告白
「くっ、焦らせやがって」
まさか追ってくるとは思わなかった。
クラウスは胸を押さえながら呼吸を整える。
アルフとの接触は禁止されている。
家からの命令なので、逆らうわけにはいかないし、学校の目もある。
また騒ぎになればたちまち家に報告されてしまうだろう。
それは避けたい。
「それにしてもアルベルトの奴。なんともないのか?」
少し前、兄は自分の泥を拭うと言った。
確かにそう言った。
つまるところそれはアルフに何かしらの接触をするということを意味している。
あの兄が事を起こすのだ。
穏便に済むとは思えない。
よくて大怪我。
悪ければ本当に殺してしまっても不思議はない。
だが、その予想とは裏腹にアルフは五体満足で今も変わらずに学校に通っている。
兄はまだアルフに何もしていないのか、あるいはアルフが兄のちょっかいを跳ね除けたのか。
慎重な兄なので、まだ何もしていない可能性はあるが、しかし、烈火の如く怒っていた兄がまだ何もしていないというのは考えにくい。
ならば、アルフが跳ね除けたのか?
兄は自分とは違う。
本気でアルフを潰しにくる。
それを跳ね除けた?
所詮は十五歳のガキ。
それが兄を退けられるものなのか?
分からない。
だが、あの男ならばそれができるのではないかと思わせる何かがある。
得体の知れない男だ。
確かに関わらない方がいいのかも知れないが、気になる。
メリアのこともある。
メリアがアルフに笑顔を向けるたびに胸にガツンと衝撃が来る。
見なければよいのだが、目が離せない。
兄に尋ねようにも怖くて聞けない。
結局クラウスは遠目でアルフ達を見ることしか出来なかった。
翌る日のことである。
僕がいつものようにロッカーに荷物を預けようとした時に、何かがロッカーに置いてあった。
それは可愛らしい封筒に入っていた一通の手紙。
「なんだろう?」
僕は首を捻りながら、封筒を持ったまま教室に入った。
教室に入りメリアとリゼに挨拶をすると、僕は先ほど手に取った封筒を机に置いた。
「・・・アルフ。何それ?」
メリアが眉間に皺を寄せながら問いただしてくるので僕は素直に話す。
「なんかロッカーに入ってたんだ。なんだろうね?」
よく分からないので二人に聞いてみると何故か二人は顔を引き攣らせて封筒を凝視している。
「これって・・・」
「か、可愛い封筒ね」
「だよね。差出人は女の子からかな?」
「は、早く開けてみて!」
「え? あ、うん」
何故か緊迫した様子で封筒を見つめる二人。
僕は中の手紙を取り出すと、やはり可愛らしい字の文面でこう書かれていた。
『アルフ君。大事な話があります。授業が終わったら校舎裏の木の下まできて下さい』
ふむ。
何かの呼び出しらしい。
またグジーのように喧嘩をふっかけられるのか、はたまたザック先輩のように部活の勧誘か。
無視してもいいけど、この文面、封筒から察するに相手は女の子。
女の子を無視する選択肢は紳士の僕にはない。
行かねば。
「やっぱりラブレターじゃない!」
メリアが目を血走しらせる。
「ラブレター?」
メリアは爪を噛んで何やら呟く。
(くっ、不味いわ。恐れていたことが現実に)
とりあえずメリアは放っておこう。
僕はリゼを見る。
「ねえ、リゼ。これってラブレターかな?」
尋ねると珍しく動揺した素振りを見せたリゼは、取り繕うように咳払いをした後で頷く。
「あ、ああ。多分そうだと思うよ」
「ふーん。そっかぁ〜」
僕にラブレターか。
ほう。ほっほう。
キタのか?
きてしまったのか?
この僕に到来したのか?
所謂、モテ期ってやつが!
「ねえ、僕ってモテるのかなあ?」
「くっ、ムッカつくわねこの顔」
「完全に浮かれてるねえ」
僕はいそいそと手紙を封筒に戻して机にしまう。
「それで? どうするつもりよアルフ? 行くの?」
「勿論行くよ。紳士だからね」
「へ、返事はどうするのよ?」
メリアは真剣そのものの顔で僕に問う。
「うーん。放課後まで考える」
「か、考えるって」
「メリア」
前のめりになっているメリアの肩をリゼが掴む。
「アルフの問題だから」
「う、うん。そうね・・・」
それから僕達は放課後まで、ソワソワした時間を過ごした。
*********
そして、放課後。
僕は校舎裏の木の下までやって来た。
そこには既に女の子が来ていた。
ふわふわした髪の、目がクリッとした女の子だ。
なんだか小動物を連想させる。
この子が僕に手紙を送ってくれた子か。
「君が僕に手紙を?」
「は、はい!」
この子が僕に。
落ち着け、まだ『大事な話』と言われただけだ。
告白と決まったわけではない。
先ずはこの子の話を聞くことが重要だ。
「大事な話って書いてあったけど、どんな話かな?」
「はい。それは・・・」
女の子が顔を赤くする。
お、お、お?
これは?
「ア、アルフ君が好きです。あたしと付き合ってください!」




