Ⅵ [訪問者]
ラルズは一面真っ白な部屋のベッドで横たわっていた。ジャイルとの一戦で負った傷の治療の為、入院しているのだ。
「ひまだなー」
そんなことを呟いているとドアがノックされた。どうやら訪問者が来たらしい。
「失礼しますよ」
「っ!!」
入ってきたのはこの国の第三皇女、ルル・ラフォーネだった。ブロンドの髪をしているラルズの同い年の美少女は、明らかに場違いな雰囲気を漂わせている。その後ろにはメイド姿の侍女もいた。
これには流石にラルズも目を丸くする。普段王都にいるはずの皇女がこんな所に来るのはどう考えてもおかしい。
「まぁ!ドッキリ成功ですわね」
ルルは満足気に笑っている。
「何してるんすか……」
「何って、お見舞い(?)ですけど」
「いや、もういいっす……」
ラルズは何を言っても無駄だと判断したようだ。
「そんなことよりラルズ」
「何です?」
「ついこの間、無茶はしないようにと私言いましたよね?」
頬を膨らませルルはラルズに詰め寄る。まっすぐな碧眼をラルズに向けて。
「それは、何といいますか。名誉の負傷?」
「こらっ!」
「……すみません」
どうやらラルズはルルには勝てないようだ。母親に叱られている子供のようになっている。
「でも大きな怪我じゃなくて良かったです。心配したんですから」
「だからといって、こんな所に来るなんて。皇女の自覚をもってくださいよ?」
「口答えは無用です」
ラルズの忠告にルルは明後日の方を向いた。そしてまたラルズに顔を向ける。
「今度会う時までにもう一度怪我したら承知しませんからね?」
「わかりましたよ……」
「約束ですよ?」
「はいはい」
ラルズの返事を聞き、ルルは小さな笑みを見せる。
「じゃあ私はそろそろ帰りますから」
「お気をつけて」
そう言うとルルは部屋を後にしていった。
「ったく、何やってんだかルルは……それは俺の方だな」
一人になった病室でラルズは自分の不甲斐なさを悔やんだ。ジャイル・ジーンと名乗った男との戦いで、ラルズは全く歯が立たなかった。
こんなことではダメだ、と考えていると勢いよく病室のドアが開かれた。
「失礼するぞ」
「いやいや、ノックぐらいしてくださいよ。ロットさん」
入ってきたのは金髪をオールバックにした大柄な男、ロット・ニルベスである。
「調子はどうだ?」
「もう大丈夫そうっす、他の皆はどーです?」
「皆お前よりも傷は深いが、命に別状は無いようだ」
「それは良かったです。自分が指揮して死人が出たとなっちゃあ、洒落にならないっすから」
それで、とラルズは真剣な表情に切り替え、話を続けた。
「あいつは何だったんです?」
「恐らくだが、『不死隊』と呼ばれる組織のメンバーだろう」
「不死隊?」
「ああ。ここ数年でたまに現れるようになった奴らだ。目的もわからない」
「……」
ラルズは考える。不死隊は一体何がしたいのか。もし、ジャイル・ジーンのような実力者が他にもいるとすればかなり不味いことになる。
「とにかく、今回の件のおかげで北の森の方も手薄になってしまっている。俺は王都への報告もあるから、北の森は冒険者ギルドへの要請を増やしておいた」
「わかりました」
冒険者ギルドは個人だけでなく、国からの依頼も請けている。騎士団でも人手が足りない時など稀に要請することがあるのだ。
「暫くは戻れないだろうから指揮は頼んだぞ」
「何でっすか?」
王都での報告だけならそこまで時間はかからないはずだ。
「どうやら近々、王家内で揉め事が起こりそうとのことだ」
「あくまで噂でしょう?」
「いや、ルル様がおっしゃられた」
その言葉でラルズは納得した。ルルが言ったのなら、それはほぼ間違いないのだ。何せルル・ラフォーネの欠片は『予知』なのだから。




