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Ⅳ [強敵]

 最初こそ勢いよく犯人探しをしていたラルズだったが、捜査は困難を極めていた。現在ティジエにある酒場はほとんど回ったが、犯人どころかろくな情報も掴めていない。

 

「おかしいなー。いい線いってると思ったんだけど」

 

 ラルズは頭をかしげながらもティジエでまだ回っていない最後の店の前に着いた。これはもう一度考え直しか、と呟きながら店の中に入っていく。

 

「副師団長、ここもダメそうですね……」

 

 店内を見渡し、クルトは肩を落としてそう口にした。しかしラルズの顔は微かに笑みを浮かべていた。

 

「どうやら神様はショートケーキのイチゴは最後に残しておくらしいっすね」

「え、それってつまり……」

「ビンゴっす、まさにサヨナラホームランですね」

 

 クルトが見渡してもとてもそんな人物がいるようには思えないが、どうやらラルズにはわかるらしい。

 

「とりあえず、動きがあるまで待ちましょう。クルトさん、お酒はダメっすからね?」

「いやいや、飲まないですよ!」

「なんだ、案外真面目なんすね」

「公私はしっかり分けますから!」

 

 第四師団一同は出口に近いテーブルに腰掛けた。

 

*******************


 ジャイル・ジーンは戸惑っていた。まさか酒場に騎士団が来るとは思っても見なかったからだ。

 

 すぐに帰るだろうとジャイルはたかを括っていたが、なかなかその様子を見せない。これは気付かれている可能性がある。

 

「手練れがいるとみた……」

 

 そう呟くと赤い髪の少年に目がいった。恐らく彼で間違いないだろう。明らかに周りと雰囲気が違う。陽は沈みかけているし追いかけられても逃げきれるだろうと思い、ジャイルは酒場を後にした。

 

*******************

 

 ジャイルはティジエの街の外れの街道で歩く足を止める。すると周りに五人の男達が現れた。帝国騎士団である。

 

「流石帝国騎士団。若くても優秀なんだな」

 

 ジャイルは前に立つ赤い髪の少年、ラルズに投げ掛ける。

 

「初めまして、殺人犯さん。どうやら王都では真面目に相手されなかったらしいっすけど、ここではそうもいきませんよ?」

「悪いけど、あんたらと遊んでるほど暇じゃないんだわ。すぐに終わらしてやるよ」

「早漏は嫌われますよ?」

 

 挑発をしてはいるものの、ラルズは内心焦っていた。薄々感づいてはいたが、目の前の男は恐らく自分より強いからだ。しかし五対一、自分が主体になって他が援護にまわれば何とかなるかも知れない。

 しかし、


―ドサッ……。

 

 一瞬にしてジャイルの後ろにいた騎士は倒れ、目の前にいたジャイルはその騎士の後ろで血のついた剣を持っていた。

 

「なっ!」

 

 そう声をあげたのはクルトだった。驚くのも無理はない。クルトの目ではその男、ジャイルの動きが全く見えなかったからだ。

 

「これはまずいな……」

 

 ラルズは苦虫を潰したような顔をしている。なにせクルトだけでなく、ラルズでさえジャイルの動きは見えなかった。

 

「恐らく欠片の力です! 一旦距離「遅いよ」」

 

 ラルズが指示を伝えきる前に騎士団が二人、声をあげる暇もなく倒れていた。


 残るは二人、ラルズとクルトだけである。

 

「瞬間移動系っすか?」

 

 ラルズはジャイルに問いかける。いくら動きが速くてもラルズ程の実力者でさえ動きが見えないのはおかしいのだ。

 その上このままでは全滅は免れないので、少しでも情報を得ようとしたのである。

 

「教えると思うか?」

「まぁそーでしょうけど、砂埃一つたててないってことはそっち系の欠片でしょう?」

「流石に気付くか」

 

 険しい表情のラルズに対し、ジャイルは余裕そのものである。お互い構えはとらず向かい合っている。


「ハァッ!」

 

 すると好機と思ったのか、叫び声と同時にクルトがジャイルに斬りかかっていた。

 

 クルトの欠片は『硬化』である。故に着ている騎士団の制服にもその能力をかけているので、待っているよりは仕掛けた方が得策と考えたのだろう。

 

「な……ぜ……」

  

 しかし、次の瞬間にはクルトの背中にはジャイルの剣が刺さっていた。硬化された制服の隙間を通すように。

 

 そしてついにその戦場にはラルズとジャイルの二人だけになってしまった。が、ラルズの顔は先程までより少し険しさが抜けていた。

 

「なるほど、あんたもしかして固定する系統の欠片ですね?」

「ほぅ、何故そう思う?」


 ラルズの問いにジャイルは少し驚いたような顔を見せる。

 

「気付いているとは思いますが、今あんたが倒した男は『硬化』させる欠片持ちです。あんたの剣の刃こぼれを見るに一度服に弾かれたんで、隙間をぶっさしたって感じでしょう?」

「見事な考察だ」

「まぁここいらを固定する規模を見るにチートな欠片ですね……」


 欠片の力が分かったのは良いが、ますますラルズの状況は悪くなったのだ。ラルズは考える、相手を倒す方法を。

 

「お前の洞察力を称して、殺す前に良いことを教えよう」

「……なんですか?」

「俺の欠片の種明かしさ」

 

 ということは考察が外れていたのだろうか、とラルズは少し悔しく思う。

 

「俺の欠片はここいらの固定なんてショボいもんじゃない。世界全てを止めてるのさ」

「そんなのありえないっすよ」

「まぁ信じたくないのも無理はない。俺の欠片の力はな……『時止め』だ」

 

 ジャイルは不敵な笑みを浮かべる。一方ラルズは予想以上の敵の能力に唾を呑んだ。

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