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「由美子さん忘れてったんじゃん…」
急いで外に出たらまだ由美子さんは横断歩道をわたったところにいた。
「由美子さん!」
こっちに気づいた由美子さんは手を振る。
「携帯!忘れてるよ!!」
僕が大きく携帯を掲げると気づいたように鞄をみて携帯ないことを確認し、笑顔でこっちに向かって歩いてきた。
その時だった。
ドン、という衝突音が聞こえ、目の前が真っ白になった。僕の頭は処理できなくて暫く立ち尽くし、舗装された道路に染みができていくのを眺めていた。
「おい、救急車!」
男の人のしゃがれた叫び声で我に返り、染みの元へ駆け寄る。倒れて形が崩れ赤く染まった「モノ」。これはなんだろう。この染みはなんだろう。この人はなんで青ざめているんだろう。この人はなんで叫んでいるんだろう。このけたたましい音はなんだろう。この人は、この人は、なんで、なんで、なんで。
けたたましい音の元は車だった。そこから降りてきた人が言う。「関係者はいらっしゃいますか?」
僕はこの状況を飲み込めなくて、焦点をぼやけさせて周りを見ていた。
「松永由美子さんの、関係者はいらっしゃいますか」
この赤く染まった「モノ」は「松永由美子さん」だった。僕の、叔母の。
「はい。僕の、叔母です。」
何が何だかわからないまま僕は病院にいって、待合室で待たされた。その間もいろいろな質問をされた気がする。頭にはあの衝突音と、赤く染まった道路がこびりついている。
しばらくして兄が来た。質問をしてくる彼らには、兄が対応してくれた。
当たり前に由美子さんは即死だった。