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歴史、魔術、礼法と友達の話

「昔、この国の中心には大きな大きな魔王城が存在していたんだ」


「魔王って、勇者に倒されたあの話か?」


「そうだ。知っているなら話が早い」


 シグムントとソラが話をしていた。内容はこの国の歴史についてだ。


「おとぎ話と思っている人間も多いがこれは事実だ。はるか昔、この国の国土の中央には魔王の城があり、魔族の街が存在した。こいつらは非常に高度な魔法を操り、人間たちを奴隷のように扱っていた。

 だが、その状況に反旗を翻して見事に魔王と倒した英雄がいた――王家の初代国王、リーズ王だ」


「おお……すごいな……勇者、本物の英雄……。でも、どうやって勇者は魔王たちの魔法に打ち勝ったんだ?」


「リーズ王は奴らの魔法が【魔王の秘宝】によるものだと知っていたのさ。そして、まず先に【魔王の秘宝】を壊して魔法を使えなくし、弱ったあいつらに果敢に攻め込みこれを討ち取った! 同じように各地に存在していた魔族の砦も倒して国土の全てを解放したんだ!」


 シグムントは古の英雄王に憧れていた。まるで自分のことのように英雄王の偉業をたたえ、身振り手振りを交えながら声を張り上げた。


「だが、魔族もさるもの、魔王が倒されたと知るや、魔王城や砦に仕込まれていた禁断の魔法を使って英雄王を道連れにしようと目論んだ! 魔王城も、砦も、発動した魔法に飲み込まれて地の底へと崩れ落ちてしまった!

 しかし、英雄王には通じない! 最後の魔法まで予想していた英雄は鮮やかにその策を回避し、魔族は地上から消え去り、人間たちの王国、【中つ国】が誕生した!」


 こうして勇者は勝利し魔王も魔族もいなくなった。だがめでたしめでたしでは終わらなかった。


「英雄王が地上に王国をつくり上げた一方で、魔族は地下に潜って力を蓄えていたんだ。かつての魔王城があった場所は大きな大穴が空いていて、そこから魔族の先兵共が地上を取り返そうと侵攻してくる。同じように各地の砦の跡地も魔族どもが地の底から湧いてくる。それが【ダンジョン】。ダンジョンの奥は魔族たちの本拠地に繋がっていて、最奥には新たな魔王がいるという話だ」


 ソラのいた街にあったダンジョンも、もとは魔族たちの砦の跡地であり、深い深い穴の奥から魔族が湧いてくる。それを狩るのも冒険者たちの役目の一つだ。もしも冒険者の手に負えない軍勢が攻めてきた場合は騎士団が投入されることになる。


「俺は騎士になる。ずっと剣を振って体を鍛えてきたけど魔力があるとわかったんだ! 英雄王のように剣も魔術も誰にも負けない、最強の騎士になる!」


 最強の騎士。それはソラが夢見ていた英雄の姿そのもの。


「一緒に頑張ろう、ソラ! 俺たちで魔王を倒し、この国に本当の平和をもたらすんだ!」


 誰より熱心に訓練をして、誰よりも自分を鍛えている少年は太陽に明るい笑顔で夢を語った。


 ◆


「ゴホン……ンン、それじゃあ話を始めるよ」


「大丈夫か? 無理しなくてもいいぞ……?」


「大丈夫、今は調子がいいんだ。それに僕の好きな話だからね」


 喉の調子を確かめながらアストマが話始めた。魔法の話だ。


「魔法には七つの属性がある。ソラは知っているかい?」


「それは聞いたことがあるぞ。火・水・風・土・光・闇の六つと、あとは無だろ?」


 火・水・風・土・光・闇の六属性は英雄譚でもよく出てくる属性だったのでソラも前から知っていた。学校に入学してから無属性という属性があることも知ったが、これは英雄譚にはほとんど出てこない属性だった。


「そうだね。そのうち、無属性以外の六つは攻撃魔術として使うことができる」


「ああ。炎の竜巻を起こしたり、地割れに軍勢を飲み込んだり、そういうことができるんだよな」


「うん。じゃあ回復魔術として使うことができる属性はわかるかい?」


「回復魔術は……光?」


 英雄譚で聖女と呼ばれた蘇生魔法の使い手は確か光属性の魔術を使っていたはず。ソラは記憶を引っ張り出してそう答えた。


「ふふ……ンッ、ゴホン。よく勘違いされるけど、光だけが回復魔術に使えるんじゃないんだよ、ソラ」


「えっ?! そうなのか?!」


「聖女の伝説が有名だからね、みんな光属性を特別だと思っている。光属性を聖属性と呼ぶこともあるくらいだ。でもね、最初に回復魔術を使えるようになった癒しの聖女は実は三人いたんだ」


 遥か古の時代に存在した、三人の聖女。

 ソラが耳にした死者蘇生を可能にした聖女よりも、更に昔の時代を生きた最初の聖女たち。


「彼女たちは三姉妹でね。長女が光、次女が水、三女が土の属性を有していた。そして彼女たちは全員が癒しの魔術を使うことができたん」


「光に、水に、土? じゃあ、回復魔術はその三つの属性ならどれでも使えるのか?」


「そうだよ」


 彼女たちの伝承はほとんど残っていない。三姉妹が回復魔術の始祖であるという伝承と【大いなる癒し】と呼ばれた特別な魔術の使い手だったこと。これ以外の情報はほとんど残っていなかった。

 【大いなる癒し】は死者蘇生のことだったのでは?という説もあるが、現在までに死者蘇生が成功した実例があるのは光属性のみである。水属性と土属性の使い手が死者蘇生を成功させた例は確認されていなかった。


「僕は知っての通り病弱だからね。この体を治すことができたらいいなと思ってるんだ。だから光か水、土のどれかの属性が欲しい。僕の体を治して、僕と同じように苦しんでいる人たちも治してあげられるようになりたいんだ」


 そう言って夢を語るアストマの顔は少しだけ恥ずかしそうで、それでもいつもよりずっと活き活きしているようにソラの目に映った。


 ◆


「僕の家はそこそこ成功している商家でねー。お母さまは貴族の生まれなんだけどお父様に嫁入りしてきてねー、それでボクもお兄様も魔力を持ってるんだよー」


 家から送ってもらったおやつを平らげながら、ドーラクがのほほんと言う。こうして平民学校に通っているが本当は貴族の高貴な血と魔力を引く存在なのだ、と。スラム生まれで親の顔も知らないソラからしたら貴族とは雲の上の存在である。


「でもねー。二つ上のお兄様は上級学校の錬金術学科に通ってるんだけど、やっぱりお金がかかるんだよねー。それにうちってまだまだ歴史が浅いから、二人も上級学校に入れると周りのやっかみがすごいんだってー。だからボクはこっちの下級学校に入れられたんだー」


「そ、そうか……大変だな」


「んー? 別にー?」


 兄弟で入れられる学校が違う、露骨に両親の対応が違うということをドーラクはまったく気にしていない様子だった。幸せそうにおやつを頬張っている。


「上級学校に入ったら授業も厳しくて大変らしいしー。家の付き合いとかもあるしー。ボクはこっちでのんびりやる方がいいかなー。お兄様には感謝してるよー」


 ドーラクの兄がどんな人物か全く想像できないソラだったが、ドーラクが上級階級の人間に混ざって上手くやっていける姿も同じくらい想像できなかった。二段ベットの下に腰かけながらおやつを食べている姿がよく似合っていた。


「上級階級の相手ってほんとに大変なんだよー。例えばこのローブがあるでしょー?」


 ドーラクが食べこぼしがついているローブを指で刺す。


「服は自分の階級を示すステータスだからねー。上の人間ほどそういうのにうるさいんだよー」


 よく見たらシミとかついていそうなローブは他の人間が見ても怒るだろう。ちゃんと洗濯しているんだろうかとソラは思った。


「一番わかりやすいのは色だねー。赤は貴族、白はその関係者の平民、そして黒が普通の人だねー」


 上級学校の入学式を見ていなかったソラだが、同じルールは下級学校にも適用されている。

 下級学校の校長であるメンソーレ校長が臙脂色(赤)のローブを身に纏い、他の教師たちは白のローブを纏っていた。

 メンソーレ校長は元は平民だったのだが、学園の教師として何十年も勤務した人物であり、下級学校の校長に就任する際に名誉男爵の爵位を与えられていた。平民に考えられる最高クラスの成功者なのだ。

 その他の教師は全員白いローブなので貴族ではなくただの平民である。


「もしもこの学校で赤や白の服を着ている人がいたら気をつけなよー。あと、黒いローブでもこういう風に改造している人とかねー」


 ひらひらと見せるドーラクのローブは本人のいう通り、白い布を使って改造されていた。支給品をそのまま使っているソラや他の二人と違っておしゃれなのだ。


「ソラくんたちって、支給品のローブそのまま使ってるでしょー? 渡されるときに汚すなとか改造するなとか、言われてないー?」


「……そういえば、そんなことを言われた気がする」


 当時のソラは魔術学園の入学が決まって浮かれていたし、服に興味もなかったので改造するなんて発想がなく、聞き流していた。


「このローブ、学園からの貸出品だから改造禁止なんだよー。ソラくんたちが着れなくなったら回収してまた来年の子たちに使いまわすのー」


 ソラは気がついていなかったが、ソラ達の黒いローブは新品ではなく古着である。どれも同じくらい古かったので目立たなかったが、布地は大分くらびれていたし少し色あせていた。


「でー。ローブの改造している子ってローブを買い取って改造しているってことだから、普通の子よりお金持ちなんだよねー。ボクの場合は家の商会からお金出してもらって用意したから、黒のローブに白なんだー」


 平民の黒に金持ちの白を装飾することで、自分が商会の支援を受けている人間だと示す。


「これが貴族だと黒のローブに赤になるんだよー。そういう子とは仲良くした方がいいよー」


「……わかった。ありがとう」


 貴族の支援を受けている平民。

 ソラはまったく想像できなかったが、ドーラクからの忠告をしっかりと胸に刻んだ。


「えへへー。どういたしましてー。ソラくん、もう一個食べるー?」


 気前よくおやつを分けてくれるドーラク。もしかしたらこれも彼なりの処世術なのかもしれない。ソラはありがたくおやつをご馳走になることにした。

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