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プロローグ [赤の騎士]

「ハァ……ハァ……」

 

 森の中をその少女は駆けていた。額には大粒の汗がいくつも流れており、その顔は真剣そのものだ。

 

 そもそも何故少女は走っているのかというと、原因は後ろから少女を追う四つ足のモンスターにある。

 

 キングボアーと呼ばれるそのモンスターは一見豚や猪に見えるがその体は二メートル近くあり、もし跳ねられたことを想像すると背筋が凍りつく。

 

 少女は森に生えているキノコや薬草を取りに来ただけなのだが、採取に夢中になっている内に当初想定していた場所よりも奥深くまで来てしまい、自分の力量を越えるモンスターに見つかってしまったのだ。

 要は完全に少女の不注意だ。

 

「もう……だめ……誰か、助けて……」

 

 その小さな体に残る体力が尽き、少女はその場にへたりこんでしまった。

 

 口では助けを求めてはいるが実際のところは諦めていた。そんなに都合よく助けなど来ないことなど重々承知しているからだ。

 

 少女を追うキングボアーはすぐそこまで迫っている。少女は目を瞑り、これまでの人生の走馬灯を見ていた。そんなに長い人生を歩んできたわけではないが幸せは沢山あったなぁ、などと達観しながら。

 

 そして、

―ドンッッ!!

 

 という凄まじい爆発音と共に少女の華奢なその体は吹き飛ばされる、はずだった。

 

「……あれ?」

 

 少女は目を丸くした。そして自分の体が傷一つないことに気付く。そもそも自分の小さな体を跳ねるのに爆発音というのが可笑しな話だ。

 

 音が鳴った方を見ると、先程まで自分を追っていたそれは三メートルほど位置をずらして横たわっており、再び動き出す気配もない。そしてそこには知らない男が立っていた。

 

 ここでようやく少女は自分がこの男に助けられたのだと理解した。背は高くスラッとしており、髪は短く赤く、そして真っ赤な瞳で自分を見ているこの男に。

 

「大丈夫?」

 

 赤い髪の男が心配そうな顔をしながら訊ねてきた。

 

「……あ、だ、大丈夫です! その、ありがとうございました!」

 

 助けてくれた男に返事をすると、少女はあることに気付いた。男の格好についてである。

 

 その男が着ている服は、このメリード帝国にいるものなら誰にでもわかるものである。小さな子供なら一度はその服を着ることに夢を見て、またそうなろうとする者も少なくない。

 

 帝国騎士団。

 

 そう、少女を助けたその男は帝国騎士団の服を着ているのだ。まるでおとぎ話のお姫様みたいな状況だ、などと少女が考えていると男が口を開く。

 

「無事ならよかった。よかったら森を出るまではお供しようか?」

 

 赤い髪の騎士は少女に手を差しのべた。とても優しい笑顔で。

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