親子の亀裂
僕達はかなりの時間を拘束されて、やっと解放してもらい帰路へと着く。
でも、その間母さんとは最低限の会話しかしなかった。
そして、家に帰ると、母さんはゆっくりと口を開く。
「・・・アルフ。なんで魔術が使えるの?」
体がブルリと震えた。
背中がチリチリして酷く喉が渇く。
「・・・あ、と。それは」
「こればかりは単に頭がいいだけじゃ説明が付かない! こんな田舎じゃ、魔術を教えてくれる人なんかいないでしょ? 魔術書もないでしょ? なんで使えるの!?」
「か、母さん・・・」
僕は震える手を、ゆっくりと伸ばして母さんに触れようとした。
「・・・怖い、よ」
ビクッ!
体が大きく震えた。
コワイ?
ボクガ?
母さんは手で口を押さえたけど、出た言葉は無くならない。
母さんは逃げるように自室へと飛び込んでいった。
僕は、
しばらく動けなかった。
次の日。
僕がゆっくりとリビングに降りてくると、母さんはもう朝食の支度をしていた。
「・・・おはよう」
「お、おはよう!」
母さんはびくっとなったけど、努めて明るく挨拶をした。
“努めて”挨拶しているのが、丸わかりで、僕は自虐的に笑う。
「あの、さ。母さん」
「な、何!?」
じゃりじゃりと、嫌な耳鳴りがする。
「僕、王都の魔術学校に行きたいんだ」
「・・・魔術」
母さんは顔を歪めたけど、ここまできたら言い切るしかない。
「僕、もっと魔術を学びたいんだ。だから、どうしても学校に行きたい!」
「そんなに、魔術を学びたいの?」
「うん。それに」
視線をそらして、顔を引きつらせながら、言う。
「母さんも、僕がいない方が落ち着く、でしょ?・・・」
「アル」
バン!!
母さんが言い切る前に、勢いよくドアを閉めて、僕は家から飛び出した。
「はぁはぁはぁ!!」
今や秘密基地となっている例の遺跡に僕は逃げて来た。
酷く喉が渇く。
「くそぉ!!」
ダン、と。
思い切り壁を殴りつけた。
「何を、言ってるんだ僕は・・・」
最悪だ。
あんな自虐思考になって母さんに当たるなんて。
魔術が使えるとバレたらどうなるかなんて解っていたのに。
昔、母さんが言ってたじゃないか。
出来過ぎると周りから孤立するって。
教えられていた筈、なのに!
「・・・あいつが悪い。全部あいつが悪い!」
僕はヨハネスの顔を思い出した。
あいつのせいで魔術がバレた。
本来のプランなら、魔術学校に行って、初めて使えるようになったって取り繕うつもりでいたのに。
あいつのせいで全部パァだ。
怒りが、いや、殺意が湧いた。
僕と母さんの関係を壊しやがって。
侯爵を殺そうとしたんだ。
当然極刑だろうけど、出来るならその時に死刑執行人は、
「僕がやりたいくらいだ・・・」
血走った目でそう呟いた時だ。
ヴぉん。
「え?」
魔法陣が光った。
「な、なんで!?」
今まで何をやっても全く反応しなかった魔法陣がいきなり光りだした。
そして、その魔法陣の中心から何かが出現する。
「この魔法陣は召喚魔法だったのか!」
僕は何が召喚されるのかドキドキしながら見守った。
だけど、現れたのは全く予想もしないものだった。
「・・・なんだ、あれ?」
それは狼に似ていた。
だけど、決して狼じゃない。
体毛はうねうねと波打ち、狼よりも一回りは大きい。
そして、何より瞳が赤く爛々と輝いている。
こんな動物は存在しない。
「モンスター!」
そう。
それは人間に仇なす天敵、モンスター。
しかもそれが四匹もいる。
「・・・な、なんで」
なんでこんな奴らが召喚されるんだ?
一体何が起こったんだ?
そもそも、何がキーとなってこの魔法陣は起動したんだ?
僕は一体何をやったんだ?
やったというか、ヨハネスを憎んだことくらい。
「・・・悪意、か?」
人をこれほど憎んだことなどない。
のんびりした村だったからな。
だけど、生まれて初めて本当に人を殺したいほどに憎んだ。
人間の悪意がこの魔法陣を起動させるキーだとしたら?
こんな魔法陣がある遺跡を、僕はずっと秘密基地にしていたのか!?
「ガルルルルル!」
「っく!」
今はこいつらを何とかしないと。
僕は手の上に炎を出現させ、それを狼型モンスターに投げつけた。
「ギャン!」
見事命中。
だけど、倒れない。
「なっ!?」
普通の狼だったら終わっているのに、こいつは体毛が少し焼け焦げただけだ。
「くそ、やっぱり前世の記憶が完全に戻ってないと無理なのか!」
それでも、僕が侮りがたいと感じたのか、狼はじりじりと距離を取り、いきなり攻め込んでこようとはしない。
狡猾だな。
流石狼型ってところか。
その時だ。
「アルフ、アルーフ!!」
「な、母さん!?」
なんでこのタイミングで母さんが!?
「まさか、追って来たのか!?」




