ぼくは泣いてしまった/サヨナラとぼくは言って/心地よさ
●ぼくは泣いてしまった
ぼくは泣いてしまった
泣くまいと思っていたのに
でもこの瞬間は予期していた
ぼくは知っていた
知っていたから覚悟もできていた
けれども、その瞬間に僕は泣いてしまっていた
理想とぼくの実際とは違う
かけ離れている
ぼくの中にある外れたボタンが
もう拾えない
お別れを言おう
ぼくはぼくから離れて歩いていこう
新しいぼくに出会う
誰かが呼び止めたとしても
とりあえずしばらくは
振り返らないかもしれない
●サヨナラとぼくは言って
サヨナラとぼくは言って
あなたを見上げた
できるだけ挑戦的に
それからその場を離れた
追いかけてこないのは分かっているので
ゆっくり歩いても問題ないが
ついつい早足になる
心を引き裂かれるような苦しい別れ
それはお互い様
ぼくのすべてがそこにあって
でもそれをぼくは捨てて行く覚悟だ
そのことがあなたに伝わって
だからこそ追いかけてくることなどできない
ぼくのすべてがそこにあって
でもそれはぼくの所謂過去でしかない
そうだ
ぼくが持っていたもの
生み出したものすべて
それはぼくの過去でしかない
サヨナラとぼくは言って
あなたを見上げる
できるだけ挑戦的に
そして悲しみは見せずに
サヨナラとぼくは言って
その場を去る
できるだけ何もなかったように
背中に悲しみを見せずに
●心地よさ
その穏やかな空間が好きだった
君がそこに座っているだけで
不思議に心地よい緊張感と穏やかさ
みんなが君を好きになる
みんなが君を愛している
凛とした空気の中に漂う君の柔らかさ
その空気が好きだった
君を知れば
誰もが君を好きになる
君が全てに愛される
僕の手から君が離れていく
僕だけが知っていた君を
少しずつみんなが知るようになる
そうして
みんなが君を愛する
僕は少し嫉妬して
嫉妬しながらそれでも君の後ろ姿を見守っているよ
静かに微笑んでいる君は
時に振り返り僕を見る
その瞬間に広がる無限の世界
僕と君だけの心の空間
ねえ、あとでどこかで話そうよ
うん、いいよ分かった
またあとでね
うん、またあとで
君の眼が細められて
僕は誰よりも幸せになる
誰もが君を好きになり
誰もが君を愛している