親子喧嘩
ごっちぃーーん!!
「あいってぇーーー!!」
げんこつを食らった。
ええ、食らいましたとも。
「いい加減にして!!」
母さんはこれまでに無いほどに怒っていた。
怒るよね。
「そのクラウスって奴は本当に最悪だわ!」
「でしょ!」
「あんたがそのレベルまで堕ちてどうするの!!」
「それは・・・」
「もう勝手にしなさい!!」
「えっ」
母さんはそう言ってガタっと椅子から立ち上がると、自室に飛び込み、ドアを勢いよくバタンと閉めてしまった。
「・・・あ」
隣で見ていたメリアは困った顔で肩をすくめた。
「こればかりは私じゃどうにも出来ない」
それはその通り。
全て僕の責任なのだから。
「今言えることは、すぐに叔母様を追いかけることよ」
「だね!」
僕は急いで、母さんの自室の前まで来た。
ノックしようとした手が緊張を伝える。
こんなに緊張したのは、母さんに魔術がバレた時以来か。
「母さん。入るよ」
ノックして恐る恐る部屋に入ると、母さんはベッドに座り、こっちを見ようとせずに窓側を向いていた。
どうする?
なんて言う?
仕方なかった?
悪いのはクラウスだ?
違う、違うな。
「ごめんなさい母さん!」
僕は頭を下げた。
そのままの姿勢で僕はパサパサの口を開く。
「母さんがずっと心配してくれていたのに、学習しないで。僕は、馬鹿だ」
母さんはまだ黙っている。
「約束する。もうくだらない喧嘩も、目立つこともしないよ」
長く思えた沈黙の後、母さんはポツリと口を開く。
「本当に反省してる?」
「正直、ゲンコツだけなら、本当の意味でしなかったかも知れない」
ペロリとカサカサの唇を舐める。
「でも、母さんが本気で怒ってくれたから、とても反省してるよ」
「もうしない?」
「しないよ」
ふぅ、と、ため息が聞こえる。
何回母さんにため息をつかせてしまっただろうか?
「もういいわ。あら、ずっと頭を下げてたの? 顔を上げて」
「・・・うん」
「十五になっても、アルフレートの記憶が戻っても、まだまだ子供ね」
「母さんにかかったら、僕はずっと子供なのかもね」
「いつまでも、手がかかる」
「ごめん、ね?・・・」
そう言ったあと、僕は壁にかかっていた絵画に目がいった。
それは人物画。
そのモデルは、
「父さん」
そうだ。
覚えている。
あの日、足を挫いて、それでも僕らを護る為に、戦った勇敢な人の顔を。
「ああ、そっか。覚えてるんだっけ」
そう言って、母さんも絵に目がいく。
「下手でしょ?」
「んん?」
確かに、特徴は捉えてるけど、タッチは荒いし、特別な技法を使っているわけでも。
え?
「これ、母さんが描いたの?」
「他に誰が描くのよ。あの人は唯の行商人だった」
それはそうか。
貴族でもなんでもない父さんを描く画家なんていないよな。
「でも、記憶がハッキリしているうちに、描いておきたくてね」
「そうなんだ」
こっちに越してから描きあげたわけではないだろ
う。
僕に内緒でコツコツ描いていたんだ。
「覚えておいてね。お父さんを。あなたをとても愛していたことを」
「忘れないよ。絶対に」
「さて、仲直りの握手をしましょうか」
そう言ってベッドから降りた母さんは僕に握手を求め、僕は握り返した。
「アルフ」
「何?」
「やるからには徹底的にやっちゃいなさい!」
母さんはウインクし、僕は大きく頷く。
「勿論さ!」




