杖乗り大会
杖乗り大会。
それは毎年行われる、この都の行事である。
参加者は学校の人間だけでなく、都中から募り、いつも何百人と集まるらしい。
コースはこの学校からスタートし、用意されたコースを飛び、再びこの学校に戻ってくるというもので、結構な距離を飛ぶとのことだが、まあ、空を飛ぶのだからある程度の距離は必要だよね。
ふむ、大体分かった。
それで、いつも魔術学校の杖乗り部は参加しているんだけど、最近は成績が芳しくないらしく、今年こそはと息を巻いていた時に、僕を見つけて誘ったというわけだ。
「それで、どうだろうかアルフ。参加してくれないか?」
あまり深く考える必要はないだろう。
別に部活に参加してくれといっているわけではない。
今回限りの大会に出てくれと言っているだけなわけだし、僕もその大会とやらに興味もある。
「その話、お引き受けします!」
「「「おおおおおおお!」」」
杖乗り部の皆さんは、喜びの声を上げてガッツポーズ。
どうしてもこの大会に勝ちたいらしい。
「ありがとう! 杖乗り用の杖はあるか? ないのならこっちで用意するけど」
「いえ、僕は箒で参加します」
「「「えっ?」」」
これに驚く、杖乗り部の面々。
「い、いやアルフ。本気か?」
「本気です」
先輩方は、難しい顔をして首を捻る。
うん、まあ言いたいことは解る。
さっきの授業で分かったことだけど、杖乗り用の杖には飛ぶために必要な魔力を通しやすいようにきちんと整備されているらしい。
今日の授業でも、苦戦しつつも飛べない生徒は一人もいなかった。
今日初めて飛ぶ生徒もいたのに、全員が成功した裏では、この飛ぶ専用の杖の功績もあったのだろう。
その点、僕が乗ろうとしているのは箒だ。
ただの箒だ。
これにはなんの細工もされていない。
僕が飛ぶ時もそれなりに苦労したし、素人がこの箒で飛べと言っても無理だろう。
先輩方の気持ちはよく解る。
しかしである。
「僕は箒で参加します。そして、必ず良い成績を収めてみせます。お願いします」
誘ってくれた先輩方に僕は頭を下げた。
反対されても僕の意思は既に固まっている。
なんとしても箒で参加する。
五百年前の魔術師の意地として、必ずこれで一等とは言わないまでも上位には、いやいや、一等を取ってみせようじゃないか。
「まあ、アルフは急遽お願いしたわけだしな。分かった。俺達はお前にかけるぜ」
「良かった。期待に応えられるように頑張りますね!」
こうして僕の大会出場は決まった。
この大会に出場したが為に、僕は非常に面倒なことに巻き込まれる。
この時はそんなこと、全く考えてもいなかった。
*********
「へえ、杖乗り大会。あれに出るの」
その日の夕食で、僕は杖乗り大会に出場する旨を母さんに話して聞かせた。
昔はこの都に住んでいた母さんは当然のように杖乗り大会のことを知っていた。
母さんは、腕を組んで悩むポーズを見せる。
なんだろう?
「アルフ、怪我はしないようにね」
「怪我?」
確かに操縦を誤れば、落ちて大怪我だけど。
「大丈夫だよ母さん。これでも前世では結構な乗り手だったんだよ? 初歩的な落下なんてしないよ」
「そうじゃなくてね。この大会結構乱暴な大会でね。妨害工作も認められているの」
「妨害工作?」
「つまり、障害となる選手に攻撃することもありな大会」
「ええ! 攻撃魔術も認められているの?」
落ちたら大怪我するっていうのに、その上攻撃魔術の使用が認められるなんて、なんて危ない大会だ。
「稀に死者も出るのよ」
「中止になったりしないの!?」
死者が出るならもう中止にしたほうがいいだろう。せめて来年からは攻撃魔術の使用を禁止するとかの措置を取ったほうがいいと思うんだけど。
「見ている側としては、そんな過激な大会が好きなのよ。だから毎年行われているわ。ああ、でも、上級魔術の使用は禁止ね。流石に建物や観客を巻き込むような大規模術式は認められていないわ」
「まあ、せめてもの措置って感じだね」
それにしても怖いな。
ただの競技でそこまでするか。
まあ、しかしである。
僕は前世で悪い魔術師と箒で飛びながらのバトルなんかも経験しているし、その程度で怯んだりはしない。
むしろどんとこいである。
「だから、アルフ、気を付けてね」
「分かったよ母さん」
そう言いながら僕は厚く切った肉をぱくつく。
うん、肉汁が染み出して上手い。
「あ、それなんだけどアルフ」
それまで黙って食べていたメリアが声を掛けた。
「何?」
「私も出るから。杖乗り大会」
「えっ! メリアも参加するの?」




