記憶復活
しまった。迂闊だった。
こんな森の奥まで母さんが追ってくるなんて思いもしなかった。
「母さん、来ちゃだめだ!!」
「アルフ? そこにいるの!?」
「ダメだ。今こっちに来たら危ない!!」
しかし、母さんの走る足音が近づいてくる。
マズイマズイマズイ!!
「アルフ!」
「母さん。それ以上入ったらダメだ!」
「!!!! こ、これって」
「見ての通り、絶賛大ピンチのバーゲンセールだよ。ここからゆっくりと離れて」
「で、でもアルフは?」
「大丈夫。僕には魔術がある」
嘘です。
さっきも試した通り、僕の魔術じゃ致命打にならない。
一匹ならあるいはいけるかもしれないけど、四匹は無理だ。
母さんを逃がしたら僕もさっさと撤退だ。
・・・出来るなら、だけどね。
「ダメ。アルフだけ置いていけないわ!」
「か、母さん。何言ってんだよ!?」
「わたしは、あなたの母親だから」
「グルルルル」
やばい。
来る!
「ダメだ母さん。二人とも殺されてしまう!」
「させない。アルフはわたしが護る!」
ビシィーーーーーーーーーーーー!!!!
頭の中に電流のようなものが走った。
「な、前にも・・・こんな、ことが」
『渡さない。この子はわたしが護る!』
「生まれたばかりの、時に」
その瞬間。
いくつもの記憶が僕の中で猛スピードで流れて行った。
ああ、そうか、
そうか、
そうだったのか!!
「思い出した、ぞ」
「ガアアアアアア!!」
「アルーーーフ!!」
フラフラしている僕を見て、好機と取ったのか、一匹が僕に飛び掛かってきた。
僕は目を細め、掌から火炎を生み出す。
「邪魔だ」
ボン!
「ギャウゥ!!」
狼は瞬時に炎に飲み込まれ灰になる。
さっき使ったままごとの炎じゃないぞ。
これが魔術で生みだした本当の炎だ。
「残り、三匹」
豹変した僕を見て、狼達は怯えた様子で縮こまっている。
悪いが、生かしておくわけにはいかない。
僕は再び、炎を生み出した。
僕が、
わしが、
「僕が極炎の魔術師、アルフレートだーーー!!」
横薙ぎに放った炎が、三匹を同時に焼き払う。
灰すらも残さずに、四匹の魔物は消えた。
「ふぅ。母さん大丈夫?」
「・・・あ」
恐怖のあまり、ペタンと尻もちを着いている。
体も震えていた。
あー、これ完全にやっちゃったか。
僕は目を閉じた。
まあ、仕方ない。
ヨハネスの時も、今回も、母さんに危害が及ぶところだったんだ。
僕がなにもせずにいることで、母さんが危ない目に合うくらいなら、いくら拒絶されたとしても、同じ選択を何度与えられても、僕の出す結論は一つしかないんだから。
距離を取ったまま、母さんに呼び掛けてみる。
「母さん。立てる?」
「あ、あはは。ちょ、ちょっと待ってね。腰が」
「うん。待ってて上げたいんだけど、この遺跡は危険だ。すぐにでも破壊しないといけない。急いでここから出ないと」
「う、うん。そうよね。よ、っと」
危ない足取りで立ち上がった。
本当なら手を貸してあげたい。
だけど、僕が近づけば母さんは怖がるだろう。
なんとか一人で頑張ってもらわないと。
「アルフ」
母さんが僕に手を伸ばした。
手伝ってほしいのか?
怖がらせないように、僕はゆっくりと近づいた。
そして、あと一歩となった時、母さんが僕に抱き着いてきた。
「アルフ、アルフ、アルフっ」
「か、母さん?」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ。なんとかなったしさ」
「違う、違うの」
え?
襲われたことじゃなく?
「怖がっちゃって、ごめんなさい」
「あ・・・」
「あれ、あれは、本当の気持ちじゃないの。違うの、違うから」
「うん。うん。解ってるよ」
「あの後、なんて酷いことを言っちゃったんだろって、ずっと、後悔してて」
「そう、なんだ」
嗚咽を漏らしながら母さんはコクコクと頷いた。
「ごめんね。あの時も、今も、アルフはわたしを助けようとしただけなのに」
「いいんだ。決めてるんだ。どんなに嫌われても怖がられても、僕は母さんを助けるためなら、何度だって同じことをする」
「ふぇえええええええんーーー!」
「泣くなよ・・・」
目頭が熱くなるのを感じながら、僕はしばらく母さんをあやした。
「ん、んん。さて、話を聞こうじゃあないのよ」
母さんは咳払いすると、開き直ったのか、いつものペースに戻っている。
あれから、僕はあの遺跡を魔法陣ごとぶっ壊した。
その後で、母さんと家に戻って来たわけだ。
母さんはこれまでの事情を聞こうと身構えている。
さて、どう話したものか。
まずは、僕自身が自分の状態を把握する必要がある。
まず人格面。
これの主人格は僕となる。
いや、良かったと思うよこれで。
いくらなんでも150過ぎのじー様が、子供を演じるのは無理があるよ。
ひょっこりと前世の人格が表に出ることがあるかもしれないけど、主人格はあくまでも僕。
さて、肝心の記憶だけど、これは完全に思い出した。
知識も、経験も、全てが僕の中で統合された。
その中でもやっぱり魔術の知識が莫大であり、厚い魔術書何十冊分よりもはるかに多くの知識が今、僕の中にある。
魔力量も膨大で、なんと今世の僕の百倍。
僕の魔力量を数値化して、百だとするとつまり万になる。
このじーさんマジでバケモンだぞ。
僕でもあるけど。
そう、僕は前世、アルフレートの生まれ変わり。
この体にはそれだけのポテンシャルがあったんだ。
僕はその力の引き出し方を分かってなかった。
さて、取り合えず確認するのはこれくらいでいいかな。
では、母さんになんと説明するか。
「お母さんはもう何を言われても大丈夫だから。どんとこい!」
どんと来いっすか。
母さんは、真剣な目で僕を見ている。
これなら辻褄合わせで何を言っても大丈夫だ。
転生なんて言っても信じては貰えないし、混乱を招く。
それはお互いにとっていい結果にはならない筈だ。
だから、
僕は、
「母さん、僕には前世の記憶があるんだ」
ありのままを母さんに打ち明けた。




