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第1話 出会い

真面目そうな眼鏡以外特徴が見当たらない男が言う。


「えーと、君が竹谷(たけや) 風一(ふういち)君だね」


「はい、よろしくお願いします」

そう答えるのも黒髪のこれといった特徴が見当たらない普通の男だ。


FRIEND(フレンド) MART(マート) 愛ヶ丘(あいがおか)店』それがここの名前だ。

『フレンドマート』は全国展開しているコンビニエンスストアの1つだ。目印は黄色と緑の外観。フレンドリーな接客がモットーらしい。


俺は竹谷 風一、大学2年生で今年からひとり暮らし。いつまでも親を頼るわけにもいかず、大学から二つ隣の駅『愛ヶ丘』周辺の部屋を借りその駅前のコンビニでバイトを始めることにした。何よりできたばっかりの新店舗なので、スタッフもほとんど新人らしく、気が楽だと思った。


「コンビニとかでバイトするのは初めてなんだよね?」


「…はい」


小声で返事をした。大学2年でありながらそもそもバイト自体が初めてであることが恥ずかしかった。今の今まで親のスネをかじって生きてきたことを晒したような気分だ。だが、そうだからこそ決意したのだ、自立をしよう、と。…まあ、それにしてはだいぶ遅いし、部屋を借りれたのも親の金があってこそなのだが。


「心配いらないよ 1からちゃんと説明するし、今日来るもう1人の子も君と同じ大学生でバイト初めてみたいだから 気楽にやってくれればいいよ」


そう聞くと、少し安心した。それに店長もいい人そうだ。果たしてどんな人なのだろうか。男だろうか女だろうか。無口な奴よりかは気さくで話しかけやすい相手がいい。その方が楽だし、なんてったってここはフレンドマートだ。そんなことを頭に浮かべていた。


それからすぐだった。


「すみません 失礼致します」


声は女性のものだった。落ち着いた口調だがどこか幼げな声だ。


「おっ、来たね 竹谷君、この子がさっき言った子だよ」


「は、初めまして…火野(ひの) 華乃(はなの)といいます」


大人っぽいダークブラウンのストレートロングの髪とは反対に、あどけなさを残した顔。いかにも清楚系と言わんばかりだ。


「あ、俺は竹谷 風一です。よろしくお願いします」


「じゃあ2人とも揃ったことだし、ロッカーで着替えてきてくれるかな」


パッと見たところ、彼女はあまり喋るタイプとは思えない。これから上手くコミュニケーションをとっていけるか不安で仕方ない。


しばらくして、2人共着替えて戻ってきた。着替えるといっても、フレンドマートのロゴが入った黄色のユニフォームを上に着て、名札のバッジを付けるだけだ。


「じゃあまず、レジの説明からしようか」


店長がレジの説明をする。電子マネーでの支払い方法や、返品の方法などだ。色々説明されてるが、どうやら「習うより慣れろ」らしい。


レジには他の店員が入っている。1人は慣れた手つきで、カゴの中の商品をレジ袋に詰めているが、もう1人はバーコードの位置に苦戦している様子だ。どうやら、こっちは俺たちと同じく新人のようだ。


説明は1時間ほど続いた。とりあえず今日俺たちがやるのはレジだけらしいのでレジ周りの説明を一通り聞いた。本来、シフト制なので入るのは1時から5時までなのだが、説明を受けるということもあって12時から来ていた。


「じゃあもうそろそろ時間だからがんばってね」


1時になってレジに入った。火野さんは左のレジ前に立っている。しばらく一緒にいるわけだが彼女とは一切話していない。正直かなり気まずい。


ここは何か話題を持ち出さなければ…よし、バイトを始めた理由でも聞いてみるか。


「あ、あの…」


「すいません。お願いします」


客が来た。タイミングが悪すぎる。俺はもやもやしながらレジ打ちをし、商品を袋に詰めた。


「ありがとうございます またお越しくださいませ」


客は去っていった。よし、今度こそ…


「えっと、ひ」


「やるね 竹谷君 初めてとは思えないよ」


だから何で毎度毎度邪魔されるんだ。今度は店長が話しかけてきた。褒められたのは嬉しいのだが、火野さんに話しかけることで頭がいっぱいで初めてのレジなんて頭になかったのだ。


それからしばらく時間が経った。どれほど話しかけようと試みただろうか。会話成功率は0%だ。何故かタイミングの神様は俺を妨害してくる。


4時50分、残り時間は10分だった。俺はもう終わった後話しかければいいやと思っていた。そんな時1人の子どもがレジの前にやってきた。女の子だ。


「どっちがおいしい?」


そう言って見せてきたのは2種類のグミだった。1つはグレープ味のグミ。もう1つはコーラ味の硬めのグミだ。


「うーん、硬いグミとか好き?」


「ふつうがいい!」


「じゃあ、こっちかな 俺もこのグミ好きだよ」


そう言って俺はグレープ味の方を指さした。


「じゃあこれにする!おねがいします!」


女の子はグレープ味のグミと小さな手で握りしめていた100円玉2枚をカウンターの上に置いた。


「はい、どうぞ これお釣りとレシートね」


「ありがとう!」


女の子は嬉しそうにかけて行った。そんな姿を見てると自分まで嬉しく感じた。


「何だか自分たちまで嬉しくなっちゃいますね」


自分が思ったことと全く同じことを言われた。なんと話しかけてきたのは火野さんだった。


「は、はい。そうですね」


突然のことだったので上手く言葉を返せず、素っ気ない態度となってしまった。


「ごめんなさい 私バイト自体が初めてで、すっごい不安だったんです。上手くやっていけるかなって」


そんな火野さんの言葉を聞いた時、ふと思った。火野さんも俺と同じだったんだ。


「でもあの女の子の笑顔と竹谷さんを見てたら自分もがんばれそうな気がしたんです」


「別に俺は何もしてないですよ」


その後も会話は続いた。さっきまでまったく話すらしてなかったのがまるで嘘みたいだ。


そうしてバイト初日は終わった。帰る前にも少し話した。バイトを始めた理由を聞いたところ大学2年生で最近ひとり暮らしを始めたらしく、そのためにバイトを始めたそうだ。俺と似ている境遇に親近感を覚えた。


「私、こっち方面なので」


「はい また今度」


「…そうだ!よかったら連絡先交換しません?」


「え?」


「入ってる時間帯同じですし、万が一のため絶対その方がいいいと思うんです!」


「わかりました いいですよ」


こうして、俺と火野さんは連絡先を交換した。


「何だか私たちまだ会って間もないのに友だちみたいですね」


「そうですね」



人生最初のアルバイト、新しい世界に不安を抱えて踏み出したが今はそんな不安も軽くなった気がする。


たった一人だけれど()()()がいる、それが心強かった。




























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