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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、VSナナミ)
80/90

決着

 今度は俺から仕掛ける。いつまでもナナミに主導権は握らせない。

 突進し、そしてオハバリをナナミに向けて突き出す。

 対してナナミはフルンティングで受け止めることはせず、回避した。立て続けに回避した方向にオハバリを振るう。これも避ける。

 攻撃を当てようとするけど、全て当たらない。というか、全部避けられている。

 決してフルンティングで受け止めようとしない。


(ああ、そうか)


 ナナミはオハバリが魔剣破壊の武器だということは知っているけど、ナナミのフルンティングには通用しないことは知らないのか。


「何を考えているのっ」


 跳躍してナナミが距離をとった。魔法が使えると思った矢先、先に彼女がフルンティングを振るった。とっさに俺はオハバリを前にかざす。目に見えない衝撃が剣身から伝わってきた。

 風の魔法。遅れていたら異世界に来た日に見た魔物のように体を二分されていた。


――漢字「風」「斬」を検知しました。


 攻撃が止んだタイミングを見計らって、お返しと言わんばかりにオハバリを振るう。ナナミの攻撃に似た、飛び出す鋭い風。

 見えない攻撃を彼女は受け止める。間髪入れずに俺は同じ漢字をイメージし、攻撃を続ける。同じ斬撃の形にはしない。縦横斜め……と攻撃の形を読み取られないように斬撃の向きを変えていく。

 だけどナナミの対応も早い。最初はフルンティングで受け止めていた対処が回避行動に変わっていく。

 まるで見えているかのような行動。彼女自身も似た攻撃を持っているから、慣れているのだろう。

 当たらない攻撃をこれ以上続けても無駄だ。接近戦に切り替えるか。

 ただ単に接近しても予測されるだけだ。牽制する必要がある。

 魔法に変化をつけよう。


――漢字「水」「球」「数」「五」を検知しました。


 検知されたのと同時に剣を振るう。五つの水の球体が現れ、ナナミへと射出される。魔法に変化があっても彼女の対応に変化はない。軽々と避けられた。目に見えるようになった分、回避が楽になったようだ。

 五つの水の球の間を潜り抜ける。

 その潜り抜ける彼女に対して俺は接近する。


――漢字「風」「斬」を検知しました。


 もう一度風の魔法。距離が近いから今度は回避できないだろう。

 想定通り、ナナミは剣で受け止める。その隙に俺は彼女の懐へと入り込んだ。

 オハバリを切り上げる。


「くっ」


 ナナミは無理やり体を半身(はんみ)にした。風に靡いた服の裾がオハバリの刃に分断される。

 半身にした彼女は足を振り上げ、俺に蹴りを入れてきた。回避も防御もできない俺は腹にまともに食らってしまった。

 強い衝撃とともに体が後方に飛ぶ。持っていたオハバリも手から離れてしまった。


「私を殺すつもり?」


 淡々と感情のこもっていない言葉が投げかけられる。


「ころ、すつもりで、戦わないと、いけな、いだろ」


 腹をおさえ、ふらつきながらも立ち上がる。呼吸がまともにできないから、言葉が途切れ途切れになる。

 それでも視線だけはナナミに向ける。


「ナ、ナミは、いっ、たよな」


 オハバリを手放したと同時にスキルを解除された今の俺は簡単に殺せるのはずに仕掛けてこない。好都合だ。その間に俺は呼吸を整える。

 体は痛いけど、思考は正常にできている。状況を整理。

 一瞬視線だけで周囲を見る。右前方の地面に落ちているオハバリが見えた。運よく柄は俺のほうを向いている。

 だけど素直に取りに行くのは危険だ。取りに行く間、隙だらけになる。

 呼吸を整えて、呼び寄せたほうが得策か。


(時間稼ぎをするか)


 はったりでも何でもいい。会話をして、回復を待とう。

 オハバリに関することは使えそうだ。フルンティングでオハバリの刃を受け止めないことからも推測できる。

 あとは漢字に関してか。

 頭の中で時間を稼ぐ言葉を考え、ゆっくりと口を開く。


「……なあ、ナナミ」


 上手くいくかどうかは分からない。だけど思いついたことを言うほかない。


「なに?」

「オハバリの、正式な所有者になって、新たな力を得たんだ」

「……なによ?」


 食いついた。俺は深呼吸をする。だいぶ整ってきた。呼吸が震えていたこと以外は問題ない。


「ミズカネや魔剣、がなくても、漢字を念じるだけで、魔法が使えるようになったんだ」


 その言葉を聞いたナナミはすぐにフルンティングを構えた。警戒することは当然のこと。

 そんな彼女を見ながら、俺はおもむろに右手を背後へと持っていく。

 彼女の警戒心も高まっていく。


「予測できない、かつ事前動作のない魔法を対応できるのかな?」

「……対応して見せるわ。そして万策尽き、諦めたセタを殺してあげる」

「趣味悪いぞ」


 どこかフルンティングの人格が混じっている。普段のナナミだったらそんなことを言わない。


(いや、初めて会った時に首を洗って待っていろ、とか言われたっけ)


 風呂場でオハバリになる前のトツカのツルギが暴走した時。あの時、手伝おうとしなかった俺にしびれを切らしたナナミが言った言葉。

 不意にそんなことを思い出し、笑みがこぼれた。

 もう一度大きく息を吐き、吸う。そして吐く。呼吸は震えていない。


「対応できないだろ。俺は漢字が日常的に使われている世界から来たんだ。知識はナナミに勝っている」

「それがどうしたの? すべての攻撃が私に届かなかったら意味ないわ」

「遠距離かつ不可視の攻撃でもか?」

「……風の魔法のことを言っている?」

「他にもあるさ……言わないけど」

「……」


 殺気を含んだ目で睨まれる。体が(すく)みそうになるけど、気をしっかり持つように短く息を吐く。


(でも、まぁ)


 出まかせで言っているけど、使える魔法を思いついた。

 重力の魔法とか使えそう。動きを止めることができたらこっちのものだ。


「いくぞっ!」


 掛け声とともに背後に隠していた右手を前に出す。ナナミはフルンティングで防御の姿勢になった。

 だけどその手には何も握られていない。

 右手を後ろに持っていったのは単に警戒させるため。そして勢いよく前に出したのは身構えさせるため。


 一瞬でも隙ができるかどうかの賭け。


「認証 オハバリ 格納っ」

「えっ」

「認証 オハバリ 取り出しっ!」


 右手に重量感。握られたオハバリを目視で確認し、同時に解除されていたスキルが再発動した。


「ちっ!」


 ナナミは舌打ちをして、突進してきた。鬼気迫る彼女は怖い。

 だけど手の中にはオハバリがあり、魔法をイメージするほうが彼女の突進よりも早い。


――漢字「重」を検知しました。魔力量により、対象にかかる重さが異なります。


 全力で攻撃する必要はない。動きを止めることができればいい。

 目の前に対象を狙う丸型の照準器が表示された。それをナナミに合わせる。直進でやってくるから照準しやすい。


「発動っ!」

「!?」


 掛け声とともにナナミが動きを止めた。重力――体を重くさせる魔法が上手くいった。急に体が重くなった彼女は何が起きたのか分かっていない。

 重くなったためか腰を少し落とし、何とか立っている状況。そして握っているフルンティングが重いのか剣先が下がっている。これはチャンスだ。

 俺は魔法を発動させたまま駆け出す。接近する俺を見た彼女は無理矢理にフルンティングを持ち上げようとしている。


(させるか)


 魔力量を増やす。量は先程の二倍。さすがに耐えられないらしく、ナナミは片膝をつく。その間に俺はオハバリの刃が彼女に届く範囲に入る。


「ナナミ、これで終わりだ!」

「負け、られな、いっ」


 片膝をついたまま、フルンティングを振り上げてきた。重いはずなのに振り上げることができるなんて、なんて馬鹿力なんだ。

 だけどそのスピードは遅い。簡単にその刃をオハバリを振り下ろして受け止める。


――魔剣・フルンティングを検知しました……エラー。所有者がナナミのため、破壊できません。

「そんなの分かっているっ」


 叫びつつ振り下ろした勢いのまま、フルンティングを地面に叩きつける。刃が地面に突き刺さった。ナナミはフルンティングから手を離さない。

 また振り上げられたら面倒だ。俺は剣身に足を乗せ、フルンティングを地面に倒し、そのまま踏みつける。

 柄から手を離さなかったナナミも前のめりになりながら、地面に倒れた。

 無防備な首元が見えた。その首元に俺はオハバリを突き付ける。


「俺の勝ちだっ」

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