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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、VS所長)
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背水とは

話は戻って、ナオヤと所長の対峙する場面。

 ムツミの、血?

 こいつは何を言っているんだ?


「私に歯向かったからな。処罰した」


 物を扱うような言い方。その言動に憤怒が湧いてきた。


「安心しろ。まだ死んではいない。実験の結果を確認していないからな」

「……てめぇ」

「怒っているのか? なぜ?」

「それはっ」


 異世界にやって来て今日まで、世話になった。

 魔法や武器の基本的な扱い方も知った。

 本を貸してもらい、異世界について知る機会を作ってくれた。


 感謝してもしきれない。


「君がムツミのことをどう思っていても構わない。それよりも……」

「……なんだ?」

「私の武器――マニピュレータを破壊することに君も加担しているはずだが、助手になれば帳消しにしよう」


 なんて傲慢なんだ。


「絶対に助手になるか」

「そうか。それは残念だ」

――「成長する力(刀剣)」のスキル「背水」が発動しました。


 通知が聞こえ、一瞬周囲が光り、次の瞬間には所長の姿が消えていた。

 背中に気配を感じ振り向く。マニュピレータとは異なる武器を振り下ろす所長の姿。


「っ!」


 体を半身にし、斬撃を回避。鼻先に感じる剣風。


「貴様を処分してオハバリを貰おうか」

「それも断るっ!」


 オハバリを呼び出し、所長めがけて振り上げる。所長は避けることをせず、その体でオハバリを受け止める。

 本当に斬るつもりはなかったから、体に食い込んだ瞬間焦ったが刃は所長の体をすり抜けた。

 斬ったという感覚もない。

 幻影か。

 ホッと息を吐きつつ視線を前に向ける。数メートル先に所長が立っていた。


「ふむ。それが「背水」の能力か。相手の殺意に反応して自身の能力値を上げるという。実際に目の当たりにすると少々面倒な能力だな」

「「背水」の能力を試したのか?」

「興味があったからな……だが、一度経験すれば十分だ」

――「成長する力(刀剣)」のスキル「背水」が解除されました。


 興味がなくなったのか、所長から殺気が消える。


「だが処分するなら、殺気は必要か」

――「成長する力(刀剣)」のスキル「背水」が発動しました。


 殺気が戻り、通知が響く。


(ちっ)


 俺は舌打ちをする。

 これは面倒だ。「背水」の能力が発動・解除を繰り返し実施されると、戦うことに支障をきたす。

 どうにかならないのか?

 剣先を所長に向けながら、思考を巡らせる。


(……あ)


 ふと、異世界に来て初日のナナミと戦ったことを思い出す。あの時、ナナミは「背水」について解説していた。



『じゃあ、その「敵」はどう判断しているか分かる?』

『……さあ?』

『その「敵」と判断するのは「敵意」で決めているの』

『敵意?』

『そう。だから……感情を持たない――感情を殺した相手だと発動しない』



 この会話の後俺は腹部に激痛、後方へ吹っ飛んだ。

 壁に衝突し、俺は息ができずにもがいていた。

 そんな俺に魔剣を向け、話していた言葉は何だったか?



『とまあ、こういう風に背水には弱点があるの。他にも敵意を持つ相手が自分より弱い、と「実感」したときもスキルは解除されるわ』

『こ、降参だ』

『何言っているの? まだまだこれから……っと』



(他にも敵意を持つ相手が自分より弱いと「実感」……か)


 そうすれば「背水」は発動しない。

 だけど、それで勝てるのか?


(いや、大丈夫だ)


 ムツミにもアゾットにも、ナナミにも勝つことができたんだ。

 というか、さっきナナミと戦っていた時は「背水」の能力が発動していなかったし。

 発動していたのはアゾットの時だけだったか?


 大丈夫。見た感じ所長はナナミよりも弱い。

 負けるはずがない。


――「成長する力(刀剣)」のスキル「背水」を解除しました。


 通知の語尾が違う。意識的に解除するとこういう言葉になるのか。

 魔剣が重く感じる。怖さからか、手が震えている。


「すぅ……はぁ……」


 大きく深呼吸。心を落ち着かせる。

 大丈夫。勝てる。絶対に負けない。


 心の中で発破をかけ、気持ちを奮い立たせる。


「仕掛けてこないのかね?」


 対峙する所長が両手を広げて尋ねてくる。隙だらけに見えるけど、それが怪しい。

 握っているマニュピレータとは異なる魔剣が気になる。刃が真っ直ぐな銀色に光る剣。斬り上げたオハバリの攻撃を避けたのもこの魔剣の持つ魔法だろう。

 少しでも魔法が何なのか推測できないと、戦いづらいけど……

 迷っていても仕方がない。


「行くぞっ!」


 所長に向けて駆け、そしてオハバリを振り下ろす。所長は避けるそぶりもしない。

 体に食い込む剣身。だけど手に感触はない。

 先程と同じように所長は霧散した。

 視線の先には両手を広げたままの所長の姿。さらに一歩前に出て魔剣を振るう。だけどそれも幻影。


「虚像を何度斬っても意味はないぞ」


 今度は背後から声。振り返ると笑みを浮かべた所長がいた。

 まるで蜃気楼のようだ。「水」や「熱」の漢字を組み合わせた魔法なのか?


(違うか)


 暑くないし、水分が多い環境ではない。

 他に考えられるのは……「影」か。


――漢字「光」「発」を検知しました。


 物は試しだ。やってみるか。

 魔力を魔剣に注ぐ。全力じゃなくていい。目を眩ます程度の光の強さ。

 十分魔力が注ぎ込んだところで魔剣を掲げる。剣身が輝きを放つ。


「むっ」


 突然現れた光源に所長は目を細めている……が、その姿が消えた。

 消えた幻影の数メートル後方、そこに所長の姿が現れた。

 その足元には自然界の理から離れた長い影。

 自分自身の影を操り、斬らせていたのか。

 原理さえ分かればあとは簡単だ。俺はオハバリを発光させたまま、駆ける。

 近づきオハバリを魔剣に対して薙ぐ。


「なっ!?」


 しかしそれも幻影。刺した瞬間に跡形もなく消え去った。

 後ろを向く。そこには複数の所長の姿。


(どれが本物なんだ?)


 見当がつかない。足元を見ても影はそれぞれ独立している。自身の影を延ばして操っているようには見えない。

 他の魔法なのだろうか。所長の持っている魔剣は変わらず銀色に光る剣。

 魔剣の属性は固定されているはずだから、光や影――闇に関する魔法だと思う。

 対となる魔法を使えば対応できそうだけど、全く思いつかない。


「ふむ、そろそろ終わりにしようか」


 正面にいるはずなのに、声が後ろから聞こえた。

 今までそこには存在していなかったはずの所長の姿。


 何がなんだか分からない。


 光を屈折させて存在を見せていなかったとでもいうのか?

 魔法を複合させているのか?


 駄目だ。頭が混乱してきた。

 けど戦うしかない。


 一呼吸して背後の所長へ攻撃を仕掛けようと――


「セタ! 目を覚ましなさい!」


 頬を、叩かれた。

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