提案
「ゴータ君も困ったことをしてくれた・・・」
ふぅ、と。
教頭先生は大きくため息をついた。
ここは校長室。
現在ここには僕とメリア、教頭先生と校長先生がいる。
非常に不味い事態だ。
ここからでも会場から騒がしい声が聞こえる。
それに、他の教員達が校長室に生徒を入れないように廊下を塞いで落ち着くように説得をしているが、無理だろうな。
「校長先生。こうなってしまってはアルベルト君の入学は取り消すしかありません」
「そ、そんな。待ってください!」
メリアが懇願すると、教頭先生は首を振って鎮痛の眼差しを向ける。
「無理だ。こうなってしまった以上は」
「いえ、逆にそれは不味いでしょう?」
僕は平然と言ってのける。
「・・・どういうことかね? アルベルト君」
「ここで僕の入学を取り消せば、それは学校側が裏口入学を認めたと公言するようなもの。今さらそれは出来ないのでは?」
「ぐっ」
「その通りですな。教頭先生」
校長先生が僕に賛同を示す。
「ですが、校長」
「彼の言い分は正しい。ここで彼の裏口入学を認めてしまうと、他にもあるのではないかということになる。そして、過去にも有力貴族の肝いりで入学させた件まで公になり兼ねない」
あ、やっぱり他にもあるんだ。
「っく。全く、ゴータ君は余計なことを・・・」
「わた、私のせい、です」
「どういうことですか、ミズ、アルベルト」
真っ青になりながら、メリアはしどろもどろに答える。
「朝、クラウスとひと悶着あったんです。それで、彼に訳アリの入学生だとバレて。私が、アルフと一緒にいなければ」
僕はそっとメリアの手に触れた。
「馬鹿言っちゃいけないよメリア」
「アルフ、でも・・・」
「君は僕の為に一緒にいてくれたんじゃないか。僕もとても心強かったよ。これは運が悪かった結果だ。責任を言うなら、お祖父ちゃんと、あのクソ野郎が原因だ。勿論、当事者の僕もね。メリアが悪いことなんて何もない」
「ア、アルフ。ご、ごめんな」
「ストップ」
僕は彼女に口元に手を当てた。
「君が僕に謝る理由はない。それ以上は言うな」
僕は校長先生に向き直る。
「校長先生。提案があります」
「言ってみたまえ」
「要は、僕が不正などをしなくてもこの学校に入れるだけの実力があると分からせればいいわけです」
「再テストをしろと? 難しいですね。答えを教えていたんじゃないかと言われればそれまでだよ」
「いいえ、違います。もっと分かりやすい方法で」
「ほぉ?」
僕は演じるように手を広げた。
「ここは魔術学校でしょう? だったら分かりやすく、魔術の実演をすればいいんですよ」
「アルフ!?」
「ふむ。実技試験も入学試験にはあったが、それを満点としても座学を無視するわけにも」
「ではもっと面白くしましょう。周りを巻き込んで」
「続けたまえ」
「僕が魔術で決闘をするのはどうでしょう?」
「ほぉ」
「そして、その戦いを全校生徒に見物してもらう」
「ア、アルフ! ちょっと待ってよ」
メリアが慌てて話に割って入って来るけど、逆に僕はメリアを言い聞かせる。
「メリア。ここで納得させなければならないのは、他の学生、そして世間だ。それを分かりやすく、彼ら自身も巻き込んで楽しく証明できれば、文句も随分と減るんじゃないかな?」
「で、でも」
「確かにユニークな意見だ、アルベルト君」
校長が楽し気に口元を綻ばせる。
「では、誰と決闘をすると言うのだね?」
「教師の方々では茶番と言われるでしょう。ここで一番皆が納得する相手、それはつまり」
「クラウス!?」
「正解だよメリア。この騒動の原因のアイツを、全校生徒が見守る中で僕がぶちのめす。それが一番不満の声が出ない」
流石に困惑したのか、教頭先生が苦言を呈する。
「いや、待ちたまえ君。この騒動をそんなお祭り騒ぎにしようなど・・・」
「教頭先生、ゴータ君にこの提案を打診してください」
「校長!?」
「この件は早急になんとかする必要がある。他に良い案が出ますか? 今、この場で」
「・・・り、了解致しました」
ハンカチで額を拭きながら、教頭先生は校長室を出て行った。
ドアを開けると、外から生徒達の騒がしい声が聞こえてくる。
でも、それでいい。
その興奮が、これからの祭りをさらに盛り上げるのだから。
「ちょっとアルフ。君、クラウスの強さを知ってるの!?」
「知らない。アルフレートの子孫を名乗るんだから強いんだろうね?」
あっけらかんと答えると、更にメリアはがなり立ててきた。
「そ、そうよ! 伊達にアルフレートの子孫を名乗ってないわ。私も同年代同士の魔術戦ではそうそう負けないと自負してるけど、それでもアイツに絶対勝てる自信ないもの! 君はあるの?」
「分からない」
「・・・わ、分からないって」
「アイツの戦いを見たことはないし、今の魔術戦がどういうものかも僕は知らない。でも、やるしかないだろう? それが活路となるならさ」
「ア、アルフ・・・」
「まあ、どうせ入学取り消しになるならさ、このままサヨナラするよりは、自分でも納得して去りたいじゃないか」
まだ何か口にしたそうだったけど、僕の決心が固いと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。
すると、今度は校長先生が口を開く。
「アルベルト君。わしからも問いたい」
「はい?」
「君は何者だね?」
「・・・意味が分かりませんが?」
何かを感づいたのか?
「あの式場で、全校生徒の注目が集まる中、あんな形で暴露されれば、泣き喚くか気を失うか、失禁してもおかしくはない。だというのに君は飄々とし、太々しくこちらに提案をし、勝算も分からない戦いを前にして実に落ち着いている。わしなどよりもよっぽど老獪に思えるよ」
「何を言い出すのかと思えば」
僕はひょいと肩をすくめて見せる。
「どこからどう見ても十五歳の男の子じゃあないですか?」
そう答えると同時に、校長室のドアが乱暴に開かれた。
「ゴータ君。決闘を受けるとのことです!!」
メリアはゴクリと唾を飲んだ。
さて、舞台は整ったぞ。
「楽しい楽しいお祭りの始まりだ」




