レース1
大会当日。
見上げれば、雲一つない快晴。
飛ぶには絶好の日と言っていい。
会場にはとにかく人、人、人と溢れかえっていた。
参加者も予想よりも多くて三百人はいるらしい。
観客もいるし、屋台なんかも出ていて、もうお祭り騒ぎになっている。
この大会、思っていたよりも大きいんだなあ。
僕はそれとなく視線を彷徨わせるも、やはり、箒で大会に参加する人はいないらしい。
まあ、当然と言えば当然なんだけど。
僕は時代の流れの寂しさを感じながら、持っている箒に視線を落とす。
大丈夫だ。
今日は僕がちゃんと飛んでやるからな。
大会までの間、僕はこの箒に魔力を込め続けた。
今ではそこいらの杖には負けないくらいの魔力が込められているはずだ。
だから、圧倒的不利にはならないだろう。
よーしやってやるぞ。
視界の端に馬鹿に大声で会話をしている三人組を見つけた。
見るからにガラの悪そうな人達だ。
関わり合いになりたくないので、僕は視線を外してスッと移動を開始するも、どうやら遅かったようだ。
三人組は僕に目をつけて指をさした。
「おい、見ろよあのガキ。なんで箒なんかもってるんだー、ぎゃはは!」
「んん? おいおい、まさかまさか、あんなんで飛ぶつもりじゃねーだろうなあー、あーん?」
「もしそうなら真正の馬鹿だぜ。くはははは!」
指をさして笑い転げる三人。
それで僕は注目されてしまったようで、一斉に参加者が僕を見た。
うわっ、不味いなこれ。
「アルフ、行きましょう」
メリアが僕の袖を引っ張った。
うん、それがいいね。
僕達はそろそろと場所を移動しようとしたのだが、三人組はそれを許してくれない。
「待てこらあ!」
三人組に一人が僕の箒を掴んだ。
取られないように僕はぐっと手に力を込める。
「・・・なんですか?」
「ぎゃはは! マジでただの箒だ。お前これでやる気かぁ?」
「僕はこの箒で参加します」
「マジか。こいつマジかぁ!」
「馬鹿だ、馬鹿がいる」
ゲラゲラと笑う三人組。
うーん、品性。
こんな人ばかりが参加者じゃないといいんだけど。
さっさと箒から手を放してくれないかな。
これでトラブって参加取り止めになんかなりたくないぞ。
その時、非常に身体の大きな男の人が僕達の前を通りかかった。
漲る魔力。
こいつ、出来る。
背も高くがっちりとしていて魔術師というよりも剣闘士なんかが似合いそうなその人は僕達を見て、冷たい眼差しを向けると、ぐっと拳を握った。
「!?」
「どけ」
振り下ろされた拳。
僕は咄嗟に避けたけど、三人組の一人がもろに拳を食らってしまう。
「げは!?」
「て、てめえ、なにしやが・・・る」
三人組に一人が食って掛かろうとしたが、その体躯に圧倒されたのか、しり込みしてしまう。
「・・・ヨゼフ」
三人組の一人が、大男に向かってそう呟く。
ほう、この人の名前はヨゼフというのか。
名前を知っているということは結構な有名人かな?
メリアが僕の耳元で囁く。
「アルフ、注意して。あの男はヨゼフ。杖乗り大会で常に上位に食い込む猛者よ」
「へえ、やっぱり有名なんだ」
「有名なのはそのスタイル。誰彼構わずに魔法をぶつけて自分の飛行に邪魔する奴は容赦なく叩き落すことから狂乱のヨゼフって呼ばれているのよ」
「それは怖いね」
おっかない二つ名がついている。
相当ラフなプレーをしてくるのだろう。
三人組はビビってしまってすごすごと姿を隠すように消えていった。
残ったのは僕とメリアとこのヨゼフの三人。
既に臨海体制のようなピリピリとした緊張感が漂ってくる。
スポーツと言うよりもこれでは決闘前のような雰囲気だ。
ヨゼフは僕の箒を見て、小さく鼻を鳴らす。
「下らねえ」
どうでもよさそうにヨゼフは視線を外した。
彼にしてみればただ奇をてらっているだけにしか映らないだろうし、それは仕方がないことだと思う。
いや、このレースを見に来た多くの人がそう思うことだろう。
だが、構わない。
このレースでその認識をひっくり返してやる。
すると、ヨゼフが視線を向けたある人物がこちらにやって来た。
「レイゲン」
レイゲンと呼ばれた人物は、金髪の長身で中々のイケメン風の男だった。
なんか、歩くたびにキラキラ光る何かが放出されているかのようだ。
こ、これがイケメンか。
僕もいずれはあんな風に、なるかな?
「やあ、ヨゼフ。今年も参加の様だね」
声までイケている。
何だこの人は!
メリアがひっそりと僕に耳打ちする。
「レイゲン。昨年度の優勝者よ」
「えっ!? そうなの」
この人が昨年の優勝者。
こんなにいい男なのに、杖まで乗れちゃうの?
なんか狡くない?
ヨゼフは先程まで落ち着いていた雰囲気を壊し、殺気を膨らませる。
今すぐに誰かを殺そうとしているかのようだ。
「いい気になるなよ。今年、表彰台の一番上に立つのはこの俺だ」
「ふっ、期待しているよ」
両者バチバチにやり合うと、ヨゼフはのっしのっしと去っていった。
「ふう、相変わらずだな、彼は」
レイゲンはそう言うと、視線を僕の箒に向けた。
「君、その箒で参加するのかい?」
「はい、そうです」
僕は元気よくそう答えると、レイゲンは目を丸くした後に「ぷっ」と小さく吹いた。
「いや、すまない。君は本気なんだね?」
「当然。やるからには一位を目指します」
「ならば、私達はライバルだ。よろしく頼むよ」
そう言って彼は僕に握手を求めてきた。
くっ、なんて爽やかな人だ。
これがイケメン。
「アルフです」
「レイゲンだ」
長居するつもりはないのか、レイゲンは颯爽と歩き去る。
か、かっこいい。
「おーいアルフー」
今度は杖乗り部の先輩たちがやってきた。
僕達は手を振って、それに応える。
レース開始まで間もなくだ。




