#1
11月中旬、土曜日。
今日もすごくいい天気。お日様に当たっている時はポカポカするけど、ふっと雲が太陽の前を通り過ぎたりするとちょっと肌寒い。
克之の後についてコイ釣りに来たのはいいけれど、ちょっと服装で失敗したかも。
釣りの時は必ず着るものを一枚多く持って来いって、克之が言ってた理由が分かった。暑ければ一枚脱げばいいだけだけど、寒い時にそれ以上着るものがないともうどうしようもない。
「寒い」とか言ったら、「だから着るもの多めに持って来いって言ったろ!?」って怒られるのかなぁ? そんなことを考えながら、私は隣に座る自分の彼氏をチラリと盗み見た。
今となりに座ってる私の彼氏、和泉克之は、普段まったくおとなしいというか、気が弱いとさえ言える性格なのに、私の安全とか健康のことになるととたんに厳しくなる。初めて一緒に釣りに行った時も、肌の露出が多過ぎて虫や紫外線にやられるってすっごい注意された。
自分の彼女の服装に、かわいさとかより実用性を要求するヤツなんて、きっと世界中探してもコイツだけだよ。男子って、女の子が露出度高い服着てきたら喜ぶもんじゃないかな? 普通。
顔も平凡。スポーツも体育とかで目立っているのを見たことがない。
ただ勉強は学年でもトップクラス。一学期の定期テストは2回とも5位以内に入ってたし、二学期の中間ではなんと学年1位だった。そういうとこは、やっぱりちょっとカッコイイと思う。
他の女子達は勉強ができることを「カッコイイ」とは思わないみたいだけど、周りに価値を認められないことでも、自分が「やらなきゃ」と思うことは迷わずやる。そういうのってすごくイイと思う。
あ、「周りが価値を認めない」って言えば、釣りもそう。
周りの男子達の興味がゲームやパソコンなんかにどんどん移って行って、学校で話題が合う友達がいなくなっても克之は釣りをやめない。
私には何となく分かってる。いつか克之が連れて行ってくれた北見貝塚の博物館。そこで克之は縄文時代の動物の骨から作った釣り鉤をじっと見てた。
克之が釣りにのめり込む理由は、他の人達とはちょっと違うんだ、きっと。
隣の克之が急に立ち上がって、着ていたアーミージャケットを脱ぎだした。お父さんのお下がりの、イギリス空軍仕様だって自慢してたやつ。
え、なになに!?いくら2人きりだからって、まさかこんなトコロで?私にだって心の準備が!!!
そんな私の的外れな動揺をよそに、克之は私にジャケットをそっと着せかけてくれた。
…それはそうだよね、いくらなんでも。私達、まだ中学生だし。
「だから言ったのに」
溜め息をつきながら、あきれたような口調で克之が言う。
「ごめん。アリガト…」
私が寒そうに腕をさすってる様子に気付いたみたい。
やっぱり私のカレは優しい。
顔だって平凡って言えば平凡だけど、よく見るとなんかお腹を空かせた仔犬みたいなカワイイ顔してる。スポーツだって、アメリカでは釣りもスポーツって認められてるみたいだし。
私のカレには、私しか知らない素敵なところがいっぱいある。
やっぱり私、克之のことが大好き。