大団円 其の七 大団円(本当の最終話)
最終話です。
長い間、お読みいただき、まことにありがとうございました。
今、楠見たちは地球へ戻っている。
楠見とプロフェッサーにとっては懐かしの故郷ではあるが、他の者たちには違う。
「へぇ……近場だと乗り物を選べるけれど、星を出るとか以上になると必然的に転送ネットワークで、って話になるのね。すごいわ、氾銀河文明圏って。これが銀河系含む銀河団の八割近くまで勢力圏を拡げてるなんて、もう奇跡的よね!」
とはマリーの弁。
エッタはと言うと、
「ふーん……この辺近くに元の主人、精神生命体の気配を感じますね。今では管理者の一人として真面目に自分の管理スペースを見守ってるんですね、あの引きこもりニートも。立派になったもんだわ」
おいおい、自分の創造者に対して、それはないだろうと思う楠見だが、間違ってはいないので何も言わないでおく。
「うわうわうわ、あっちにもこっちにも、不定形生命体の仲間がいるー!なんでー?私のいた頃には、ほとんど出不精で地中に隠れ住んでたのにー!まあ、他の生命体と交流する気になったのは良いですけどね」
と、これはライムの素直な言葉。
おっかなびっくりでも星の外へ出る気になっただけ偉いよな、不定形生命体。
「スゴイですね、師匠。地球のエスパー発生率は今や三割を越してるそうじゃないですか。とてつもないエスパーの天国ですよ、ここ。普通にテレパシーと音声言語で話してるし高度なBランクやAランクエスパーがゴロゴロいるなんて夢のような世界だ……」
そういう郷に対し、楠見は訂正を入れる。
「郷、それは少し違う。Sランクのエスパーだっているけれど、Sランクだと分かったとたん、有無を言わさずに専用の教育機械で専門課程の情報を入れられて、学生を卒業したらすぐに周辺銀河の探査チームに入れられるんで、地球にはSランクエスパーはいないんだよ、普通。ちなみに、サイコキネシス持ちでもテレパシー持ちでもSランクだと同様なものらしい……さすがに、俺みたいな超天才・テレパシー・サイコキネシスの三種類で全てSクラスというのは未だに誕生してないらしいが……」
「じゃあ、父さん並みとは行かないまでも、郷さんなら?確かテレパシーもサイコキネシスもSクラスだって言われてたよね。あいにく超天才は無かったようだけど、それでも再生能力って無二の才能があるじゃないですか」
太二の発言に今度は郷が、
「あのなぁ、太二くん。地球でのサイキック測定器の都合で俺はサイコキネシスとテレパシーがSクラスだと言われたが、こっちの師匠と比べられるものじゃないだろ。念ずるだけで太陽すら砕く力の持ち主の前じゃ俺なんか羽虫に等しいんだ。テレパシーだって、こっちは目の前のコミュニケーションがうまく行くってレベル、師匠のは銀河や銀河団単位で種族的な思念まで受け取れるんだから……壁が高すぎるんだよ」
「なーに言ってるんだ、郷。俺との比較じゃなくて一般的に見たら、お前のほうが実用的だろうが。洪水や津波で被害受けた地域へ緊急出動した時、お前のほうが現場では活躍してたじゃないか」
そういう楠見だが、
「なに言ってるんですか、一番の功労者が。俺は被害者捜索で広範囲にサイコキネシスフィールド使ったけど、それまで師匠はその後に来てた津波そのものを抑えてたでしょ。誰も気づかなかったようだけど、俺は横ですごい力が使われてるのを感じたんですからね」
「ははは、やっぱ気づいてたか。本震後、30分ばかり余震のでかいやつが続いてたんで、津波発生そのものをしばらく抑えてた。さすがに星の力だねー、スゴイものがあったよ」
「と、晴れ晴れとした顔で言われてもなぁ……まあ、太陽を砕ける力の持ち主なら、そんなもんか」
「僕は、この星の古武術に興味がありますね。父さんに鍛えてもらったせいもあるけど古武術のほうが体の動きに整合性があって、まさに一撃必殺の趣がありそうだ」
「おいおい、太二。頼むから一子相伝の秘術とか言って、指一つで相手の体を爆発させるような事には、ならんでくれよ。技の完成度と言うよりも学んだ武術の多彩さにかけては、お前のほうが俺よりも多くて幅広いんだ。何処でどう間違って多種の武術から新しい必殺技が生まれるか分からんのだぞ」
「いやいや、父さんこそ。父さんの独特の投げ技、異次元スープレックスだけは僕にも会得できなかったんで。あれは教えることも不可能なんだって?」
「そう……覚えるとしたら、数年間は座学だな。超空間と言うか、異次元の空間特性と、それが三次元と交わるときの「存在しえない角度」を完全に理解しなきゃ、あれは成功しない。つまり、ただ受け身が絶対にとれない投げ技になるだけ。アレが成功するとき、相手はこの世から消えてしまう……冗談じゃないぞ、これ。今まで俺も20回ほど成功させてるが、相手が異次元へ引きずり込まれる感覚が独特でな。一瞬早く救い出したが、そのままだったら文字通り、相手は消えてた……」
「ぶるる……覚えたいような、覚えてしまうと人間をやめてしまうような……」
そんな会話をしながら楠見たちは普通に日常生活を送っている。
とは言うものの、何らかの災害や重大トラブル発生時は呼び出されているようだが……
ちなみに楠見を絶対的な君主と認識する機械生命体は地球の周辺宙域にあるスペースコロニーに駐留武官を含む大使館を持っており定期的に「楠見詣で」をしてきている。
実際には面会と行動記録の聴取という名目で、ひと目だけでも伝説の始祖種族の忘れ形見に会いたいということなんだろう……
楠見たちが銀河系に戻ったという情報は、それこそ光よりも転送機の速度よりも素早く氾銀河文明圏を駆け巡った。
最初の数十年間、彼らの一挙手一投足は全てメディアの3Dカメラに収められ、あちこちの銀河で、それを収めたデータチップが爆売れになってしまい、データチップの生産が間に合わなくなってしまう事態にまでいってしまい、慌てて氾銀河行政府が1家庭に一つまでという購買制限をかけねばならぬところまで行く。
それにも増して、氾銀河文明圏の中ではなく、その周辺銀河にも楠見が戻ったと知れ渡ると、わざわざ遭難の危険を犯しても氾銀河文明圏へ加盟したいと申告しに来る者たちが、それこそ銀河単位でやってくるようになり、今では、もうすぐ銀河団の8割を突破するところまで来ているという。
「これで氾銀河文明圏が銀河団と重なれば、ついに氾銀河文明として管理者に銀河団を渡る許可がでるかも」
楠見は気楽に思っているようだが管理者の側から考えると条件さえ整えば、すぐにでも銀河団渡航許可を出したいところ。
管理者側としても平和であることを前提とする氾銀河文明が銀河団を越えるのは大歓迎である……
特に、楠見がいる今現在は。
「管理者の立場から考えると今から楠見さんと仲良くしておいたほうが、多少の無理や無茶も聞いてもらえるってことじゃないかしら」
マリーの指摘はごもっとも。
管理者側としてもベースとして楠見には一定のポイントに居てほしいが、あまりに長く特定ポイントに居られるとマズイ事態が起きかねない……
「多分、師匠の力と精神力が管理者の予想を超えてるんで地球に異変が起きるとでも思っているんじゃないかな?」
郷が、こう言ったことがあるが実は、もう地球の異変は起きつつある。
地球に限らず銀河系周辺のエスパー発生率の異常な高さが、その一つ。
この分では楠見以来のSSSクラスが登場するのも時間の問題だろう。
そして、もう一つ。
管理者たちも、その上位者すら気づいていないが、次元を超えた遥かな高みで、この3次元という低級次元に注目するもの、いや、存在がいた。
久々に出現した宇宙の卵の設定者。
めったに現れることのない事態と人物に、その存在は気を引かれ、詳細を観察し、その生命体の行動と軌跡に注目する。
今はまだ自ら手を出すことはないが、そのうち、この存在が楠見たちに手を出してくることは必然的とも言える。
楠見たちは、そこまで大きなことになっているとは露ほどにも思わず、休暇と仕事に精を出すのだった……
全話、これにて終了!
長い長い物語にお付き合いいただき、深い感謝の念と、この一言を贈らせていただきます。
ようこそ!大宇宙へ
ありがとうございました。
作者、稲葉小僧 拝
さて、中断してるホラーやファンタジーの創作に取り掛からねば!(笑)
作者、稲葉小僧は消えませんよ!(笑)




