表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、VSナナミ)
81/90

抵抗

 ※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※


 殺すことができる瞬間は何回かあった。

 セタの攻撃を待っていた時や、あからさまな時間稼ぎの会話をした時がそう。

 だけど実際は攻撃せずに待ってしまった。

 迷いがあったのかもしれない。

 なぜ迷いがあったの?

 フヨウ(この山)に転送されてくる罪人は、多少の迷いがあっても殺すことができる。

 なのになぜセタはその迷いのあと、殺すことができない。


 このままできなければ所長の傀儡となり、セタを殺すことになる。だけど彼の成長からすれば、所長に操られて戦っても勝てる見込みはない。

 そうなれば所長は別の方法を考えるはず。思いつくことは私かムツミが所長に殺され、そして代わりにセタが支配される可能性。


 それだけは絶対に避けないと。


 彼を所長に支配させたくはない。

 同時にムツミを所長に殺されたくはない。


 だからセタには申し訳ないけど、死んでほしい。そうすればムツミが殺される可能性はなくなるし、彼が所長に支配されることもない。


 セタが来る前の状況に戻るだけ。


 それが最善の終わり方のはず。

 だから殺す、と割り切ったはずなのに。

 どうして?

 諦念とは何だったの?

 何を諦めたというの?


――スキル「諦念」が「諦念(無心)」に変化しました。


 ※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※


「負けた?」

「そうだ。そうじゃなかったら、ナナミの首元にオハバリが突き付けられていないだろ」


 オハバリを突き付けられたナナミはゆっくりを顔を上げた。その顔はあっけにとられた表情だった。

 負けたことが理解できていないのか?


「私は……負けない」

「負けを認めろって……うおっ!?」


 首を持ち上げ、オハバリの剣先が刺さる。ナナミの首筋から血が流れた。

 慌てて剣先を引く。顔を上げた彼女は今度はオハバリの剣身を素手で掴んだ。

 掌から滴る赤い液体。この状態で剣を引くと彼女の手を斬ってしまう。動かすことができない。

 くそっ。こうなるんだったら魔法を解除するんじゃなかった。

 魔法で押さえつけたまま、降参させるべきだった。


 後悔しても遅い。戸惑っている俺をよそに、ナナミは剣身を握っていない手をフルンティングから離し、口を開いた。


「……来い、ハルペー」

――スキル「背水」が解除されました。


 同時に二つのことが起きた。

 スキル「背水」の解除は予想できたことだ。ナナミは淡々と表情を消して勝負をしてきたんだから、いつ解除されてもおかしくなかった。

 刃を交わしている状況で解除されるよりはマシだな。


 驚いたことは呼び出された魔剣。それはナナミが拾ってきたという刃が三日月型の武器。

 鎌、と表現したほうがいいか。先端は刺突するために少し出っ張った構造。


 なぜ持っているのか疑問に浮かんだけど、すぐに思い出した。

 ハルペーは所長が研究していた。そしてそれはナナミが所持しているということ。


 ナナミがフルンティング以外の魔剣を持っていたことを完全に忘れていた。

 考えが戦闘外のことになる。その間に目の前にいたナナミが姿を消した。

 どこに行った?


(けど、こういう時は……)


 振り向く。彼女がいた。すでに彼女の持つハルペーが俺に向けて振り下ろされている。

 避けることは無理。それに距離を取っても、さっきみたいに瞬間移動されそう。

 オハバリでハルペーを受け止めた。


――魔剣・ハルペーを検知しました。魔剣破壊を実行しますか?


 視線の端に文章が流れる。所有者がナナミなのにエラーが表示されていない。

 文章はまだ続いている。


――ナナミは初代所有者・マチハラから魔剣を奪い二代目となっているため、破壊することができます。


 二代目。しかも奪ったということは、マチハラと言う人物を……


(考えるな)


 今は余計な思考だ。戦いに集中。

 オハバリに魔剣破壊を指示し、ハルペーの情報を収集させる。

 人型と戦っていたときよりも収集スピードが早い。


「うぉっ」


 受け止めていたハルペーの刃が滑り、オハバリから離れる。湾曲した刃を受け止め続けることは難しかった。

 空を切るようにオハバリを振り上げてしまう。


 あれ?

 直近で似た状況と重なる。あの時は腹に蹴りを入れられたんだっけ。

 そう考えた矢先、腹部に激痛。見るとハルペーが刺さっていた。

 弧を描いている刃だから深々と刺さることはなかった。

 ナナミは引く抜くと今度は横凪ぎに振るい、俺を斬りつけようとしている。


「くっ」


 辛うじてオハバリで受け止める。だけどナナミのスイングは鋭く強く、俺は吹き飛ばされた。

 何回かバウンドし、地面を転がる。

 ()ってぇな、おい。


 睨もうとしたけどナナミがいない。

 とっさに横転。耳元を通り過ぎる風の音。上を向くとすぐに顔の正面にオハバリをかざす。

 目の前で散る火花。ナナミは俺を跨ぎ、ハルペーを振り下ろしていた。


「早く死になさい」

「死ねる……かよっ!」

――漢字「炎」を検知しました。


 魔力を込める。オハバリの剣身が炎で纏われる。警戒したナナミが距離を取った。


「何なの、その魔剣の魔法は?」

「俺特有の魔法、だ。漢字を思い浮かべれば、何でも、魔法が使える」


 炎を消し、別の漢字を浮かべる。そろそろ腹の傷をどうにかしたい。


――漢字「治」「療」を検知しました。


 オハバリを傷にあてがう。淡く暖かい光が傷を癒す。

 俺の行為が治療の魔法だと気づいたのか、ナナミがまた消えた。


 同じ手に引っかかる訳にはいかない。


 ポケットに手を入れ、ミズカネが入った袋を取り出す。爪を立て袋を破り、振り向きながら中の液体を撒き散らす。

 不意の行為にナナミは避けることもできず、顔に液体がかかる。


「なにを……っ」


 言いかけて顔に手を当てる。苦悶の表情を浮かべている。

 瞬く間に顔が赤く腫れあがっていた。見ているだけでも痛そうだ。

 実行した俺自身にも罪悪感が湧いたが、とっさに行ったことだ。

 やらなかったら、()られていた可能性が高い。


 それにミズカネの炎症は治療の魔法で治せば問題ない。


 怯んだナナミは無防備になる。俺は飛びかかり、地面に倒す。両腕を抑え込み、動かせないようにする。

 これでハルペーは使えない。仮にフルンティングを呼び出しても使うことはできないだろう。

 抵抗しようと力を入れようとしているが、俺のほうが力が強かった。びくとも動かない。


「負けを認めろよ!」

「嫌よ」


 目が据わっていて怖い。赤く腫れあがった顔が痛々しい。それなのに何も感情を浮かべていない。

 先程の苦悶の表情が嘘のようだ。


「セタを殺して、魔剣を所長に渡すの」

「俺は死ぬ気はない……でも、それでナナミは満足するのか?」

「……それは」


 ナナミは言葉を詰まらせる。


(嫌なら、嫌って言えよ)


 短く息を吐く。

 どうすることもできないから、諦めていたのか。

 裏を返せば本心では殺したくないと考えているということ。

 それは素直にうれしいな。

 俺の本音も伝えるべきか。


「……俺が戦っている理由が分かるか?」

「死にたくないから?」

「違う。俺が所長の「マニュピレータ」を破壊するからだ」

「え?」

「そうすればナナミとムツミの受けている「支配」から解除されるだろ? そうすれば俺を殺してオハバリを奪わなくてもいい」


 思いつかなかったことだからなのか、目を丸くしている。

 少しだけ無表情ではなくなっている。

 ここは説明して言いくるめる。


「ただ、そのために俺の目の前で所長がマニュピレータを出す状況を作らなければならない」

「どう、作るの?」

「ナナミよりも俺が強いことを示す。そうすればナナミの支配を解除し、俺に対して支配を実行しようとする――ムツミの予想だけどな」

「解除と実行の間を突く、ということ?」


 ナナミの疑問にうなずく。


「だから俺はおまえに勝たないといけないんだ」

「……分かったわ」


 ナナミは全身の力を抜いた。

 無表情ではなくなり、どこか疲れた表情になっている。


「私はセタに剣を突き付けられ、抵抗したけど組み伏せられてたわ……負けを認めるしかない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ