プロローグ
どうも、みらドーナツと申します。
雨がぽつぽつと滴る、6月の夜。
そんな中、公園の入り口から声が響き渡る。
「あんた!なにやっとるんや…!!」
ガサガサな髪に、顔は濃い化粧で施されている女性が、パタパタと慌ただしくこちらに駆け寄ってくる。
彼の養母だ。
「あんたね…!爺さんの葬式の日になにやっとんねん!この罰当たりがっ!!」
養母は大きく手を振りかぶり、彼の頬にビンタした。叩かれた音は大きかったものの、雨の音ですぐに掻き消される。
「…」
彼は赤く腫れた頬を手で摩り、わかったよと口にする。養母は足元に唾を吐きかけると、早足で立ち去って行った。
何が罰当たりだ。…爺さんの事を何も知らないくせに。
彼は小さく呟き、唾がついた地面に対して、抉る様に蹴った。
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少年…土田耕太の唯一の理解者は祖父であった。
英才教育の名の下、父や母に毎日勉学を強いられていた耕太にとって、時々遊びに来る祖父との時間は楽しいものであった。
しかし、父と母が互いの意見の違いで離婚となり耕太は父に引き取られる。耕太の慕っていた祖父は父の方であった為、会えないという事は無かったが、離婚後の父は荒れに荒れまくっていた。
毎日、どこかの店から女を家に連れてきては、夜に不快な声が聞こえ、耕太を不快な気持ちにさせた。
だが、それなりに父の稼ぎは悪くなく、普通の生活も暮らせていたので文句は言えなかった。祖父とも話せたので、充実した日々といえばそうである。
だが、それも父の再婚によって終わりを迎える。養母は義理の息子に対する態度が悪く、父が不在の時には彼に暴言や暴力などの嫌がらせをしていた。
こんなに醜悪な女と父が何故、結婚した理由など明確だった。女遊びによる弊害なんだろう。父はそれで責任を取らされたに違いない。耕太は大人の穢れを見て、不快感を覚える。
再婚と同時に祖父も倒れた。祖父の死因は、脳梗塞。その出来事は、彼を地獄に陥れるにはあまりにも突然であった。
そして今に至る。この日は祖父の通夜であった。祖父の家には喪服を着た人達の列ができている。彼を見た人々は、耳打ちでコソコソと話す。見る目は好意的ではない事はわかった。
耕太は顔を顰めたまま家へと上り込んだ。
家へと入っていく中、養母の声が聞こえたが、平然と無視をして地下へと繋がる階段を下りていく。
祖父の家には地下があり、そこは本で溢れていた。ズラリと並んでいる本棚を見て、耕太は変わってないなと小さく微笑む。
ここは彼と祖父がいつも遊んでいた場所。彼にとってはかけがえのない思い出の場所だ。
耕太は涙が溢れるのを袖で拭いながら、本棚の間を通る。そして周りの本を手にとって読んだ。
本の内容はどれも祖父が彼に読み聞かせてくれた話。どれも嘘のような…しかしそれでも何故か現実味のあるようなお伽話は、彼の楽しみであった。
耕太は手にとった本を流し読みして元に戻すという行動を繰り返していると、いつの間にか最後尾まで辿り着いてしまった。
彼は一息つき、この本達をどう管理しようかと考えながら周りを見渡すと、最後尾の本棚の隅っこにある白黒の本に目が止まった。
こんなもの、あったっけ…?
首を傾げ、耕太はその本を取り出す。それと同時に埃が舞って彼は咳き込み、涙になりながら長年放置されていた本の表紙を目にする。
そこにはどこの言語かわからないタイトルであった。
本を開けると、そこには日本語で文字が書かれていた。全体的に文字が掠れており、何を書いているのかがわからない。だが、所々読めるところがある事に耕太は気づく。
「ドラゴン…?ドワーフ…城…?爺ちゃんのお伽話に出ていたな…そういや」
だが、読めるところはあったとしても意味が理解できない。パラパラとページを捲っていくと、耕太は最後のページに目を見張る。
「何だこれ…?」
そこにはファンタジーでよく見る、魔法陣が描かれていた。幾多もの図形が重なって、とても綺麗である。耕太がその魔法陣に手を触れた時、眩い光が本から放たれた。
「な、何だ!?」
彼の手が、魔法陣から吸い込まれていく。驚愕で頭が一杯であった彼は、反抗する時間もなく、為すすべもなく全身ごと吸い込まれていった。
「おい!クソガキ!どこ行きやがった!!」
興奮で顔を真っ赤にした養母が地下図書室へと来たが、静けさが漂う空間に対して、眉を顰めた。
「…あ?」
いないのかと判断し、踵を返す。そしてどこに行きやがったと、また繰り返し呟きながら、階段を上がって行った。
誰もいない地下図書室。床に落ちた白黒の本は、ページが開いたままになっている。
そして密室にもかかわらず、風に吹かれる様にページがパラパラと物静かにめくれていた。
文章能力が高くは無いですが、よろしくお願いします。