01話.魔王消失
私は夜暗真緒という。今は、マオ・ダークナイトだ。
今から約五千年前、当時十一歳だった私は、地球じゃないこの異世界に迷い込んでしまった。
そこで生活しているうちに、偶然、あるいは奇跡的に人(今は魔族)に出会った。
で、色々あって魔王になった。
省略しかないな。
話したいんだけど五千年分の話をするには時間がない。
肉体はあまり年を取っていない年齢的には15か16歳といったところ。原理はわからない。
精神?聞くな。
で、私は魔王だ。
悪魔の王、魔族の王といろいろあるが、私の場合は魔族の王になる。
しかし、魔王がいれば、当然のようにアレがいるわけで。
ここは魔王城、その最奥。玉座の間だ。
そして視線の先には光り輝く剣を構えて、強そうな装備をした茶髪の男が。
どこからどう見ても勇者である。聖剣スゲー、無駄に輝いてる。
「ついにここまで辿り着いたぞ、魔王‼︎覚悟しろっ‼︎」
勇者が叫ぶ。
ここは合わせよう。魔王っぽくね。
しかしなんて言おうか?考えてたら緊張してきた。
「よく来たな勇者よ。貴様は我のもとに始めて届いた人間だ、褒美をやろう。何がいい」
やば、変なこと言っちゃったよ……もういいやこのまま行こう。
褒美なんて、勇者が魔王からもらうわけがない。
まあ、あげられるものがそもそもないんだけど。
「褒美?なら魔王!貴様の——」
あ、おい勇者。その先は容易に想像できるぞ。
やめい、聖剣を構えるな。来るんじゃない。私はなんでもいいとは言っていない。
「——その命を戴こう‼︎」
予想通りだけど、そーゆーのやめない?
命を大事にしようよ。私、魔王だけど。
まあ、いいか。計画通り行こうじゃないか。
「…そうか。なら‼︎奪ってみせよ勇者ァ!!!!」
……ああ、恥ずかしい。
勇者と何回も剣を交え、魔法を撃ち合う。
勇者の息が上がってきたな。そろそろ限界か。
一度剣を下ろす。
そして、待つ。勇者の最後で最大の一撃を。
「はぁ、はぁ…流石に、簡単に倒れてはくれないか」
「当然であろう?しかし、貴様もなかなかに強いな。どうだ、我が下に来ぬか?」
さてと、そろそろ段階を進めよう。
ここまで来たら使わざるを得ないだろう。
「俺は、魔王には決して屈さない!人類のために‼︎」
「そうか…。残念だ勇者よ。ならばせめて我が最大の術をもって葬ってやろう!!!!」
人類のため、か…。勇者だからな。当然だ。
そして私は魔王。人外を統べる王。王の責務を果たすのみだ。
そのために勇者を煽る。
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう!この一撃をもって決めるっ‼︎‼︎」
来た。これを待っていた。
別にここが悪かったわけではない。むしろ良かった、楽しかった。
ただ、私みたいなのが居続けてはダメだ。
さあ、本来あるべき形へ戻そう。
「聖剣よ…今、魔王を討つ裁きの光を…」
言葉と共に勇者の持つ聖剣から、眩い光の柱が迸る。
それに合わせて勇者の髪が茶から金へ、瞳も金へと変わっていく。
私も準備をしよう。手に持っていた魔剣を棄てる。もうボロボロだったし、まだたくさんあるし、問題ない。
私を中心に、魔法陣が浮かび上がる。
もの凄い数の魔法陣があるが、実はほとんどがフェイク。
使っているのは手元のだけ。
五千年の末、手に入れた無駄技術の一つ。哀しいことだ。
「いくぞ魔王…!【聖焔煌閃牙】アアァァァアアッッ!!!!」
技名…恥ずかしくないのかね。
…最後だし、私ものってみよう。
「……【禍劫死煉弾】ッッッ!!!!!」
……今ので私の五千年培った、鋼どころかダイヤモンド並みのメンタルが砕け散った。
しかも名前考えてたら目の前まで光が来てた。
真面目に危なかった。
技名?ワスレロ。
「ぅ、くっ、ぅぅ、ゥゥゥウオオオォォオオオォォオオオオオ!!!!!!」
「なっ‼︎にぃ⁉︎」
おお、勇者の聖焔煌閃牙が徐々に大きく、強くなり近づいてくる。
流石、勇者。
ちなみに、私の魔法は一定以上の出力が出ないようになってる。
「こ、れ、でっ‼︎。終わり、だぁぁぁあああああ!!!!」
勇者の聖焔煌閃牙は勢いを増し、視界を埋めていき、そして私は、呑み込まれた。
あ〜、体がヒリヒリする。擦り傷が全身に負ったような感じ。
ここでアレを使えば終わりなんだけどな…。
最後に一言ぐらい言っておこうかな。
「勇者よ、見事だ…」
「なっ⁉︎魔王っ、まだ…!」
「いや、もう時間の問題だ。我は、じきに消えて、なくなるだろう…」
嘘だけどね。しかも一言じゃなくなった。
「…ヨウスケ」
「ん?」
「ヨウスケ・ヒザキ。俺の名前だ」
「………………………」
あ〜、やっぱり?
今後の不安要素、と言ったところか。
まいっか、その時はその時だ。
なるようになれ、って奴だ。
「…さらばだ。勇者ヨウスケ、楽しかったぞ」
「………」
体が黒い光に包まれていく。
終わったなぁ。
私がいなくなった後、どうなるかわかんないけど私に出来ることは一つ。
彼らの幸せを願おう。
そして、光が晴れたころには魔王の姿はどこにもなく、魔王は完全にこの世界からいなくなった。
マオ「なんで私の苗字が夜暗でダークナイトかって?そりゃあ五千年前の若気の至りってやつだよ」
なんつーネーミングセンスだ。
マオ「あんたに言われたくない」
技名の部分は自由に当て字してね!
マオ「ワスレロ」
クペッッ⁉︎
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