言語対決
「・・・ええと、正解です」
ざわざわざわ。
次の日の歴史の授業。
ミネルヴァ先生は、順番に指名して、教科書を朗読させていたのだけれど、僕が読めないと思っていたので、飛ばしてくれようとしたから、問題ありませんと言って、戸惑いつつも読むように促され、実際に読んでみた。
どうやら問題なかったようで、ホッとしたのだが、周りの反応は予想通りだった。
母さん。
ごめん、知らないふりをするべきだったかもしれない。
「あいつマジなのか?」
「嘘でしょ? 一日で読めるようになったの?」
「いやでも、初日のあの魔術戦闘を見ると、あり得そうな」
そんな周りの反応に困っていると、
「茶番だ!!」
ほら来た。
クラウスが席から立ち上がり、僕を睨みつけながら指差す。
「自作自演だ。お前は初めからイグッシュ語が解ったんだ。なんだ? 『僕一日で覚えました。凄いでしょ?』とでも言いたかったのか?」
イラ。
その煽り方、マジでイラつくわ。
「本当に昨日までは解らなかった。これでも努力したんだ」
「嘘だな。つまらない芝居はやめろ」
こんにゃろ。
「いい加減にしてよクラウス。彼は単に授業に追いつきたくて必死だったってだけでしょ!」
メリアが庇うと、クラウスは益々顔を歪ませる。
「三ヶ国だ。明日までに三ヶ国語覚えてこい。そうしたら信じてやる」
「「はあ?」」
何言ってんですかこの子?
「出来ないだろう。ふふ、これで茶番と認めるんだな」
なんでそうなるんだ?
多分こいつ、本当はここまで馬鹿じゃないだろ。
僕が憎らしくて見境がなくなってるんだ。
「クラウス君。いい加減にしなさい!」
先生の怒られて、クラウスは若干怯んだ。
しかし、それでも止まらない。
「ふっ、女の先生に庇われて、さぞ嬉しいだろうな田舎者」
「クラウス君!!」
こいつ、先生にまで、いい加減にしろよ!
「いいだろう。明日までに三ヶ国、いや、五ヶ国覚えてやるよ!」
「・・・何?」
クラウスは信じられないという顔で、僕を見る。
「ちょ、ちょっとアルフっ」
メリアがこそっと止めに入るが、クラウスは更にいちゃもんを付けてくる。
「い、いや駄目だ。お前は本当は言語学が得意なんだ。騙されないぞ」
野郎、さっきは、三ヶ国って言ったのに。
「だったら十ヶ国だ!」
どぉおおお!!
周りから声が響いた。
「十ヶ国・・・」
「そうだ。国はお前が指名しろ。その国の言葉を覚えてやる」
クラウスが戦慄を覚えたように顔を引きつらせ、横眼で見たら、リゼは目を丸くし、後ろからはメリアが大きく嘆息する声が聞こえた。
「仮にだ。僕が言語学が堪能だとしても、母国語を含めて十二ヶ国語喋れるってことだ。それだけ出来れば文句はないだろう」
「・・・いいだろう。それじゃあニ日後くらいに」
「明日までで結構だ」
どぉお!!
再び教室が沸く。
「あああ・・・」
メリアがどうしたものかといった声を上げた。
ごめんメリア。
ここで引けわけにはいかないんだ。
「か、勝手にしろ!」
そう言ってクラウスが吐き捨てた時。
「いい加減にしなさい!!!!」
バン!! と、思い切り教壇を叩きつけ、ミネルヴァ先生がキレた。
「私の授業はそんなにつまらないですか? そんなに喧嘩がしたいんですか!?」
「「い、いや、そんなことは」」
こ、怖ぇ~。
のんびりしてそうな人なのに、そういう人ほど怒らせちゃいけないって本当だな。
「アルフ君!!」
「ひ、ひゃい!!」
やば、変な声出ちゃった。
「『〇×△』」
ミネルヴァ先生が知らない単語を口にする。
「復唱してみなさい」
「あ、はい『〇×△』」
一応言ってみたが、先生みたいに流暢には言えない。
「ゴータ君!!」
キッと先生はクラウスを睨む。
クラウスは先生の圧に負けてビクッとなる。
「どの国をチョイスするかはお任せしますが、カランド語は入れておきます。いいですね?」
「わ、分かりました」
ふむ、今のはカランド語というのか。
というか、この茶番を授業中にやっていいの?
「それと、アルベルト君が明日出来ようが出来まいが、これ以上のトラブルはごめんです。これが最後にして下さい。出来なければ相応のペナルティーを課します」
「「はい」」
なるほど。
これ以降、授業妨害をさせない為にか。
目を三角のまま、先生は大きくパンパンと手を叩く。
「はい、では授業を再開します。これ以上わたしを怒らせると何するか分かりませんよ!」
・・・それ以降、私語をする人間は一人も現れなかったのは言うまでもない。




