鬼
「長くなりそうなのであなたも私の家に来てください。」
と言われて行ってみたは良いが、条の家に来て、かれこれ一時間は経っている。条が僕に質問してきて僕が答える、そしてちょくちょく嘘を見抜かれるという流れを一時間やっているのだ。
「ていうかなんでそんなに熊の事が気になるんだ?」
「いや、特に理由はないです。好奇心と熊君が誘拐された子だったら可愛そうだから助けたい…ぐらいの気持ちでやってます。」
なるほどな。ちゃんと理由はあるのか。
「でも本当の事を言いますと、私はあなたが誘拐しただなんて信じてません。」
「だったらなんでこんな事をするんだ?」
「言ったはずですよ。好奇心です!」
はぁー…。こいつの好奇心の強さは中学の頃から知っている。こいつは恐らく僕が何かしらの情報を言うまで尋問を繰り返し、僕が何かしらの情報を言うまで僕の事を解放しないつもりだろう。
もういっそダメ元で本当の事を言ってみるか…?
「はぁー…。長くなりそうだから本当の事を言うよ。実は熊は悪魔で他に居場所が無さそうだから家で面倒見てるんだ。今まで見えなかったけど、総地郎さんが見えるようにしてくれた。」
「おっ。オカルトですか?私もオカルトは大好きですよ。でも今は真面目な話を…」
「真面目な話だ。」
「………嘘は付いてなさそうですね。…それとも自分の嘘を付く時の癖を理解しています?」
「そんなの知らない。」
「……少しパニックです。熊君が悪魔?そんな事を信じろと言われても…。」
「僕も最初にそれを聞いた時はそういう風に思ったよ。」
「…………分かりました。あなたの言うことを信じましょう。まだ疑ってる部分もありますけどね。」
やっと条が信じてくれた。まさか本当に信じてくれるとは思っていなかったけど。まぁ何はともあれこれでやっと解放される!
「熊君の事は分かりましたが、当然私は悪魔の事に興味が湧いてきました!どういうことかお聞かせ下さい!」
「僕も知らないから帰っていいかな?」
「むぅーー。やっぱり地道に調査するしか無いようですね。」
「調査するのも良いが、ちゃんと学校にも来いよ。僕はそんな非現実的な物を人類が解き明かせるとは思わないからな。」
「いいえ!ちゃんと学校には行きますが私はいつの日か悪魔の事を解き明かして見せます!ゾンビやお化けになったって調査を続けますよ!」
条は少し興奮気味に言った。恐らく今までの人生で一番好奇心が煽られる事だったんだろう。
「では、あなたは帰って良いですよ。もう少し居たいならそれで良いですが。」
「いや、もう帰る。お腹がすいたからな。」
「そうですか。では送っていきますよ。」
「いや、いい。」
「どちらにせよ志戸君の家の近くのスーパーに用事があるので一緒に行きます。あとついでに今日授業で何を教わったのか聞きたいです。」
「分かった。…所で熊はどこだ?」
「ああ。熊君ならそっちの部屋に居ます。」
僕は条が指を指した扉を開けた。
そこには熊の姿はなく、トンネルの様な物がある。
「あれ!?なんですかそのトンネルは!?」
「分からない。とりあえず入ってみよう。熊が居るかもしれない。」
僕と条はトンネルの中に恐る恐る入ってみた。
トンネルをくぐり抜けると外に出た。
そこには見覚えのある景色が広がっていた。
ここは怨念山という場所だ。
ここに来ると何故か安らぎを感じる。
「どうなっているんですか…?…あっ!あそこに熊君が居ます!」
そこには蛇のような何かに締め付けられてる熊が居た。
当然その蛇のような何かは僕らに見覚えがない。明らかに熊と同じ、非現実的な生き物だ。
「条!熊を助けるぞ!」
「は、はい!」
熊の元へ走ろうとする僕の肩を誰かが引っ張った。そいつは溶けた鬼の様な見た目をしている!
「志戸君を離せー!」
条はポケットからクラッカーを取り出し、クラッカーの糸を引いた。
パァァァァァン!
という音に怯んだ鬼を突き飛ばし、僕は熊の方へ走った。
そして熊にまとわりついてる者を力ずくで剥がそうとするが、全然剥がれない。
「志戸君!危ない!」
僕は二体目の蛇のような何かに気付かず、そいつに締め付けられてしまった!
くそっ身動きが取れない。
「志戸君!今助けます!」
「待て!お前の後ろに鬼が居る!」
鬼はゆっくり起き上がり、条の方へ向かって行った。そして条を掴んだ!
そして次の瞬間鬼は条から手を離した。
一瞬何が起こったのか分からずにいたが、何が起こっているのかやっと分かった。
よく見ると鬼の足熊を縛っていた筈の蛇が縛っていた。
鬼はバランスを失い、倒れてしまった。
蛇はすぐに縛るのを止め、熊がどこに行ったのかを探している。
そして木の上から何者かの異常に長い手が伸びてきて蛇を掴み、どこかへ投げ飛ばした。
僕はその手が誰の手か知っている。それは熊の手だった。
熊は木から降りて、鬼の方へ向かって行った。
鬼は地面に手を入れた。そしてその手を引き抜いた時にはその手に金棒が握ってあった。
そしてその金棒で向かってくる熊を叩き潰した!と思ったら熊はその金棒を何とか押さえている。普通なら力負けしてぺしゃんこにされてもおかしくないのに、熊は見た目によらない怪力でそれを食い止めている。二人はそのまま動かない。
僕にまとわりついてた蛇は僕から離れ、熊を襲いに行った。
僕は慌てて蛇の尻尾を掴み、熊の元へ行かせないようにしていた、が僕は力にはあまり自信がなく、蛇は僕を引きずって熊の元へ向かう。そして僕はついに手を離してしまった!
次の瞬間、何かが起こった。
何とゴリラの様な何かが蛇を掴んで、どこかへ走っていった。
そのゴリラの様な何かも非現実的な生物である事は誰でも気付くだろう。
僕ははっとして、鬼に飛びかかった!
鬼はまたもやバランスを崩し、倒れてしまった。
そして熊が鬼の手から金棒を取り上げる。
だが鬼はまだ隠し玉を残していた。