自由になりたい【ユリ視点】
この世の中誰もが繋がっているのに
コウくんだけは繋がっていない。
両親の方針だと彼は言う。
そう言うご両親も繋げてはいるが
外界をほぼ遮断しているらしい。
この世界のニュースの伝達や
緊急事態の連絡は繋がることによって
初めてなりたつ。だから成人は
繋がることを法で定められている。
だから子供でも繋がっていない人間なんて
コウくんが初めてだ。
繋がっていると
言いたいことややりたいことが
全て繋がりから伝わる。
思考と思考とのやりとりだから伝達ミスもない。
思考の一部を隠して嘘をついたりすることも
できるからプライバシーはある。
「さびしくないの?」
でもコウくんは繋がっていないから
日頃使い慣れない筋肉を駆使して
口を動かして喉を震わせて音を紡ぎ出す。
とても変な感じ。
「淋しくなんてないよ。
こうやってユリとお話できるし。」
自分が発するか細い癇に障る音とは違って
低く落ち着いた心地よい音が耳の鼓膜を打つ。
それは繋がっている相手の「声」とは
同じように聞こえている筈なのに、
まるで脳をなでられたかのように身震いがでた。
「こうして、話したり、触れたりしない
君たちのほうがよっぽど淋しそうだ。」
そんなことを思っていたら今度は本当に
頭を撫でられて体が飛び跳ねた。
「あ、ごめん。慣れてないもんね。
次からは気をつける。」
「う、ううん!だいじょうぶ。」
次が、あるんだ、と嬉しく思ってしまう。
コウくんは、私の憧れ。
繋がっている世界では常に
自分の思考にどれくらいの人が
反応するかで人気が決まり、人気がないと、
繋がる価値がないものと扱われ、
見下され、蔑まれ、心を壊される。
そう言う可哀相な人はいつの間にか
繋がりの世界から消えてなくなっていたけれど
誰も気にすることはない。暇はない。
そんな、常に気を張っていなければならない世界で
繋がっていないのに優しいコウくんは眩しかった。
「わたしも、つながりはずしたい。」
だからそう言ったのにコウくんは
慌てたように両手を振った。
「駄目だよ!ユリは赤ん坊の時から繋がってるんでしょ?
それを今外しちゃったら耐えられないよ。」
コウくんみたいに自由になりたいのに。
コウくんがそれを許してくれない。
いつか、もっとちゃんと慣れたら。
そんなにも私は繋がることに
依存しているように見えるのだろうか。
この世界に疲れ果てて心が壊れかけていることに
気づかせたのはほかでもないコウくんなのに。
繋がっているのはコウくんだけでいいと、
そう思わせてくれたのはコウくんなのに。