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#13

 その後も私はお父さんに教わりながら、さらに2匹のニジマスを釣り上げた。

「さすが和泉君に教わってるだけあって、なかなか上手いな」

 お父さんの褒め言葉に、得意になって返事をする。

「でしょ? もしかして、私って天才釣り少女?」

 私の頭からは、この釣果ちょうかが私の実力じゃなく、ついている師匠がいいせいだという可能性がスッポリと抜け落ちていた。

 その上初めてルアーでニジマスを釣ったことや、お父さんと一緒にいる喜びで有頂天うちょうてんになっていた私は、ある意味酔ったみたいに抑えが効かなかった。

 そんな精神状態のせいで、ある身の程知らずな計画が突然私の頭にポッと浮かぶ。

「よーし、この勢いで克之に挑戦してやる!」

 お父さんの苦笑いが一転、驚きと戸惑いの表情に変わった。

「い、いや瑞季、さすがにそれはちょっと…」

「大丈夫! こんな短い時間で3匹も釣れたんだもん。きっと克之にだって勝てるよ!」 

 私はお父さんの声にもろくに耳を貸さず、克之のもとへと走った。

 私は何か楽しそうに話す克之と智也の間に割り込み、びっと指を克之に突き付けた。

「克之! 私と勝負よ!」

 テンションMAXの私の様子に、克之も智也も目をパチクリさせている。

「し、勝負って、何の?」

 何のって、管理釣り場でバドミントンの勝負とかしないでしょ? 普通。

「ニジマス釣りの勝負に決まってるじゃない!」

「あ…、えっと、誰と誰が?」

「私と克之が」

「うんっと、何のために?」

 克之のその質問に、私はハタと考え込んだ。

 何のため? ………えっと、何のためだろ?

「…な、何でもイイでしょ!? 受けるの?受けないの?」

 その時、背後から智也が口を挟んで来た。

「姉ちゃん、あのさ…」

 私はジトッとした目で智也に振り向く。

「何よ、智也」

「だ、大丈夫? 本気でお兄さんに勝てると思ってんの?」

 智也、大丈夫って、勝ち目があるのかって意味だよね?頭大丈夫って意味じゃないよね?

 そう心の中で呟きながら智也を睨んでいると、克之が「お兄さんじゃねぇ」、とボソリと呟くのが聞こえた。

 克之、大丈夫。いつか本当に智也と兄弟にしてあげるから。

「ふん! あんた見てなかったから分かんないだろうけど、私お父さんに教わって、もうニジマス3匹もゲットしたんだから。克之が相手だって十分勝負になるわよ」

 私のその自信たっぷりな口振りに、克之がニヤっと笑いながら言った。

「ふうん。そんなに自信あるなら、瑞季、何か賭けて勝負してみるか?」

「か、賭け?」

 克之の不敵な笑いに思わずひるむ。

「そ。勝った方が、何でも相手に命令出来るとか…」

 な、何でもっていうのはちょっとリスク高いかも…。

 でも、克之のことだから、あんまりムチャなことは言わないはず。逆にもしビギナーズラックで勝ったら、私から何でも克之に頼めるし!

「分かった! やる!!!」

 私は張り切って宣言した。

「じゃあ、時間は今から1時間。数を多く釣った方の勝ちな」

 克之がロッドを掲げながら言う。

 克之にコクリと頷いてから、私は智也に向かって言った。

「智也、時間計ってね」

 智也はアチャー、みたいな顔で溜め息をつきながらも、私の言葉に頷いてみせる。

 何よ智也、そのリアクション。

 智也は腕時計に目をやり、右手を差し上げた。

「じゃあ行くよ。よーい、…スタート!」

 私は智也が右手を振り下ろすと同時に、あらかじめ目を付けていた場所に走った。




 私が入ったのは、噴水への距離が一番近い場所だった。さっきのスタート地点から、池の周りに沿って時計回りに90度移動した場所。

「ようし」

 私は闘志に燃えてロッドを構えた。頭には既に、克之に勝って何を命令しようかあれこれ悩んでいるビジョンしか浮かんでない。

 まずは噴水の右側にスプーンをキャストする。お父さんに言われた通り、まずはリールを巻かずにスプーンが底に沈むまでの時間を計った。7秒だ。

 その後、3秒と6秒の2通りに分けてそれぞれのタナを探る。

 おかしい、アタリがない。

 次に噴水の左側を狙ってキャストした。同じ手順でタナを分け、それぞれを数回づつ探るが、まったく魚の手応えはない。

 焦りが出てきた私は克之の方に目を向けた。

 克之のロッドの先からピンと伸びたラインの先に、何とかはりから逃れようと水面でもがく魚の姿が見える。

 どうしよう、克之は釣れてる!

 その後も色々場所を変えてトライを繰り返しても、私のスプーンに魚は掛かってくれなかった。

「しゅ~りょ~」

 1時間後、智也の勝負終了を告げる声がかかった。あの言い方、すっごいムカツク。

 私はトボトボと克之の元に歩いて行く。自信のなかったテストが返却される日、教壇に向かう時みたいに足が重い。

「オレは4匹。お前は?」

 既に勝ちを確信している克之は余裕タップリと言う感じだ。こっちの態度もムカツクぅ~!

 私は黙って右手の人差し指を立てる。私の結果は、終了間際に辛うじてかかった1匹だけだった。

「何すればイイの?」

 私は俯きながら、拗ねた口調で言った。いまさら、負けたら相手の言うことを「何でも」聞く、という賭けの内容が重くのしかかる。

 克之は、うーん、としばし考え込むそぶりを見せた後、私の耳元に口を寄せて一言囁ささやいた。

「え? ええぇぇぇ~~~~~!!!?」

 私は思わず周りの視線が集まる程の声で叫ぶ。

「ば、バカ!」

 周りの迷惑そうな視線に、慌てて克之が私の口を手で塞いだ。

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