第一章 Ⅰ [帝国騎士団]
メリード帝国の帝都に構える帝都騎士団本部では円卓を囲みながら七人の師団長達による会議が行われていた。
「ニルベス、北の森の状況はどうじゃ?」
帝国騎士団長、兼第一師団長であるダン・オーベルクは聞いた。白い髪を肩まで伸ばし、長く白い髭を生やした顔は年相応の風格を出していた。
「我ら第四師団の行った調査では、明らかにモンスターの数が増えているということです」
黄色い髪をオールバックにしている大柄の男。第四師団長、ロット・ニルベスの顔はとても四十代とは思えないほどの威厳がある。
「ふむ、やはりか……マリル帝国の動きはどうじゃ?」
「未だ見られず、といったところです」
「……」
マリル帝国はメリード帝国の北側にある国である。この大陸では大きく五つの帝国があり、他四つに囲まれるようにメリード帝国は位置している。
「では、引き続き監視を頼む」
「承知しました」
十ある師団はそれぞれに管轄があり、第四師団は主に北の管轄を任されている。第一師団は別として、師団の数字が地位や強さを表しているわけではない。
「会議はこれで終わりじゃ、各々気を緩めぬように」
その声と同時に十人の師団長はそれぞれ散っていった。
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「ロットさん、お疲れ様っす。どーでした?」
ロット・ニルベスが外へ出ると赤い髪の男が立っていた。
ラルズ・オリオット。第四師団の副師団長である。歳はまだ十八になったばかりだというのに副師団長を任されている。
「いつも通りだ、帰るぞ」
「相変わらず素っ気ないなー」
ロットの素っ気ない返事に慣れているのか、気にも止めない様子でラルズは後をついて行く。
門に向かい、しばらく歩いていると前方を少女とメイドの姿をした人物が歩いていた。この国の第三皇女と彼女に仕える者である。帝国騎士団の本部は王家に何かあった場合を想定してラフォーネ城の中にあるのだ。
ラフォーネ家の第三皇女であるルル・ラフォーネは誰もが認めるほど、綺麗で可憐である。その髪は金色に輝いており、瞳は碧くどこまでも澄み渡っている。そして身に纏う水色の衣装は輝きをより増してみせている。
彼女は二人に気が付くと方向を変え、近づいてきた。
「お久しぶりですね、ニルベス師団長様。お疲れ様です」
「お久しぶりです、ルル様」
彼女は皇族らしい言葉遣いで挨拶を交した。その声もまた、とても心落ち着くものである。
「後ろにいるラルズ・オリオット副師団長は迷惑をかけていないですか?」
どうやらルル・ラフォーネとラルズは面識があるようだ。
「むしろ迷惑しかかけていないですな」
「まぁ……」
「ちょいちょい、お二方~」
また始まったか、とばかりに挨拶も抜きにラルズは口を挟む。
「ラルズ、迷惑ばかりかけてはダメですよ?」
「師団長の冗談ですから! わかって言ってますよね!?」
まるで姉のようである。二人とも歳は同じではあるが、その関係は姉弟そのものだ。
「ルル様、遅れてしまいます」
「ええ、わかっているわ……」
メイド姿の侍女に言われ、彼女は残念そうな顔で返事をした。
「ニルベス師団長様。失礼致します」
「はい、お気をつけて」
「ラルズ、あんまり無茶してはダメよ?」
「はいはい、わかってますよ。第三皇女様」
彼女は「では」と言うとお辞儀をして二人から離れ、元の進んでいた方向へと姿を遠ざけて行った。




