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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、地下)
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抱え込んでいたもの

 ムツミだと分かった俺は彼女を解放した。彼女は腕をさすりつつ、短剣を拾いに行く。俺もトツカのツルギを拾い、認証言語を呟き格納した。

 ムツミのほうを見ると俺と同じことをしていた。短剣を格納している。

 一瞬、短剣を叩きつけようとしていたのが見えたけど、気のせいか?

 俺は彼女に近寄る。


「本当にムツミ、だよな?」

「こんな美少女は他に誰がいるのですか?」

「アゾットがいるな。ムツミと同じ体を共有しているし」

「……セタさん、ひどいです」

「どこかで聞いたことある言葉だな」


 確かムツミが俺とナナミをからかった時、ナナミから制裁を受けた時に発した言葉だ。


「今回もムツミが悪いだろ」

「アゾットです」


 私は悪くない、と主張するムツミ。

 まあ、そうかもしれないけど。

 精神は違えど同一人物だから、多少の責任はあるだろ。


「魔剣管理をしっかりしろ」

「……そういえば、私がアゾットを持っていることを言いましたっけ?」


 話題を逸らされた気がする。

 けどまぁ、いいか。

 怒っても仕方がないことだし。

 それに俺の怒っている対象はムツミではなく、アゾットだ。

 ムツミに対しては注意程度。管理さえしてくれれば問題ない。


「アゾットのことを知ったのは日記だな」

「……日記?」


 俺の言葉を聞き、ムツミの目が据わった。


「ア、アゾットがムツミに隠れて紙の日記に写した、って言っていたぞ」

「……へぇ」


 あ、ムツミの怒気が高まった。怒気は彼女の内面に向けられている。

 俺に向けられてはいないけど、怖い。

 ムツミは腕を組んで小声で何か呟いている。おそらく内面に逃げたアゾットと会話をしているのだろう。

 どうしてそんなことをしたのかとか、何を書いたとか、言葉が聞こえてくる。

 話がまとまったのか、俺のほうを向いた。

 どこか不安げな表情だ。


「セタさん、どこまで読みましたか?」

「えっと……俺が研究所に来るまで」


 続きも書いていたけど、そこは読んでいない。新事実が沢山あって、理解することができなくなったからだ。

 切りのいいと思った俺の登場の部分から読むのを止め、頭の整理をしていた。

 その途中でムツミ――いや、ムツミと入れ替わったアゾットから連絡が入ったんだ。


「……ナナミ様と私の過去を知ってしまった、ということですか」

「……なんか、悪い」


 謝るととムツミはため息を吐く。俺が読んでしまったことに対して、彼女はそれほど怒っていないようだ。


「ナナミ様と私をどう思いますか?」

「どう、って?」

「アキツ王国の罪人ですよ、私たちは」


 自嘲気味にムツミは言う。

 知られてしまったから、どこか自棄になっているのか。


(でも、そう言われてもなぁ……)


 正直、実際にその時、その場所に俺はいなかったから、何とも言えない。

 けど国民を殺してしまったナナミ、そして国を統べる王を侮辱、傷つけたムツミ。

 それをどう感じたか。

 想像の域を出ることはない。加えて俺が見たのはムツミの日記のみ。ムツミの感情しか含まれていないデータ。

 俺は考えながら口を開く。

 普通ならどうするべきだったか。


「どうにかして罪から逃れるべきだったとは思った。特にムツミは」

「正直ですね」

「命さえあれば次の手段を考えることができるからな……だけど」


 言葉を切る。ここからは俺が直感で思ったこと。

 俺ならどうしたのか。


「俺がムツミの状況だったら、同じことをする」


 たぶん、いや絶対に同じことをする。

 しなかったら一生後悔するからな。それだけは嫌だ。

 相手が誰であろうと許せないものは許せない。


「口が達者ですね」

「言っとけ」

「でも……そう言ってくれて、心が軽くなりました」


 笑みを浮かべる。その笑顔はどこか吹っ切れたような表情だ。

 これまで抱え込んでいたことを少しでも吐き出せたから、スッキリしたのか。

 だけどどこか悲しそうな感じもする。

 知られたくなかったことを他人が知ってしまったから、ショックなのか。


 複雑な表情をしている。

 見ているこっちが苦しくなる。

 どうにかして安心させたい。


(これは俺の柄じゃないと思うんだけどな)


 頭を掻きむしり、俺はムツミに近づく。

 そして優しく抱き留める。

 彼女は突然のことで困惑しているようだった。


「ムツミ」

「……はい?」

「一緒にいた時間は短いけど、俺はムツミのこと見てきたと思っている」


 出会って一週間ほどだけど、その生活はムツミなしでは語ることができない。

 一緒に食事を作って食べ、毎日午後の魔法の練習。勉強するための本も貸してくれた。

 感謝し続けても足りない。


(だからこそ)


 悲しい笑顔はして欲しくない。

 ここから俺が言う言葉は、小説やドラマでよくあるベタなものだと思う。だけどその言葉しか思い浮かばない。

 それでムツミの気持ちはもっと楽になるはず。

 それしか俺にはできない。


「抱え込まなくていい。我慢しなくていい」

「……でも」

「俺が知ってしまったことを、知らなかったことにすることはできない……だけど」


 一度言葉を切る。


「だけど知ったからこそ、ムツミを支えることができる。俺はなんでもする」

「本当ですか?」

「ああ。だから今は思い切り泣けばいい。すべてを吐き出したらいい」

「……セタさん。胸を貸してください」

「ああ」


 彼女は嗚咽を漏らして俺の胸に顔を(うず)めた。

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