02話.現代帰還
視界に入ってくる暴力的なまでの人工の光の洪水。耳に叩きつけるかのような喧騒。大気に混ざる排気ガスの匂い。そして、見渡す限りに建ち並び夜空を覆わんとする高層ビル。
——間違いなく地球、間違いなく日本、間違いなく、帰ってきた。
「やった……成功だ」
小さくガッツポーズをする。
ここがどこなのかはわからない。が、もとの世界なのは確かだろう。
ただ、喜んでいるわけにもいかないな。
まずは格好だ。
異世界で見ればまず間違いなく魔王だとわかる格好、つまり此方側ではコスプレ、というものだ。
ずっとこんな感じの服だったから忘れていたが、意識したら恥ずかしさがぶり返してきた。
次は時間だ。見上げれば夜空。つまるところ夜。
露出度の高い服で、都会の夜を歩く。
あかん奴だ。
服装はこの時のために事前に作っておいた服に着替える。この服は今後のため、簡単に作った黒い長袖長ズボンになっている。丁寧に所々をボロボロにして。
私は行方不明者として扱われているはずだ。あまり綺麗なのを着ていて、怪しまれても困る。
これでも夜を歩くのは不安なので、透明化の魔法を使用することにした。
あ、魔力もなんとかしないと。
オッケー。今はこんなもんだな。
ただの小学生だった私は、魔王となって帰ってきた。
…これだと地球の危機のように聞こえる。
なにもやらないけどね。
無事に帰ってこれたおかげか、少しテンションが上がっている気がする。
一旦、深呼吸でもして落ち着こう。
…スーハー、落ち着いた。
勇者に倒された振りをして地球に帰ってくる。
それが私の計画だ。恐ろしく時間がかかったけどね。いつ来るかわからなかったし。
しっかりと演出付きで倒されてきたんだ。しかもしかも、置き土産として私がいなくなると魔王城が崩壊、からの消滅するようにしてある。
こんだけすれば魔王は死んだと思うはず。
勇者?生きてるだろ。
あわよくば消滅に巻き込まれて死んでくれ。
いや、向こうのことは置いといて、取り敢えずこのあとどうするかだな。
選択肢は二つだな。
一つ、家族に会いに行く。
二つ、警察署に行く。
どっちも変わんない気がする。家族に会いに行っても、結局警察署に行くことになるし。
警察署探すか。もちろん魔法で。
…見つけた。結構近くに出てこれたっぽい。
透明化の魔法を存在感を薄くする魔法に変える。
これで、いきなり現れてビックリ!なんてことにはならない。
これで警察署に向かって歩く。
にしても、どこだここは。
全然わからん。
私の日本での記憶は五千年も前だし、しょうがないか?
まあ、覚えてはいるがうろ覚えだったり、内容がゴチャゴチャと混乱していたりと酷い状態だしな。
忘れていないだけマシか。
記憶に関しては今後がんばって行こう。
そしてその第一歩として、警察署に急ぐことにする。
そのまま、ものの数分で警察署に着いたわけなんだが、こっからどうすればいいんだろうか?
……うん、当たって砕けよう。
仕方ない、数分じっくり考えてこれしか思いつかなかったんだ。
魔法を解除して、いざ、参る!
と言って意気込んで中に入りはしたが、ただ受付の人に名前を言って調べてもらっただけだ。
今更だが日本語がしゃべれるか心配だったが問題なかったよ。
調べ終わり戻ってきた受付の人に部屋に案内された。
そこで警部さんから、約五年失踪してたことになっていることを聞いた。
うへぇ、五年か。一千倍の速さで向こうの時間は過ぎていたってことか。
その上で、肉体は五年分の成長をしている。
とすると、もしずっと向こうにいたら、あと五、六万年生きることになっていたと。
嫌だな。長生きの域を越えてる。
「えーと、夜暗真緒ちゃん。ご両親と連絡が取れたよ。すぐに来ると言ってたよ。良かったね」
「…ありがとう、ございます」
こうして人と話すのは久しぶり過ぎて緊張する。
しかも見知らぬ人と話すのだ、緊張しないほうがおかしい。
ただ、勘違いしないで欲しいのは私は決してコミュ障ではない、ということだ。
断じて違うからな?
それから、警官さんの質問を答えられる範囲で答えていたら、部屋の扉が勢いよく開いた。
「「真緒っ!」」
おうぇい⁉︎
扉から入ってきて私に飛びついたのは、もちろんマイマザー&ファザーだ。
確かに両親からしたら五年振りなのだから仕方が無いのかもしれない。目尻に涙が浮かんでいる。
だが、流石に飛びつかれると困る。
「…お父さん、お母さん。苦しい」
「あ!ごめんね、うれしくてつい…」
「大丈夫なのか⁉︎怪我とかしてないか⁉︎」
おいコラ親父、心配してんなら行方不明だった娘を揺するな。
「志雄さん、落ち着いて」
「どこか痛いところはないか⁉︎熱は⁉︎ハッ⁉︎⁉︎しょじ……」
「志雄、さん?」
お父さん、あなたを見捨てなければならないと思うと、心が痛いです。
あと最後の言葉は余計だ。
「…えっと、ですね、真琴さん?お、俺は、その、純粋に、真緒の心配を…」
「あらあら、そうですか。そうですよね。でも、落ち着いて、時と、場所を、考えて下さいね?」
「ハイ」
お母さんとお父さんの話し合いが終わったようだ。やはり母というものは強いらしい。
あ、そういえば…
「兄さんは?」
兄がいた。うん、いた。名前は辰馬で、四つ上だから…今は二十歳くらいになるのか。
ここには来ていないようだが。
「たっくんは今日本にいないから。でも一応、来る途中に連絡を入れたから休みになったら帰ってくるわよ」
ふむ、海外にいるのか。ならいいか。
「お父さん、お母さん」
「「真緒?」」
やっと帰ってこれたんだ。待っていてくれた両親に贈り物を。
ありふれた、けど、この場に相応しい、あの言葉を。
「…ただいま」
「…おかえりなさい。真緒」
「ああ、おかえり。真緒」
———私は、帰ってきたんだ。
マオ「…泣かないから」
感動の再会の回でした。
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まだまだ未熟な私ですがこれからもよろしくお願いします。