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宝くじで10億当たった結果www  作者:
1章 10億受け取りまで
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訴訟

佐藤沙里とはそれからというもの、特に話すことはなかった。

まぁ、それっきり、ってやつだ。


かと思えばよく目が合うような気もするし、俺は彼女に完全に翻弄されていた。


俺は、会社には相変わらず朝礼を無視して出社し、必ず定時で帰っていた。


五日目には課長も小言を言うのを諦め、

さらに同僚や数少ない後輩も、徐々に朝礼に遅刻するようになり、俺の勝利で決着がついたかに見えた。


しかし、六日目の土曜、俺の帰り際、遂に社長が現れた。


社長は色黒で、背はそれほど高くないがコワモテである。いつも紺色のスーツを着て、太い眉毛とオールバックの頭髪には白髪が混じっている。


ガタイもよく、いかにも体育会系出身の昭和の男というイメージだ。


「君が、"俺"くんだね?ちょっと来てもらおうか」


それまで朝礼で毎朝見かけていたはずだが、どうやらコロコロ変わる社員の顔は覚えていないらしい。


言われるがまま社長室に入る。


雰囲気は銀行の応接室に近いが、社長の趣味なのであろう、よく分からない巨大な虎の掛け軸がかかっているのが大きな違いだ。


どちらかといえば、ヤクザ映画に出てくる親分の部屋という感じにも見える。


「"俺"くん、単刀直入に聞くが、君は、会社をナメているんじゃないか?」

と、社長はドスの効いた声で、ゆっくりと、言葉を区切りながら言う。

「会社」と言ったはずだが、俺には「組」と聞こえる。


「いや…」

「いやじゃない!!情けない声を出しおって!」

コワモテの顔がさらに鬼のような形相になる。これは金でどうこうなる問題ではない気がしてきた。

単純に会社を辞める、辞めないの話では済まなそうだ。指は詰めたくない。


「お、お言葉ですが…労働基準法というのが…あ、ありまして」

自分でも情けなくなるほど弱々しい声で主張を述べた。10億の後ろ盾があろうが、この社長には生物学的な、根本的な部分で恐怖を感じる。


「知ったことか!!この会社では私がルールだ!いいか?次にナメた真似をしたらタダでは済まさない。社会とは、そういうものだ。君も、あと20年もすれば分かる。今日は帰れ。来週からは、わかっているだろうな。」


法律を一蹴してしまった社長に"優しく"諭され、俺は社長室を出た。


今日は金曜日、少なくとも明日は休みだ。やはり自分の会社を立てる他ないようだ。



はっきり言って、経営など興味がない。

センスもスキルも無いし、やる気もない。

昔から「普通の仕事」を目指してここまで成長したのだ。


しかしそれでも、俺の頭の隅には佐藤沙里と共にメニューを考えている、飲食店オーナーになった、冗談のような俺の姿はしっかり浮かんでいた。


土曜日。ようやく休みだ。10億当ててまで働くなんて、身が入らねぇな。


しかし身体の調子は非常に良い。

それもそのはず、今までの睡眠時間の倍は寝ているのだから当然だ。


大学を卒業してからというもの、年を追うごとに疲れやすくなっていて、もう若くねぇな…なんて考えていたが、単純な睡眠不足だったようだ。


もう定時で上がるのはやめられない…だが、社長の「タダでは済まさない」の言葉も引っかかる。

指を詰めるなんてことはないだろうが、社長はヤバい繋がりもあるって噂だ。


そんなことを考えていると背筋に冷や汗が流れる。

自分を鼓舞するためにスーツケースの再奥にしまっている宝くじの預かり証を見る。

そうだ、10億で片付かない問題などない。


とにかく最優先なのはこれを守ることだろ…!


それだけを考えながら、沙里とミユのインスタを監視して1日を終えた。


日曜日。朝礼には出ようと思っていたが、1度出ないクセを付けてしまうと起きるのが難しかった。


遂に社長の怒りを買うこととなってしまった。

当然金曜日の説教で顔は覚えられてしまったし、その日朝礼に出ていないこともバレてしまった。


昼過ぎまでは変わらず過ごしていて半ば安心していたが、社長から封書が届く。


書面にはこうある

「就業規則第七条により貴殿に対し損害賠償請求を行うこととします。本日中に直接、または振込にて支払うこと。支払いが遅れた場合訴訟……」


…でたらめだ。俺は朝礼に行かず定時に帰っただけだぞ?確かに1度当日欠勤したが…


金額は…1200万円!?


詐欺師よりタチの悪い……

10億あれば支払えるが、まだ連絡はない。

いや、払うのも馬鹿らしい話だ。しかし訴訟って…これは正式な訴状ではないよな?


俺は混乱していた。

社長の言い分は、俺が当日欠勤した日に2000万円の商談を逃したらしいが、その原因は俺にあるとのことだ。


まぁ、確かに俺が関わっていたと言えば関わっていたが…担当でもなかったはずだぞ?


しかし、俺は訴訟という言葉を必要以上に重く受け止めた。ほかの25歳同様、裁判などとは無縁の生活を送ってきた。

弁護士など見たこともない。


聞いた話によると、裁判所に行かなければこの1200万円という馬鹿な数字がまかり通るらしい。


何よりも、社長の懐に1200万円が入るのが許せなかった。

しかし、俺にはどうする知恵もない…こうして社長は多くの人間の、命を食ってきたわけだな。


俺がどうしようもない無力感に浸っていると、電話が鳴った。


「もしもし"俺"ですが」

「私、二丸銀行の小林ですが。"俺"さん御本人様でしょうか?」

「はい、そうですが。」

「本人確認のため、生年月日を…」


ようやく10億が用意できたんだな!

と俺は体が火照るのを感じた。

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