Ⅴ [時止め]
ラルズがジャイルと一対一の状況になってから十分が経とうとしていた。しかしジャイルは勿論のこと、ラルズにも傷一つ見当たらない。一つ違う点は涼しい顔をしているジャイルに対し、ラルズの額には大量の汗が流れていた。
この十分の戦いの中でラルズが分かったことは、ジャイルの『時止め』の長さである。その力の大きさ故にかあまり長くは続かないらしく、恐らく効果は一秒ほどである。
なのでラルズは距離をおいての戦法をとっていた。しかしジャイルの届かない距離からの遠距離爆破で応戦するも、ジャイルは時止めによりその範囲外に難なく逃れている。
その拮抗を破ったのはラルズだった。このままでは自分の体力が先に尽きると判断しての行動である。
ジャイルのギリギリ範囲外からの爆破攻撃を行い、それを時止めにより避けた所に突っ込んで行った。地面を爆破させ、勢いに乗ったラルズがジャイルに迫っていく。
(インターバルの隙を突く!)
しかしラルズの拳がジャイルに当たることは無かった。
それはジャイルがもう一度時止めを行ったからではない。単純にラルズよりもジャイルの近接戦闘の能力が上をいったのだ。
ラルズの拳は容易くいなされ、ジャイルの剣によってラルズの背中が斬りつけられる。
「惜しかったな、今のは冷や汗をかいたぞ」
「……嘘つけ」
「そろそろフィニッシュだ」
ジャイルが再び時止めを行う。が、ラルズはとどめを刺されていなかった。
時止めを行ったジャイルはラルズと距離を置いている。理由は明確。先程までジャイルのいた位置に凄まじい雷が落ちたのだ。
「まさかの雷帝様のお出ましか」
ジャイルはここに来て初めて焦りの表情を見せる。
「情けないぞ、ラルズ」
そう言いながら雷帝こと、ロット・ニルベスが姿を現した。
「遅いっすよ、ロットさん。何回三途の川が見えたと思ってるんです?」
「知るか」
「まぁ、本気で助かりました。後はお願いします」
「あぁ」
ラルズはジャイルとの戦闘になる前に応援を要請していたのだ。初めから勝てるとは思っていなかったのである。しかし体力の限界も来ており、大勝負に出たのだが危うく死んでいた所だ。
「ロットさん。あいつの欠片は『時止め』で、効果は約一秒。多少のインターバルありっす」
ラルズの助言にロットは目を細めた。驚きと同時に、ラルズがここまで追い込まれた事に納得いったようだ。
「次は俺の手合わせを願おうか」
ロットはゆっくりと大剣を両手で構え、ジャイルの方を睨んだ。
「夢みたいだな、雷帝と戦えるなんて」
「それは何よりだ」
「おっと……でも残念ながら今宵のパーティは閉幕らしい。また今度俺と踊ってくれ、雷帝さん」
するとジャイルの足元に黒い渦が現れ、徐々に体が吸い込まれていく。
「赤髪の少年も次こそはしっかりとどめを刺してやるよ」
「……」
「無視はひどいな……じゃあ特別に最後に一つ。ジャイル・ジーン、俺の名だ。しっかりと頭に刻んどけよ?」
そしてジャイルは黒い渦の中へと消えていった。




