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#11

「成田フィッシングパラダイス」

 そう書かれた看板が立てられた駐車場に、お父さんが車を停める。

 見渡す範囲には楕円だえん形の池が3つ。2つには人が何人か入っているが、もう1つは閉鎖中なのか、人の姿はない。

「どうして池2つしか使ってないんだろ?」

 私は隣に立つ克之にそう質問した。

「多分、フライ用とルアー用で1つづつ使って、残りの1つは調整中なんじゃないかな? 何日かおきで、使う2つと調整の1つをローテーションするとか…」

「ふーん。フライって、あの毛鉤けばりみたいなの?」

「そ、海外版の毛鉤けばり。道具高いし、やれる場所が結構限定されるから、オレはやったことないけどな。でも見てると楽しそうだし、カッコいいし、オレもいつかはやってみたい」

 克之はワクワクした様子でそう言う。

 へー、意外。釣りバカ克之にも、「やってみたいけどやったことがない」釣りってあるんだ。それにああやって子供みたいな顔して未来の夢を話す克之は、なんだかスゴくカワイかった。

「さあ、行こうか、みんな」

 お父さんに促されて建物に入り、受付を済ませる。

 道具がない人にはレンタルもしてくれるみたいだけど、私と智也はお父さんから、克之は克パパからと、それぞれタックルを借りて来ていた。お父さんは今日はコーチに徹して参戦せず、だ。

 受付での説明では、やはり克之の言う通り2つの池をルアー用とフライ用に分けてあるようだった。私達はもちろんルアー用の池に向かう。

 土曜日ということもあって、池には既にかなりの数の人が入っていた。

「和泉君、今日私は瑞季に教えなくちゃならないから、すまないが智也の面倒をお願いできるかな?」

 お父さんが克之に声を掛ける。

「もちろん、了解です!」

 克之はおどけて敬礼して見せながら答えた。

 克之と智也は頷き合うと、池の反対側の比較的人の少ない方へと並んで歩いて行く。その光景を後ろから見ていると、まるで仲のいい兄弟みたいだ。

「さて、じゃあ始めるか」

 タックルの準備を済ませたお父さんが言った。

「うん」

 よく考えたらお父さんに何かを習うなんて初めての経験だ。スゴくワクワクする。

「管理釣り場には大きく分けて2つのタイプがあって、ここみたいな池になっているタイプを『ポンド』、自然の川を仕切って魚を放流しているような場所を『ストリーム』って言うんだ」

 それを聞いて、私はちょっと不安になった。

「あれ?先輩のところって、どっちのタイプなんだろう?」

 私がそう呟くのを聞いて、お父さんは笑いながら言う。

「心配ない。千葉県にある管理釣り場はほとんどがポンドタイプだ。ちゃんとホームページも確認してるし」

 そう言ってお父さんはスマートフォンを操作し、私の方に画面を向けた。

 表示された画面には「井原フィッシングパーク」というタイトルロゴの下に、ここと同じような池の画像がデザインされている。

 うん、さすが私のお父さん、頼りになる!

 私が安心した様子なのを見て、お父さんは説明を続けた。

「管理釣り場でのニジマス釣りに使うルアーは、ほとんどの場合がスプーンだ。本当は10色以上カラーを揃えたいが、まあスターターセットとしてはこれくらいでいいだろう」

 そう言って、お父さんは自分のバックからピンクの迷彩柄めいさいがらをしたポーチの様なものを取り出すと、私に手渡した。

「プレゼントだ」

 その言葉にお父さんの顔を見上げると、お父さんはニッコリと笑顔で開けてみるよう私をうながす。

 私はサイドのファスナーを開け、ポーチを開いた。

「わあ…」

 2つに開かれたスプーンウォレットの中には、ウレタンのパッドの上に並べられて14個のスプーンが収まっている。赤、青、黄、金、白、銀と赤のツートーン、銀と青のツートーン。それぞれが2つづつ。

「綺麗………。 ありがとう、お父さん」

 お父さんは私のお礼に嬉しそうに頷いて見せた。

「上の段が1.6グラム、下が2.6グラムだ」

「重さが違うの?」

 私の質問に、お父さんは頷いて答える。

「管理釣り場では、ルアーが通るタナが重要だからね」

 タナ………? 棚? 店? ………多菜?

 うん。最後は絶対違う。

「タナっていうのは水深のことだよ。シビアな時には、魚がいる層から数センチずれているだけでも釣れないことがある」

「そ、そんなビミョーなの!?」

 私はビックリして思わず大声で聞き返した。

「うん。ビミョーだな」

 お父さんは苦笑いしながら、「ビミョー」を言いにくそうに発音する。

「でも、そんな少しの差でも釣れないんじゃ、重さ2種類だけじゃ足りないんじゃないかな…」

 私はちょっと心配になった。

「だから、投げてからしばらくリールを巻かずにスプーンを沈めたり、巻く速さでタナを調節したりするんだ。どっちにしてもそういうテクニックはいずれ必要になる」

 お父さんは自信なさげな私に、ちょっと厳しめの口調になって言う。

「うん」

 ちょっとションボリした私を励ますように、お父さんは打って変わって明るく笑いながら言った。

「心配しなくても、瑞季にもすぐ出来るようになるさ。何せあの子の彼女なんだから」

 そう言うお父さんの視線を追うと、向こう岸で克之がかなり大きなニジマスを釣り上げたところだった。

 ずるい!自分ばっかり釣って!

「お父さん! 早く、私も!!!」

 俄然がぜん闘志が沸き上がって来てそうせがむ私に、お父さんは嬉しそうに笑って頷いて見せた。

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