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青い髪の少女。リゼ

「アルフ!!」


 闘技場から出て、控室に戻ろうとすると、メリアが飛び込んで僕をギュッと抱きしめた。


「ちょ、ちょっとメリア!?」


「凄い、凄い凄い!! 君って凄いわ!!」


「お、おお。ありがとう」


 僕から離れても、メリアは息を弾ませ、顔は赤く上気していた。


 ニッと僕は笑う。


「な? やってみないと分からないだろ」


 メリアはきょとんとし「そうね」と笑った。


「でも、いきなり殴り合いを始めた時はどうなるかと思ったわ」


「いやあ、僕も初めはやるつもりはなかったんだよ」


「ならなんで?」


 うーんと、僕は首を捻った。


「テンション上がったから?」


「ぷっ。何それ?」


「それに、火の玉をぶつけるより、直接ぶん殴ってやりたかったからね」


 ぐっと僕はガッツポーズを作った。


「・・・やっぱり喧嘩っ早い」


「や、あれくらいはしてもいい程のことを僕はされたと思うよ?」


「確かにね」


 腕を組んでうんうんと頷いた。


「でも、あいつが不正をしているとは思わなかったわ」


「そうだね。臆病な奴なのかな?」


「臆病?」


「絶対に勝たないといけないから不正をしたんじゃないか?」


「確かに、そうね」


「それに大怪我させて僕を笑いたかったんだろう」


「そっちがメインかも」


「そうだね。もしかしたらアイツはそれしか頭になかったのかもしれない。でも、心はどうかな?」


「心?」


「あんな大勢の前で戦うんだ。考えていないだけで心の端っこのほうにあったんじゃないかな。負けたらいい笑い者だって」


 メリアは顎に手を当てた後、コクリと頷いた。


「そうかもね・・・」


 その後にじーーっと僕を見る。


「な、何?」


「なんか、君は本当にずっとド田舎で育ったの?」


 ド田舎・・・。


「・・・そうだけど」


「人間が出来てる? いえ、見えてるっていうか、そんな思慮が田舎で身に付くのかなって」


「生まれも育ちも田舎だよ。いや、牧歌的な村ね」


 田舎を馬鹿にしてくれるな。


 それだと田舎の人間は、皆思慮に欠けた馬鹿みたいに聞こえるじゃあないか。


 足音が聞こえ、振り向くと校長先生と教頭先生がやって来た。


「アルベルト君」


「先生。杖はどうでしたか?」


「うむ。やはり殺傷能力の高い本物の杖だったよ」


「なんてこと・・・」


 改めてそう言われて、メリアは口に手を当てた。


「そ、それじゃあ、彼はどうなるんです?」


 教頭先生は唸る。


「彼が入学試験で不正を行っていたという証拠はありません。この戦いはあくまでも、君の為のもので、彼を試すものではありませんから。ただ、殺傷能力の高い武器を不正に取り換えたのは事実。厳重注意を言い渡すつもりです」


「・・・そんな、注意だけですか!?」


「もしも、アルベルト君が大怪我を負っていたらまた違ったかもしれませんが、彼はこの通り無傷ですから」


「んんーー!」


 メリアは納得がいかなそうに唸っていた。


「むしろ、アルベルト君。あそこで殴り合う必要はなかったのでは?」


「メリアにも言いましたが、あれくらいしても許されることをされたと思っていますよ」


「むむむ」


 髭をいじりながら、教頭先生は困った顔をした。


「アルベルト君」


 校長先生がここで口を開いた。


「もう一度、敢えて問おう」


「はい」


「君は、何者かね?」


 さっきと同じ質問。


 僕の答えは決まっている。


「僕の答えは、さっきとは少し違います」


「ほぉ?」


「魔術学校に入学しましたアルフ・アルベルト十五歳です。三年間、ご指導お鞭撻、よろしくお願いします!」


 僕はそう言って頭を下げた。



 あれから他の生徒達から質問責めに合い、僕らはなんとか自分の教室までやって来た。


 今日は教室を確認し、担当の先生と挨拶をして終わりだ。


 本来はとっくに終わっている筈なのだけど、しょうがないよね。


 教室に入ろうとした時、さっき僕に植物魔術をかけた青い髪の女の子とばったり会った。


「「あ」」


 二人でポカンと間の抜けた顔をした。


 先に動いたのは彼女だ。


「・・・ごめんなさい」


「ん? ああ、不正疑惑のことか」


 疑惑じゃなくて真実なので、この人は何も悪くない。


「あの凄まじい魔術。あんな力があるのなら、不正を働く理由がないものね」


「いいんだ。分かってくれれば」


 控えめに言って、罪悪感という名の重しが上からどんどんプレスしてきます。


「許してもらえるのかな?」


「そもそも君は怒って当然じゃないかな?」


「え?」


 僕の不正云々はともかくとしてもだよ。


「君は努力して入学を勝ち取った。だというのに、不正をして入学をした人間がいるとなれば、憤るのが人間じゃない?」


 コクリと女の子は頷く。


「そして君はこうも言った。『どうせついていけなくなる』と、全くその通りだよ。だから今後も僕は証明し続けるよ。自分の力をね」


 僕は胸に手を置いて、真摯に彼女に向き合った。


 不正を隠している人間が何を今更とは思うけど、だからこそ、僕は彼女に、入学してきた全生徒に、それを証明しなくてはならない。


 彼女は目を丸くした。


「君は本当に同い年なのかな? ずっと年上と話している気分だよ」


「・・・よく大人びてると言われるよ」


「彼は天然なのよ」


 メイアが割って入る。


「・・・え? それはどういう意味なの?」


 それが普通の反応だよね。


「え? (なんで伝わらないのこの子)」


「え? (何を言っているのこの子?)」


 二人の心の中が透けて見える。


 ここは青髪の子に一票を捧げます。


「それにしても、君は偉いね」


「なんで?」


 彼女は首を傾げる。


「あれだけ叩かれた僕に頭を下げるのはとても勇気がいることだよ」


「・・・私は、自分が間違っていたと思うことを素直に謝っているだけ」


「それがなかなか出来ないんだ」


 そう言うと、僕は周りをちらっと見渡す。


 さっきまで好き勝手言っていた生徒達は、僕の視線に気が付き、さっと顔を逸らす。


 彼らが臆病者とは思わない。


 ただ、この少女がとても勇気があるのは間違いない。


「そう言えば、君がとっさに私が使った魔術を使った時には驚いたよ」


「ああ、あれか。使わせてもらったよ」


「私の魔術を一瞬で解除したし、あの時には魔術式を理解していたの?」


「まあね。君の構築が甘かったのもあるし、難易度の高い術ってわけでもなかったし」


 彼女が戸惑っていると、メリアが横から「ね、天然でしょ」と声をかける。


 何故にそこで天然が出てくる?


「ま、まあまあ。教室の前で立ち話もなんだし、入ろうか」


「そ、そうね」


「あ、そうそう。君、名前は?」


「そうだったね。私はリゼ」


「アルフだ」


「私はメリア、よろしくね!」


「アルフとメリア。よろしく」


 僕らは一緒に教室に入った。


 瞬間、ざわっと教室の空気が揺れる。


「有名人」


 メリアが冗談を言ってくるが、それに応じる余裕はない。


「・・・嬉しくないよ」


「しばらくはこのままでしょうけど、その内に収まるわ」


 時間が解決するのを待つしかないか。


 僕達はまとまって適当な席に着いた。


 周りの視線を痛いほどに感じながら待つことしばし。


 ガラガラとドアが開いて、一人の女性が入って来た。


 ふわふわした茶色の髪に、メガネで低身長。

 くりくりっとしたかわいらしい瞳に校長先生らと同じローブ。


 あの人が僕達の先生だろうか。

 同い年くらいに見えるんだけど。


「えー、私が貴方達の担任になります。ミネルヴァです。どうぞよろしく」


 そう言って、ミネルヴァ先生は教壇に立ち、皆を見渡して笑いかけた。


「それでー、今日は色々あったので、簡単に顔合わせだけでお終いにします」


 そう言ってミネルヴァ先生はチラッと僕を見る。


 僕のせいでプログラムが大幅に遅れただろうしな。

 その点は申し訳ない。


「えっと、席は今の席でもいいです。もし、変えたければ明日までにしておいて下さい。あまり動かれても困るから」


 割と適当でいいんだな。


「目が悪い子には前は譲ってあげてね。サボりたいからって後ろになろうとしないように」


 笑いを取りに行って、何人かが笑った。


 気さくな先生でよかったかな。


「先生」


 リゼが手を挙げた。


「はい、えっと。ごめんね。まだ顔と名前が一致しなくて」


「リゼです。まだ空いている席があるようですが、余りがあるんでしょうか?」


 リゼが視線を送る先には、空席が一つある。


 余分に用意したのか、あるいは病欠か何かか。


「えっと、そこは」


 ミネルヴァ先生は困った顔で僕に視線を移す。


 ん?

 なんだ?


「そこは、コーダ君の席です・・・」


「「え゛」」


 僕とメリアは顔を引きつらせた。


 これは、波乱の学生生活の幕開けだなぁ。

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