予防措置といえる。
「それと、コース上で、万が一転落した場合でも、下には保護呪文をかけてありますので、落ちても命を落とすことはないでしょう。そういう意味でもコースアウトはしないように。ただし、転落し、地面についた場合は即失格となりますのでご注意を」
一度落ちたら復帰はできないというわけか。
「それと、レース中に攻撃魔術は認められていますが、あくまでも初歩魔法のみでお願いします。中級以上の魔法は使わないように」
まあ、都のど真ん中で、空中とはいえ、中級以上の魔法を使うのは不味いだろう。
「また、要所要所に、魔力回復ポーションの給水場を設けてありますので、無理はなさらずに、きちんと補給を行ってください」
僕が魔力を切らすことはまずないだろうけど、そういう措置があることはありがたい。
「それでは、間もなくレース開始です。選手の皆さん、準備はいいですね?」
おっと、いよいよか。
僕は胸の高鳴りを抑えて、その時を待つ。
すると、前の方で何か動きがあった。
例のヨゼフが前にいる人達を跳ねのけて、一番先頭になろうとしている。
まあ、一番前になったほうが有利だけどさ。
体格の良さを利用して殴りそうな勢いで「どけ」と言いながらズンズン前に出ている。
なるべく彼とは関わらないようにしたい。
「では、杖に跨って。準備はいいですね?」
杖に跨る。
隣ではメリアがスイッチが入ったのか、目をギラリと光らせている。
このメリアを監督することも僕の役目だからな。
「ヨーイ・・・スタート!」
全員が一斉に飛び上がった。
集団で移動すると結構危ないぞ。
なんとか、ここをかき分けて前に出ないと。
すると、一番前にいたヨゼフがくるりとこっちを向く。
なんだ?
いきなりの逆走でもあるまいに。
疑問に思うとその答えはすぐに分かった。
魔力を杖の先端に込め始めたのだ。
まさか!?
「ははははははっははははああああ!!!!」
なんと、ヨゼフはいきなり後列にいた選手達目掛けて、やたらめったら魔法を乱射した。
まだ、集団で固まっていた僕を含めた選手は堪ったものではない。
何人かは直撃し、そのまま墜落していく。
前が詰まってしまい、後ろの僕達は前方の人達に衝突しそうになる。
うわ、これ、玉突き事故になるぞ!
「「「うあああああああ!!」」」
選手達の中には、杖乗り部の面々も何人かいた。
くそ、まさか、こんな早々にリタイアなんて・・・。
さぞかし無念だろう。
それにしてもヨゼフ、なんて奴だ。
開幕早々にあんなことをするなんて。
「はっ、そうだ。メリア、メリアは?」
メリアが見当たらない。
僕が辺りを見渡すと、メリアは先程の攻撃に当たったのか、真っ逆さまに落ちていた。
「メリア!」
僕は急いでメリアの元に急降下する。
目を瞑っている。
気を失っているのか!?
不味いぞ、このまま下に落ちたら失格だ。
「メリア! メリア起きろ!」
僕が声を掛けてもメリアは目を覚まさない。
くそ、僕はメリアの肩を掴む。
「しっかりしろメリア=アルベルト! こんな所で失格してもいいのか!!」
僕があらん限りの声で叫ぶと、メリアはゆっくりと目を覚ます。
覚ますとすぐさま覚醒したメリアは前後の記憶があるのか、直ぐに杖を掴む。
「くっ! 油断した!」
メリアは杖に跨るとキッと上空を睨む。
「あいつ、許せない。絶対にぶち抜いてやる!」
「メリア。どこか痛い所はない?」
「大丈夫!」
メリアの状態を確かめると、彼女はしっかりと返事をした。
直撃を食らったわけではないのだろうか?
集団に巻き込まれて気を失ったのか。
「行くわよアルフ。大分置いていかれちゃったけど、ここから巻き返す! ついてきなさい!!」
「お姫様の仰る通りに」
メリアは急加速して飛ぶ。
僕もそれについていく。
ここから必ず逆転してやる。




