Ⅲ [殺人犯]
とうに陽は沈み、常に賑わいをみせている王都の商店街も人の姿はない。その路地裏で男は座っていた。
「流石騎士団だ、一筋縄じゃいかねーな。用は済んだし、とりあえず北に逃げ込むか」
長い思考の末その男、ジャイル・ジーンはそう呟く。
そして立ち上がると街の闇の中へと消えていった。
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「ロットさん、聞きました?」
第四師団の基地にある、師団長室と書かれた部屋でラルズはソファーに深く腰掛けながら尋ねた。その目は年期の入った天井を見つめている。
ラルズが言っているのは例の王都の殺人犯についてである。王都から送られてきた情報には王都の北の門番が殺されたとあった。殺し方の特徴からみても例の殺人犯であることは間違いない。となるとほぼ確実にこちら側に逃げてきたとみて良いだろう。
「あたりまえだ。また面倒が増えたな……」
一方ロットは大量の書類を前に黙々と作業をこなしている。ただでさえ少なくない量の書類に加え、北の森のモンスター大量発生。さらに例の殺人犯も来たとなってはロットにとっては面倒この上ない。
「第一、ロットさんがあんなこと言うから」
「人のせいにするな」
「そう睨まないでくださいよ、蛇じゃあるまいし。まぁ冗談はさておき、どうするんです?」
「そうだな……」
ラルズの問いにロットは頭を悩ませる。北の森の件もあるので、総動員で殺人犯を探すことは出来ない。かといってこのまま野放しにすることも出来ないからだ。ロット自体は多忙であり、今回の件は指揮をとれない。となると適任はやはり絞られる。むしろ本来はそういう役職である。
「この件はお前に一任するしか無さそうだな」
「まぁ、そーっすよね」
ラルズもやはり覚悟はしていたらしく、すんなり受け入れた。
「いっちょ気合い入れますか!」
「頼んだ。くれぐれも慎重にな」
「大丈夫っすよ。パパッと片付けますんで」
ロットの忠告も軽く流し、ラルズは部屋を後にした。
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ラルズは街を歩いていた。王都の北側にも王都程ではないがそれなりに栄えているティジエという街がある。第四師団の数名でそのティジエという街に来ているのだ。
「副師団長、どこへ向かっているんですか?」
ラルズの一歩後ろを歩いているクルトが声をかけた。今回の目的地についてクルト達はなにも聞かされていない。
「酒場っすよ」
「何で酒場に?」
「王都であんだけ暴れといて捕まらないってことはそれなりの実力者でしょうし、そういう奴は宿に泊まったり一定の場所に留まらないんすよ」
「なるほど……」
「そんで日中から歩いている訳にもいかないし、都合のいい隠れ蓑に酒場は最適ってことっす」
クルトは関心した。戦闘においての格の違いは何度も見せつけられたが、思考能力においても自分より若いこの少年は上をいっていることに。
「でもティジエにいるんですかね?」
「たぶんいると思いますよ。こんぐらい大きな街じゃなきゃ、よそ者が来ると目立ちますしねー」
「確かに」
「そこで油断しきってる犯人を自分らがお縄ちょうだいって感じでね。行きますよ! ワトソンくん!」
目的地についたラルズは酒場の扉を勢いよく開いた。




