悪竜
「なんか言うことはあんのか? あ゛? くそ親父?」
今喋っている大変に口の悪い人は一体誰でしょうか?
はい、僕の母さんです。
「お、親父・・・」
僕達は学校が終わった後、予め手紙で伝えている内容に加え、僕がめでたく学校に入学した旨を母さんに伝えた。
そこには既に知らせがいっていたのか、お祖父ちゃんの姿もあった。
そして、母さんは大層お怒りなのです。
「・・・まさか、コネで手続きを省いたのはいいとしても、本当に裏口入学。試験も受けてなかったなんて」
「ごめん母さん。試験があること自体知らなくて」
いや、よく考えればあって当然だ。
浮かれていたとしかいいようがない。
「アルフが責められるなら、わたしも責められる立場なんだけど、一番はこの爺よ」
「じっ・・・もっと言い方があるだろう?」
「あ?」
「・・・」
母さんに睨まれて、お祖父ちゃんは黙ってしまう。
ああ、せっかく溶けてきた十五年の確執が逆に深まっていく。
「せめてよ? そのことはわたしとアルフに伝えるべきじゃない?」
「う、うむ。そうだな。だが、そのぉ」
「何!」
「やっと話が出来た孫に格好をつけたかったというか・・・」
「あ゛あ゛ん!?」
「母さんもういいよ!」
そんな怖い母さんを、何時までも見ていたくない。
「でもアルフ」
「なんとかなったしさ。お祖父ちゃんも気にしないでよ」
「ア、アルフ」
会ってから間もないお祖父ちゃんに、目をウルウルさせて見つめられるのは、結構きついことが判明。
「はぁ、もういいわよ」
大きくため息をつくと、母さんはメリアに目を向けた。
「貴方にも迷惑をかけたわねメリア」
「いいえ、おば、お姉様。私こそ、アルフの力になれずに・・・」
「いいのよ。この子はそんじょそこらの苦境に負けたりしないわ」
自信満々。
僕を全面的に、当たり前に信じているその言葉が、僕は何よりも嬉しい。
「さ、今日は色々あって疲れたでしょう? メリアは泊っていきなさい。食事をしましょう」
「はい!」
「うむ、でわわしも」
「は? 爺は帰るのよ。しっしっ!」
「・・・」
哀れ過ぎるよお祖父ちゃん。
でもごめん。
今の母さんから庇うのはちょっと無理かも。
お祖父ちゃんはトボトボと馬車に揺られて帰っていった。
その哀愁を僕は切なく見つめて見送るのである。。
見つめていたのが僕だけで、女性二人はさっさと食堂に行ってしまったのが、なおさらに辛かった。
*********
「はぐはぐはぐ」
やわらかいパンを頬張ると、水を一気に飲み干す。
旨い。
田舎の固いパンとは違っていい粉使ってるね!
「アルフ。お行儀よくしなさい」
「ごめん。美味しかったからさ」
母さんに注意を受けている僕が可笑しかったのか、メリアはくすくすと笑った。
「やっぱり田舎者なのね」
「あ、また田舎を馬鹿にしたな!」
「アルフも、もう貴族なんだから、しっかりしないとね」
「それなんだけど、僕って貴族になるわけ?」
嫌だ。
凄く面倒くさい。
偉くなって喜ぶ人は当然いるだろうけど、これなら田舎に平民として生きていく方がいい。
でもそれだと、学校がなあ・・・。
「まあ、ある程度の付き合いはするかもしれないけど、アルフは女のわたしの子供だし、家督争いの心配はないと思うから、気軽でいいんじゃない?」
「ほんと?」
「いいわよ。わたしも奔放に生きてるんだし」
母さんその辺強いよなー。
気軽な話をしながら、僕はタイミングを窺ってメリアに話しかけた。
「メリア。今日は色々あったけど、聞きたいことがあったんだ」
「何? クラウスのこと?」
「あれはどうでもいい」
同クラスになった以上、これからもトラブルはあるだろうが、それよりももっと重要な話だ。
「悪竜バハムート。一体どんな伝承として残ってるのか教えてくれ」
「ああ、何かその話をチラッとした時に、様子がおかしかったわね? 何かあるの?」
ここは適当に理由をでっち上げるか。
「や、アルフレートフリークとしてはさ、彼について知らないことを知っておきたくてね」
それを聞いて母さんはフォローを入れてくる。
「何々悪いドラゴンの話? わたしも昔話で聞いた気がするけど、教えてくれる?」
ナイスだ母さん。
「なるほどね。それじゃあ、その一節をお話ししようじゃあないの」
「「お願いしまーす」」
メリアはコホンと咳払い。
「悪竜バハムート。鋼の如き黒い鱗に包まれ、その翼、どの生き物よりも大きく、その牙と牙はあらゆるものを貫き、絶望と災厄をまき散らす、最悪にして最強の竜なり」
・・・随分と拗れて伝わってるじゃあないか。
「それで、アルフレートとはどういう接点があったのかしら?」
「それはですね。近隣の町や都市を襲うバハムートに怒り、アルフレート様は果敢にも単独で討伐に乗り出します」
「ほほぉ」
聞き手として優秀だよ母さん。
今の僕には、無理だ・・・。
「決着は中々つかず、アルフレート様は撤退と挑戦を繰り返しました」
「一回で決着がつかなかったんだ?」
「相手は悪竜バハムート。最強種の竜種にあってその中でも最強。いかにアルフレート様といえど、人の身で立ち向かうにはあまりにも強大な相手でした」
「へー、アルフレートでも難しいことがあるのねー」
そう言って母さんはチラッと僕を見る。
「ですが!!」
ぐぁっとメリアは拳を握り、立ち上がった。
「アルフレート様は諦めなかった。何度も立ち上がり、邪悪なる竜に挑み。等々討伐せしめたのでした!!」
「おー」
パチパチパチと母さんは手を叩いた。
「違う」
僕は自分でもびっくりするくらい低い声で、そう言った。
「え?・・・」
「彼は確かに、粗野ではあった。でも、気高く、誇りある、立派な竜だった」
「ア、アルフ?」
「戯れに人里を襲ったことなんか一度もない。彼は、アルフレートの、大事な友人だった」
拳を握り、奥歯を噛む。
「どこの誰だ? 彼の名を汚した奴は?」
ブァ!
知らず知らずのうちに、体から魔力が漏れ出た。
「え、え!?」
「ちょ、ちょっとアルフ。ストップ。ストーップ!」
・・・。
「え?」
あれ?
ちょっとイラっとしたかな?
「な、な、な・・・」
メリアは戦き、母さんはは~っとため息をつき、テーブルに肘をついて、額に手を当てた。
「今の魔力何ぃーーーー!!」
「あー、僕って素人だから制御が上手くできなくてね?」
「制御とかじゃなくて、量よ、量! なんなのその魔力量!?」
「僕、筋肉量も結構自信あるよ」
そう言って握りこぶしを作ってみます。
これで誤魔化しが・・・あ、出来ませんね?
「メリア、この子はちょっと特異体質なの」
「そ、そうですね。特異もいいところですけど」
「子供の頃はそれで結構体に負担がかかってね」
「・・・え?」
「命を落としそうになった事もあったわ。だからどうしても魔術の制御が出来るように、無理に学校に通うことにしたの」
「そ、そうだったんですか」
おお、凄いよ母さん。
この身体のせいで、僕に辛い過去があったとアピールし、学校に通う理由に結び付けるなんて。
「だから、これからもこの子の面倒をよろしくね」
「は、はい! 任せてください。必ずアルフを真人間にしてみせます!」
僕は更生が必要な不良じゃないからね!!




