ちらつく影
「はー、先輩は強かったなぁ」
僕は頭の後ろで腕を組んで、先程戦ったザック先輩を思う。
あれだけ強ければ、騎士として十分通用するだろう。
今の時代の剣術がどの程度なのかは知らないが、前世の時代であれば、頭角を現すに十分なレベルだ。
あの人は将来何になるのだろうか?
興味深いな。
僕の横に並んだメリアとリゼはそれとなく僕に視線を送って来た。
「何?」
「あ、いやいや。アルフなら剣でも先輩達を圧倒しちゃうんじゃないかと思って」
頬をぽりぽりかきながらそう言うメリア。
「がっかりさせてごめんね。前世でも剣はあまり得意じゃないんだ」
あくまでも護身用に身に着けていた技術だ。
それ程、突き詰めようとはしなかった。
「そう言えばアルフレートが剣で有名なエピソードってないわね」
「そうでしょう?」
僕はあくまでも魔術師だから、剣で強くなる必要はないと思っている。
「いや、私はやっぱりアルフは凄いと思ったよ。あの先輩は相当強かった。今すぐに騎士団に入れるくらい。その先輩とあれだけ打ち合えれば大したものだよ」
リゼはそう言うとメリアに視線を移してにこりと笑った。
「ま、まあね。ザック先輩は強かったわ。正直、魔術ありでも私じゃ勝てないんじゃないかっていうくらい。だからまあ、アルフは凄いんだけど・・・」
「ふふ、メリアはなんでもアルフが勝ってくれないと嫌なんだね」
「も、もういいじゃない。それに、アルフが剣魔術を自在に使ったらザック先輩だって勝てなかったわ」
リゼは苦笑する。
「あれには正直たまげたよ。剣魔術のことは知ってはいたけど、あんな使い方をした実例はないんじゃないかな」
僕は首を傾げた。
そうかな?
魔力で剣くらいまで剣状に伸ばせるのならもっと伸ばそうと思わないかな?
ちょっと考えれば誰でも思いつくと思うんだけど。
「アルフ。魔力が足りないわ」
「え?」
僕の心を読んだかのようにメリアが言った。
「杖にあれだけ魔力を込めて硬質化させ、剣を伸ばすのって大変よ。だから長い杖を使うの。アルフのその小さい杖で剣くらいまで魔力を伸ばすのだって中々出来るものじゃない。それをゆっくりならともかく、瞬時に伸び縮みさせるなんて熟練の剣魔術使いだって出来るかどうか・・・」
「ああ、なるほど」
僕の自慢の一つだが、僕の魔力量は常人の百倍くらい。
だから意識していなかったけど、そうか。魔力を伸ばすのは大変か。
「ましてや剣をぐるぐる曲げて防壁を作るなんて、魔力も技術も足りなくて、剣魔術を知っている人間ほどやろうとは思わないわよ」
「そうか。だから発想がないんだね」
惜しいな。
あれならどんな形状の武器も作ることが出来るのに、もっとうまい方法があればいいんだけど。
けど、剣魔術は純粋に面白かった。
本当は曲げたり伸ばしたり出来ればもっと面白いんだけど、剣として使うだけでもいいかもしれないな。
掛け持ちでもいいって言っていたし、時間があるときはお邪魔してもいいかもしれない。
僕達が歩いていると、前方から人影が見えた。
その人影は僕が見ていると気が付くと慌てて姿を隠す。
なんだ?
気になった僕は少し早足になり、その人影を追った。
「アルフ?」
僕の速度が上がったことに不審に思った二人は僕を追ってくる。
廊下の曲がり角でその人物に追いつく。
その人物とは。
「あ。・・・クラウス」
そう。
僕を見ていたのはあのお騒がせクラウスだった。
あいつ、まだ僕に関わろうとしていたのか。
「くっ!?」
クラウスは僕が追っていると気が付くと、駆け足で去っていった。
また因縁をつけようとしたわけじゃないのか。
じゃあ、何で僕を見ていたんだろう?
「アルフ。さっきのって」
「ああ、クラウスだったね」
メリアとリゼが目を細めて走り去るクラウスを見ていた。
「彼も懲りないね」
リゼがやれやれといった様子で首を振ると隣でメリアは憤慨していた。
「ねえ、やっぱり問い詰めるべきじゃない? あの黒炎を雇ったのはお前かって!」
僕達を襲った殺し屋。黒炎。
警備隊が調査してくれているけど、未だに誰が襲って来たのか分からない。
僕達のようなただの学生を襲う理由は一体何なのか。
僕が侯爵家の人間だから襲った?
だったら誘拐すればいい。
殺す理由はない。
雇い主は痛めつけても殺してもどっちでもいいと言っていたと黒炎は言った。
それで思いつくのは復讐。
僕に復讐がしたい人間の心当たりは、あるといえばクラウスくらいか。
だけど、果たしてクラウスがそこまでするかどうか?
「今は考えても仕方がない。極力もうあいつとは関わらないほうがお互いの為だと思うよ。行こう」
僕は二人を促して帰ることにした。
クラウス。
お前は一体何を考えている?




